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血管外科

対象疾患
マルファン症候群

マルファン症候群

1.マルファン症候群とは

遺伝子の異常によって細胞の間を埋める結合組織に障害が生じることで起こる様々な疾患です。1896年にフランスの小児科医アントワーヌ・マルファンが報告したことから命名されました。歴史的に有名なのはリンカーン大統領ですが、最近では高身長の人が多いスポーツ選手に見られることで広く知られる病気になりました。
結合組織はからだ中のあらゆるところにありますが、大動脈に障害が起こると大動脈瘤や大動脈解離といった病気になり、心臓では僧帽弁逸脱症による僧帽弁逆流をきたすことがあります。骨に異常をきたすと、四肢や指が長くなり、漏斗胸や側弯症を起こします。眼では水晶体亜脱臼、肺では気胸などの障害につながります。
マルファン症候群は常染色体優性遺伝疾患で、マルファン症候群の親からマルファン症候群の子どもが生まれる確率は50%で、男女差はありません。日本には約20,000人のマルファン症候群の患者さんがいると言われています。75%は親から遺伝して発症していますが、両親のどちらもがマルファン症候群ではない突然変異による発症が25%を占めています。

2.マルファン症候群による大動脈の病気

心臓や血管の病気、筋肉や骨の異常、眼の病気を合併することが特徴的ですが、中でも大動脈の病気は、直接命に関わる病気です。
大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三枚の膜でできていますが、マルファン症候群では中膜の結合組織が弱くなります。(中膜壊死)弱くなった大動脈の壁に亀裂が入れば急性大動脈解離を発症して激烈な痛み(胸、背中、腰など)を伴います。また、弱くなった大動脈の壁に血圧が常にかかるため、徐々に血管が膨らんで大動脈瘤になることがありますが、全く無症状のまま経過することがほとんどで、激烈な痛みを伴って破裂してから診断されることもあります。(胸部大動脈のページを参照して下さい。)
急性大動脈解離は60歳以上、特に70歳代に多い病気ですが、マルファン症候群の方では20歳代から30歳代で発症することが多く、これらの年代で発症する急性大動脈解離の多くがマルファン症候群の方です。大動脈解離を発症したことがきっかけとなってマルファン症候群と診断されることもよくあります。
マルファン症候群の方で胸部から腹部にかけて広範囲に大動脈解離が及ぶと、もともと大動脈が弱い上に、比較的若い時に発症するために経過が長くなり、複数回の手術が必要になることがあります。結果的に胸部から腹部の大動脈全体が人工血管に置き換わることも稀ではありません。
家族の病歴や身体的な特徴からマルファン症候群が疑われる場合には検査を受けておくことが大切です。急性期にスタンフォードA型大動脈解離に対する手術を受けたり、スタンフォードB型大動脈解離の治療を受けたりした後も、定期的にCT検査を受けて、慢性期に解離性大動脈瘤として手術を受ける時期を逸しないことが重要です。解離性大動脈瘤では一般的な大動脈瘤よりも早期に破裂防止のための手術を行っており、マルファン症候群の方ではさらに早期に手術を行なっています。
大動脈解離を起こしていなくても大動脈瘤になりやすい部位があります。心臓(左心室)から送り出された血液が逆流しないように大動脈弁がありますがその周りは少し膨らんでいます。(バルサルバ洞)そのすぐ上から心筋に血液を送る左右の冠動脈が分枝しています。この大動脈の根元の部分を大動脈基部と呼び、マルファン症候群の方では拡張することが多い場所です。拡張すると大動脈弁の周りが拡大して(大動脈弁輪拡張症)、大動脈弁が閉鎖しなくなり、大動脈弁逆流を起こして心不全になります。また、大動脈基部が大きくなると破裂や解離を起こしやすくなります。このため、大動脈基部が45㎜を超えると手術を行いますが、妊娠を希望する女性やロイス・ディーツ症候群では、破裂や解離のリスクが高くなるために40mmで手術を行うこともあります。
大動脈基部の手術は、大動脈弁と冠動脈の再建が必要なことから複雑な手術になります。大動脈弁は人工弁に置き換えることが一般的ですが、機械弁を用いると抗凝固薬であるワーファリンを服用する必要があり、特に妊娠を希望される女性には不向きです。また、生体弁は改良されたとは言え耐久性が10年から15年と言われており、将来、再手術が必要になります。このため、国立循環器病研究センターでは可能な場合には自分の大動脈弁を温存するDavid手術を積極的に行なっています。

3.マルファン症候群が疑われたら、、、

マルファン症候群についての知識が普及していますが(特定非営利活動法人 日本マルファン協会)、家族の病歴や身体的特徴からマルファン症候群が疑われる場合には専門医の診察を受けておくことが大切です。国立循環器病研究センターでは、結合織病外来で遺伝子診断を含めた様々な診療を行なっていますので、ご相談ください。

参考

細胞の間を埋める結合組織とは組織を構成する蛋白質のうち、強度を保持するフィブリリン1(FBN1)がマルファン症候群と関係しています。FBN1は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)というサイトカインの活性を抑制する役割も担っています。FBN1の遺伝子に異常があると、TGFβが抑制されないために強く活性化された状態となり、マルファン症候群が発症すると考えられています。FBN1の発現量が低下する遺伝子型と、FBN1の機能が低下する遺伝子型があり、発現量が低下する遺伝子型では動脈瘤の拡大が早い可能性があります。また、TGFβに関連した遺伝子の異常でもマルファン症候群に似た症状を呈することがあり、発見者の名前にちなんでロイス・ディーツ(Loeys-Dietz)症候群と呼ばれています。

図:大動脈弁輪拡張症(★)とスタンフォードB型大動脈解離(↑)を合併した患者さんの術前(左)と術後(右)の三次元CT画像
大動脈弁輪拡張症に対して自己の大動脈弁を温存するDavid手術を行なった後、B型大動脈解離に対して胸腹部大動脈人工血管置換術を行なっています。

最終更新日:2021年10月08日

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