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小児心臓外科

対象疾患・治療法
大動脈縮窄症(CoA)

大動脈縮窄症(CoA)

背景

大動脈縮窄症は、心臓の左心室からでた大動脈がヘアピンカーブを描きながら首と腕にむかう大きな3本の枝を出した直後のところで狭くなっている状態です。心臓内の疾患を伴い乳幼児期から症状を来しやすい大動脈縮窄複合と、心臓内の疾患を伴わない単純型大動脈縮窄があります。どうしてそのようなところが狭くなるのでしょうか?大動脈縮窄を来す大動脈弓のヘアピンカーブの第3コーナーの内側と肺動脈との間にはだれでも胎児のときに動脈管とよばれる血管が通っています(→ 動脈管開存症参照)。動脈管は生直後の十数時間の間に自然に縮んで閉じてしまうのですが、大動脈縮窄症は動脈管につながる大動脈の壁まで、縮む運命にある動脈管の壁でできているため起きるのではないかといわれています。

症状、経過

大動脈縮窄複合と単純型大動脈縮窄ではずいぶん症状や経過が異なります。心臓内部にも先天性心疾患を伴う大動脈縮窄複合はより重症です。大動脈縮窄複合に合併する心疾患は心室中隔欠損が最も多いですが、心不全症状の出現は通常の心室中隔欠損に比べて早く、新生児期(通常生後3週以内)から症状を呈してきます。すなわち息が速い、脈が速い、ミルクの飲みが悪い、寝汗などです。さらに動脈管ショック(後述)を来すと急速に状態が悪化します。
一方、単純性大動脈縮窄症は小児期を無症状で経過することも多く、高血圧を指摘され病院の診察でみつかることがあります。大動脈縮窄症の場合高血圧を来すのは腕の血圧だけで、足の血圧は逆に低くなります。

血行動態(血液の流れ)

大動脈縮窄複合の場合、大動脈の狭い部分は大動脈弓全体におよぶことが多く、太い動脈管を伴っています。縮窄の程度にもよりますが、縮窄が強い場合は左心室から上行大動脈へ送られた血液は主に上半身だけを流れ、下半身へは肺動脈から動脈管を通る血液によりまかなわれます。肺動脈には心室中隔を通った赤い血と全身から還った静脈血が一緒になって送られてくるため、大動脈縮窄複合の赤ちゃんは下半身にだけチアノ-ゼが出るのです。心室中隔欠損があると肺動脈の血流が多く肺高血圧を来していることから、動脈管が開存している間は大動脈縮窄があっても下半身の血圧は肺動脈圧と同等に維持されます。しかし動脈管が閉じてくると下半身に血液が流れなくなるため下半身の血圧が下がり尿量が低下し、下肢のつけねの脈が触れなくなります。この状態を放置すると赤ちゃんは急速に状態が悪くなります(動脈管ショック)。
単純性大動脈縮窄症では狭窄部の血圧差が下半身と上半身の血圧差となって現れ、上半身の高血圧症を来します。血圧をコントロールするホルモンが腎臓で作られるのですが、腎臓を養う腎動脈(もちろん心臓からみて狭いところのむこうから出ている)の血圧が低いと、ホルモンを通じてもっと血圧をあげろという命令を出して腎動脈の血圧を正常に維持しようとするため、上半身の高血圧症を来すのです。心臓は高血圧に対抗して血液を送り出すために左心室の筋肉の壁が分厚くなって対応します(左心室肥大)。また長年上肢だけの高血圧状態が続いていると、本来の大動脈の細い部分バイパスして肋骨や胸の壁の間をはしる動脈などが太く発達して、下半身への血流を維持しようとします(側副血行という)。

診断

大動脈縮窄複合の場合、新生児期から心不全症状、下半身のチアノ-ゼを呈します。動脈管性ショックの時は腕と足で血圧の値に差が生じ、大腿の付け根の脈の触れが悪くなります。胸部X線でも著明な肺欝血像、心拡大がみられます。心臓超音波検査により診断が確定しますが、手術に際しては大動脈の造影検査、心臓カテーテル検査を行い術式を決定します。動脈管性ショックの時はアシドーシスといって血液が酸性に傾いたり腎機能の悪化や腸管壊死・敗血症を来しやすく厳重に対処する必要があります。
単純性大動脈縮窄症は、上肢だけの高血圧を来たし、下肢の血圧が低い場合まず本疾患が疑われます。先天性の疾患ですから、比較的若年で高血圧を来たしている場合にはこの病気を念頭において、一度は腕だけではなく足でも血圧をはかってみることです。高血圧の影響で、左室肥大を来すことから心電図検査でも異常が出ますし、聴診器を背中にあてると大動脈の狭いところを通り抜けるしゅっしゅっという音が聞こえます。心臓超音波検査により診断が確定しますが、カテーテルによる風船治療や手術の術式を決定するにあたっては心臓カテーテル検査を行い、大動脈造影検査で形態について詳細に検討します。

治療

赤ちゃんで大動脈縮窄複合と診断されたらすぐにプロスタグランディンといって動脈管開存を維持する薬を点滴投与を開始します。また心不全に対して強心剤や利尿剤も投与します。それでも心不全症状が続く場合には、躊躇無く人工呼吸器の補助を開始します。したがって診断がつけばほとんどの場合新生児集中治療室での管理になります。内科的な管理で全身の状態を落ち着けてから手術をする方が良好な術後の回復が期待できますが、プロスタグランディンの投与を開始しても超音波検査で動脈管の血流が回復しない場合は緊急手術を行います。手術は人工心肺装置を用いて大動脈縮窄と合併する心疾患を一度に直す場合と、人工心肺を用いず先に大動脈縮窄だけ修復して後から心臓を直す場合があります。また大動脈縮窄の修復方法は、大動脈弓部の3番目の枝の動脈(左鎖骨下動脈)の壁を狭いところのあて布材料に用いる方法と、大動脈弓部の枝にはさわらず狭い部分の大動脈を切り取って切り端同士を直接ぬいつなげる方法があります。いろいろな術式の中から患者さんの状態や合併する心疾患に応じて決定されます。
単純性大動脈縮窄症においては狭窄部前後の血圧の差が30mmHg以上あれば治療の必要があります。小児期、成人期の単純性大動脈縮窄に対する手術治療の成績は良好で(死亡率1%以下)術式は、狭窄部切除端々吻合、パッチ拡大術などが行われます。バルーンカテーテルを用いたカテーテル治療も試みられていますが、手術の既往のない単純性大動脈縮窄症では大動脈瘤をきたすなどの合併症があることからあまり一般的ではありません。一方大動脈縮窄修復術後の最狭窄に対してはバルーン拡大術が行われ、成長期をすぎた例では再狭窄を来しにくいステントを用いたカテーテル治療も試みられています。

治療後経過

新生児期手術例では術前に動脈管性ショックを来していると術後も腎不全が続くことがあり新生児小児科医のもとに集中治療が必要となります。また上行大動脈から大動脈弓部にかけてずっと細い症例では大動脈縮窄修復後もなんらかの狭窄が残存することがあり、フォローアップが必要です。単純性大動脈縮窄症では手術で狭窄部の血圧差が十分に解消された後でも、術後も高血圧がすぐに正常化せず高血圧が継続する場合が多いことが知られています。そして術前の高血圧の状態が長年であればあるほど、術後の高血圧も長く継続するとされています。この場合血圧を下げる薬の内服が必要です。

最終更新日:2021年10月08日

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