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患者の皆様へ

補助人工心臓・心臓移植

 

薬物療法や手術など通常の心不全治療を最大限行っても改善しない難治性・治療抵抗性の重症心不全に対しては「補助人工心臓」や「心臓移植」といった治療が適応となりえます。

目次

  1. 重症心不全の治療
  2. 補助人工心臓とは
  3. 心臓移植について
  4. まとめ

重症心不全の治療

 心不全に対して、従来の内科的治療(薬物療法やデバイス治療)や外科的治療(手術)を行った上でも改善の乏しい状態を、心不全の中でも「重症心不全」といいます。心不全にもがんと同様にステージがあり、ステージDの状態を指します(下図参照)。具体的には適切な治療を行っているにも関わらず、年に2回以上の心不全入院を繰り返し、生活にも支障をきたしている状態のことを言います。ステージDの心不全の予後は非常に不良であるとされ、さらなる上級治療を行わなければ生命の維持は困難とされています(下図参照)。
 心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。心臓が何かしらの原因で動かなくなってしまい、ひとたび心不全となると、本来のポンプとしての働きができなくなってしまうため、全身に血液を送ることができなくなってしまいます。その結果、全身の血流が不足してしまい、多臓器にダメージを与えてしまいます。あらゆる治療を行ってもこれ以上回復しない状態まで心臓がダメージを負ってしまうと、心臓はポンプとしての働きをすることが完全にできなくなってしまうため、その状態から脱するためには、①外からポンプをつないで肩代わりする、②ポンプ自体を入れ替える、といった選択肢を取ることになります。具体的には、①は「補助人工心臓」、②は「心臓移植」、ということになります。

補助人工心臓とは

 植込型補助人工心臓(VAD)は、弱った心臓のかわりに血液を全身に送り出す機械です。具体的には、左心室から血液を吸引し大動脈に送血することで、左心室の機能を補助する機器であり、難治性・治療抵抗性の重症心不全患者に対して適応となる治療法です。
 従来は「心臓移植適応」と判定された方のみ受けていただくことのできる治療法でしたが、2021年5月からの適応拡大により、心臓移植適応の「ない」方に対しても、心不全の最終治療(Destination Therapy; DT)として、一定の条件を満たせば、受けていただくことのできる治療法となりました。
 実際には、体の中に血液ポンプを装着し、ドライブラインという1本のケーブルがお腹から体の外に出ます(下図参照)。体の外には、血液ポンプを動かすためのコントローラーと、電源共有のための電源バッテリーを装着することになります。充電した電源バッテリーを交換してもらいながら、日々の日常生活を送っていただくことになります。機器の取り扱いに慣れ、リハビリが進めば退院でき、環境が整えば社会復帰も可能です。植込型補助人工心臓は年々性能が向上し、現在は昔に比べて合併症も減ってきており、また適応拡大もされたことで、条件さえ満たせば、より多くの心不全の方々に受けていただくことのできる身近な治療法となってきています。

植込型補助人工心臓の適応

✓心臓移植適応の患者(従来の適応)
✓心臓移植適応相当の重症心不全であるが(年齢などの)心臓以外の理由により移植適応とならない患者(2021年5月より認められたDTとしての適応)

心臓移植について

 難治性・治療抵抗性の重症心不全患者には補助人工心臓だけでなく、心臓移植も適応となりえます。心臓移植は、弱った自分の心臓を取り出し、提供者(ドナー)から臓器提供いただいた心臓を新たに移植する治療法となります。心臓移植は重症心不全患者の生命予後、QOLを大きく改善する治療法です(下図参照)。
 我が国においては、医学的適応や長期にわたる待機期間など、ハードルの高い治療ではありますが、移植後の生存率は世界の統計と比較して良好な成績です。当院ではこれまで全国の約1/4にあたる155例(2022年3月現在)の心臓移植を行っており、10年生存率も96%と良好な成績です。(下図参照)

 心臓移植治療を実際に受けるためには、臓器移植ネットワークへの登録が必要となります。そのためは一定の条件を満たした上で判定を受ける必要があり、当院ではその評価のための検査や医学的検討も行っています。
 心臓移植後は、拒絶反応を予防するために、免疫抑制剤を内服してもらいます。また同時に感染症予防の治療も開始します。拒絶反応が起きていないかは、心臓カテーテル検査・心筋生検検査で適宜評価を行っていきます。経過に問題がなければ心臓移植後5週目に退院可能となりますが、退院後も移植後の各種治療や感染完全予防の生活習慣を継続していただきます。心臓移植を受けた患者さんの多くは定期的な通院と検査入院以外は健康な方とほぼ変わらない生活を送られており、就職が決まり社会復帰された方や、結婚し新たな家庭を築かれた方など、お元気に過ごされています。

心臓移植の適応

対象疾患:拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、虚血性心疾患など
適応条件:
✓ 最大限の内科的、外科的治療を行っても入退院を反復、もしくは運動耐容能の低下した重症心不全症例、もしくは難治性重症不整脈症例
✓ 年齢:65歳未満
✓ 心臓以外に命に関わる併存疾患がなく、心臓移植治療により大幅な予後の改善が期待できる
✓ 患者本人と家族が心臓移植治療の意味と必要性を理解し、真摯に治療に取り組むことができる
✓ 精神的、経済的にサポートできる家族の存在

まとめ

 心臓移植医療の確立、補助人工心臓の進歩により、重症心不全治療はここ数年で劇的に変化しました。心不全に対する治療選択肢が増える中、より適切なタイミングで適切な治療が提供できるよう、我々も一人一人に寄り添った情報提供ができればと考えております。いつでもご相談ください。

 

最終更新日:2023年04月05日

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