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小児心臓外科

対象疾患・治療法
大動脈弁狭窄症(AS)

大動脈弁狭窄症(AS)

背景

大動脈弁狭窄というのは全身に血液を送り出す左心室の出口が狭い状態をいうのですが、先天性といって、生まれたときからずっと狭い場合と、後天性といって、もともとは狭くなかった弁が年齢とともに動脈硬化が進んで、弁のひらひらが堅くなったりして狭くなる場合があります。また先天性の場合でも、狭窄の程度が成長とともに相対的にきつくなっていく場合と、逆に軽くなっていく場合、などいろいろです。また一番狭い場所によって、弁性狭窄(弁自体が狭い)、弁下狭窄(弁のひらひらのしたに筋肉の張り出しがあって狭い)、弁上狭窄(弁を通り過ぎたあとの上行大動脈が狭い)。といった場所による違いもあります。また先天性の狭窄の場合、本来3枚のひらひら(弁尖という)でできている弁が2枚しかない子供もいて、それを二尖弁とよんでいますが、二尖弁の場合には、加齢とともにいずれかは狭窄が進行しやすい場合が多いです。また弁性狭窄があるとそのあとの上行大動脈は逆に太くなる場合があり、それは狭窄後拡張とよばれ、程度がきついものは上行大動脈瘤とよばれます。

症状、経過

大動脈弁狭窄があると、血液が狭いところを通り抜けるために、乱流がおこり雑音を生じるため、聴診器をあてると異常を検知できます。大事なことは、心臓の病気というのはよほど末期あるいは重症にならないと症状としては現れてこないということです。心臓というのは大変余力をもって普段働いているので、心臓が原因で症状が出てから治療したのでは、治療後も心臓の機能低下が残ってしまうことがあります。ですから大動脈弁狭窄に関しては、治療が必要かどうかということは、症状の有無からだけでは決められません。検査(心臓超音波検査)をして、弁の狭窄がどの程度であるかということで、治療方針を判断します。一方より重症の大動脈弁狭窄症は新生児~乳児期に発症し、息が速い、脈が速い、ミルクを飲むのがしんどそう、体重が増えないといった心不全症状が出現します。最重症の先天性大動脈弁狭窄の場合には、生直後から高度の心不全を来すため、呼吸も自分ではできず人工呼吸治療が必要で、早急な処置が必要となります。

血行動態(血液の流れ)

左心室の出口が狭いと、そこで血圧の差が生じてきます。そしてそこを通り抜ける血液の流速が早くなるので、超音波で診断がつくのです。大動脈の血圧は普通われわれが健康診断ではかる血圧と同じで正常が100から120(収縮期)mmHgといったところですが、大動脈弁狭窄があるとその血圧を出すために左心室がそれ以上の血圧で収縮することになります。たとえば150mmHgとか。そうして左心室は高い血圧で収縮するために左心室の壁が分厚くなることで適応します。これを左心室の肥大とよんでいます。通常ですと左心室の筋肉の壁の厚さはだいたい1cmぐらいですが、肥大が進んでくるとだんだん分厚くなり2cm以上に達することもあります。また体が安静にしてるか運動しているかによっても血圧差はかわってきます。じっとしているとたいしたことない狭窄も運動時にきつくなります。だいたい安静にしていて50mmHgを超えるようだとなんらかの外科的な処置が必要といわれています。心臓の筋肉は左冠動脈、右冠動脈とよばれる2本の太い血管によって養われています。心肥大によって筋肉の壁が分厚くなりすぎると、冠動脈によって供給される血流では不十分となるため、心臓は栄養・酸素不足の状態(心筋虚血)になります。特に運動時など酸素需要が高まったときに、心筋虚血を来すと胸痛、失神といった症状になって現れてきます。

診断

超音波の検査は聴診器をあてるのと同じでまったく侵襲はありませんし、患者さんの状態や、検査をする人によって多少変化がありますから、もし治療が必要となったら、1回の検査ですぐに結論を出すのではなく普通は何回か検査をします。また子供さんの場合は成長とともに変化することが多いので、普通は年に1回位のペースでfollowすることが多いです。狭窄の程度はその血圧の差でもって表現されることが多いです。エコーでみる血液の流速(m/秒)の二乗かける4で血圧差(mmHg)がわかります。もし超音波検査で精密検査が必要となった場合は、次は心臓カテーテル検査といって直接血圧をはかったり、造影剤で出口の形を映画にとってみたりする検査になります。

