メニュー

患者の皆様へ

脳動脈瘤

 

脳動脈瘤とは

 脳動脈瘤は脳血管の枝分かれ部分に血流負荷がかかり、血管の壁が弱くなり形成される風船状変化をいいます。決して珍しい病気ではなく、人口の3%で保有していると言われており脳ドックなどで偶然に指摘されることもあります。破れていない脳動脈瘤は未破裂脳動脈瘤、破裂したものを破裂脳動脈瘤と呼びます。未破裂の状態では無症状であることが多いですが、一度破裂してくも膜下出血を起こせば残念ながら約半数が死亡し、残り半分が重篤な後遺症を残し社会復帰が困難になる恐ろしい疾患です。このため、破裂する可能性が高いと考えられる”危険な”未破裂脳動脈瘤については治療が必要です。

未破裂脳動脈瘤の治療適応

 日本人を対象としたUCAS Japanという我が国の大規模研究では、未破裂脳動脈瘤の平均破裂率は年間0.95%となっています。破裂率は脳動脈瘤の最大径と相関することが分かっており、5〜7mm以上の脳動脈瘤は治療のお話をすることが多いです。しかし小さい脳動脈瘤でも『脳卒中ガイドライン2021における脳動脈瘤治療適応』 (表1)に記載されているように、部位(前交通動脈、後交通動脈)、不整形状などの項目が当てはまれば破裂のリスクが高いとされています。

表1 脳卒中ガイドライン2021における脳動脈瘤治療適応


 また、過去の疫学研究より報告されている危険因子をまとめたものが次の表になります (表2)。このような症例は破裂率がより高くなると考えられており、小さくても破裂する症例もときに経験します(図1)。小さくても決して絶対安全というわけではなく、しっかりと定期的に頭部画像で検診を行うことが大切です。

表2


図1. 破裂しくも膜下出血を起こした小さい(4mm)中大脳動脈瘤の一例

A. 2年前の脳動脈瘤(赤矢印)、B. 数ヶ月前の脳動脈瘤(赤矢印)。小さな不整コブ(ブレブ)が形成されており手術治療のお話をしたが経過観察を希望された。C. ブレブが破裂し重症くも膜下出血をおこされ、クリッピング術を施行した。リハビリテーションの後、自宅退院された。

脳動脈瘤の治療

 脳動脈瘤の治療には大きく分けて開頭クリッピング手術と血管内治療があります。開頭クリッピング手術は、顕微鏡で脳動脈瘤を視認し基部をクリップで閉鎖する方法です(図2)。血管内治療は最近新しいデバイスの導入が相次ぐ分野です。脳動脈瘤内にコイルを挿入する通常のコイル塞栓術(図3)に加え、バルーンやステントという金属の筒でコイルを押さえて塞栓する方法があります(図4)。

 さらに最近では当センターで新しい血管内治療デバイスを使用することができるようになり、以前は治療困難であった難しい脳動脈瘤も低侵襲に治療できるようになってきています。具体的には、下に示す、血流の流れを変化させて脳動脈瘤を血栓化させて治療するフローダイバーター治療(図5)や、ウェブ(Web: Woven EndoBridge, 図6)、パルスライダー(PulseRider, 図7)がこれにあたります。当センターでは患者さんに開頭クリッピング術、血管内治療のどちらをお勧めするかについて、全ての症例に対し両方の専門家が大勢集まった脳神経外科全体カンファレンスで偏りのない議論を行います。全身状態や動脈瘤の部位、大きさ、形などを考慮し、(1)どちらも適用可能なもの、(2)開頭手術の方が適しているもの(3)血管内治療の方が適しているもの、(4)どちらの治療法も単独では困難なものに分類します。

 我々の方針としてはまず、低侵襲な血管内治療を第一選択で考えており、(1)、(3)については血管内治療、(2)の症例は開頭手術をお勧めします。(4)については難症例となりますが、後述する当院センターの強みであるハイブリッド手術治療(開頭術と血管内治療を組み合わせた治療、後述)を考えます。

図2. 破裂左中大脳動脈瘤のクリッピング手術

A. 顕微鏡下で脳動脈瘤を露出、B. ICG (特殊な蛍光色素) で確認、C. クリップを2個使用し脳動脈瘤を閉鎖、D. 完全閉鎖をICGで確認

図3. 未破裂脳底動脈瘤のコイル塞栓手術

A. カテーテル検査で映った脳底動脈瘤(矢印)、B. コイル塞栓術後、脳動脈瘤は描出されなくなっている(矢印)、C. レントゲンで映る塞栓したコイル塊(矢印)

図4.その他のコイル塞栓手法

A.バルーンを使用したコイル塞栓、B.ステント(金属の筒)を使用したコイル塞栓

最新の脳動脈瘤治療法

・フローダイバーター(フローダイバーター)
 これまで治療困難であった大型や広頚、不整形の脳動脈瘤に対して網目の細かい金属の筒を脳動脈瘤の基部を覆うように血管の中に留置し、血液の流れを換えて瘤内への血液の流入を減らし血栓化させる新しいデバイスです(図5)。
図5. フローダイバーター

・パルスライダー(PulseRider)
 広頚動脈瘤に対してコイルの周囲血管への逸脱を防止するデバイスです(図6)。金属量が少なく抗血小板薬を早期に中止できる利点があります。
図6. パルスライダー

・ウェブ(WEB)
 袋状のデバイスを脳動脈瘤内に挿入し塞栓する新しいデバイスです(図7)。
図7. ウェブ

・ハイブリッド手術室
 当センターでは2019年7月に現在の吹田市岸辺に移転し新病院となりました。これに伴い開頭手術と脳血管内治療を同時に行うことができる最新のハイブリッド室を導入いたしました (図8)。83 m2と広い空間でベッドは多関節型の手術用ベッド台と血管撮影用のベッドを自由に切り替えることができます。

 また血管撮影装置はSiemens社の最新式バイプレーン装置を使用しています。脳動脈瘤や脳動静脈奇形に対する開頭/血管内の複合治療、くも膜下出血に対して診断から治療まで移動せずに完了することができるone-stop-shop治療など多くの症例で活躍しています。
図8. ハイブリッド手術室
開頭手術、血管内治療どちらも可能である。両方を組み合わせる治療も行うことができる最新設備です。

 

最終更新日:2023年09月22日

設定メニュー