治療

大きく分けてカテーテル治療と手術治療とがあります。カテーテル治療は経カテーテル的に専用のバルーンを大動脈の弁のところで膨らませることにより弁を裂開します。大きく広げすぎると、狭窄は解除されても逆に弁がうまく閉じなくなる大動脈弁閉鎖不全症を来す可能性があるので、適切な大きさのバルーンを選択する必要があります。手術治療にも大きく分けて、自分の弁を残して弁のひらひら(弁尖)同士の合わさり目のところ(交連)を切って広げる交連切開術という方法と、自分の弁を切除して取り替えてしまう、大動脈弁置換術があります。交連切開術においても切り広げすぎると弁逆流を来すのでうまく調節する必要がありますが、自己の弁を温存する手術なので、赤ちゃんに手術してもその後成長に合わせて弁が成長していってくれる利点があります。ただし弁の形態異常が強い弁の場合は、弁の狭窄をある程度残さざるを得ないため、再手術が必要になる場合があります。もうひとつが弁置換術です。自己の弁を取り替える人工弁にはカーボンという金属でできた機械弁と、動物の生体材料でつくった生体弁の2種類ありますが、残念ながらこれだけ科学が進歩しても、自己の弁の代わりとして申し分ない理想的なものがなく、生体弁にも機械弁にも利点と欠点があります。機械弁は血液を凝固させる性質があるので、ワーファリンという血液を固まりにくくする薬を飲み続ける必要があります。生体弁はワーファリンを飲む必要はありません。しかし10年~15年たつと弁の機能が悪くなり再置換しなくてはなりませんし、小児期では石灰化といって弁が骨の様に固くなる変化が起こりやすいので機能不全の発生がさらにもう少し早いため通常は選択しません。それと小児期に人工弁を植えた場合の大きな問題は、成長に伴って相対的にだんだん弁が小さくなるということです。ですから手術のときはできるだけ大きな弁を入れられるように、場合によっては自己の弁のひらひらをきりとるだけでなくひらひらをささえる大動脈の壁も切ってひろげる手技(弁輪拡大術)を加える必要があります。あともうひとつの選択肢は、自己の肺動脈を切り取って大動脈にもってくる手術=自家肺動脈弁移植術(Ross手術)です。これはイギリスの外科医Rossがまだ人工弁も無かった1960年代から開発して多く行った方法です。自分の肺動脈弁をもってくるので、ワーファリンを飲む必要がなく、しかも小児期あるいは乳児期に手術をしても植えた肺動脈弁が成長に合わせて大きくなってくれるという大きな利点があり、最近見直されている方法です。ただし切りとった肺動脈のところにもなんらかの弁をいれる必要があるということが欠点です。欧米ではここに亡くなった方の弁を取り出して凍結保存した人間の弁(Homograft)を用いています。Homograftは現時点ではもっとも長持ちするので良いのですが、日本ではHomograftの製造が普及しておらず、輸入にたよるか他のもので代用することになります。以上、いずれの方法にも利点、欠点がいろいろあるので、よく相談して、個々の患者さんに応じた最良の方法を選択する必要があります。

治療後経過

狭窄の程度が軽く、治療せずに経過をみる場合でも、定期的に検査をしていく必要があります。子供さんでは運動や日常生活に制限が必要な場合とそうでない場合があります。日常生活に制限がなくても、なんらかの狭窄があり血液の乱流が有る場合には、抜歯などの歯科治療や、心臓以外の病気でなにか手術を受ける場合、大きなけがをした際には、感染性心内膜炎を予防するために、抗生物質の投与が必要です。バルーン拡張や交連切開術で治療後も狭窄ないし逆流が残っている場合には、定期的な検査が必要で場合によっては心臓の負担を減らす薬を飲む必要、あるいは再手術の必要となる場合があります。人工弁置換後(機械弁)は、ワーファリンという血液を固まりにくくするお薬を飲む必要があります。飲んだり飲まなかったりというわけにはいかず、欠かさず一生飲み続ける必要があります。ワーファリンはちょうどよい効き具合のところに調整するためプロトロンビン時間という血液検査を定期的に受けて飲む量を調整する必要があります。また他の薬の影響で効き目が変わることがあり、心臓以外の病気で医者にかかる場合にも注意が必要になります。また女性でこれから赤ちゃんを希望されている場合はワーファリンに催奇形性があるとされているので、注意が必要です。その他人工弁置換術後にはいろいろな注意点があるので、詳しくは担当の医師によく相談して本人および親御さんはよく理解しておく必要があります。しかし人工弁置換後の患者さんもいろいろな注意点を守っていれば通常の発育発達、普通の日常生活を送っていただくことが十分に可能です。

最終更新日:2021年10月08日

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