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患者の皆様へ

慢性腎臓病

 

はじめに

腎臓病はむくみや透析の原因として知られている病気ですが、最近、特に注目されていいます。実は、腎臓の機能低下や蛋白尿が、末期腎不全・透析の原因になるだけでなく、循環器病や死亡の原因にもなる事が指摘されたからです。そこで、腎臓病を早く発見して治療する事により、腎不全や循環器病の発症を阻止する事を目的に、慢性腎臓病という考え方が導入されました。わが国でも、多くの方が慢性腎臓病を有している事がわかってきました。

腎臓のしくみと働き

腎臓は背中側の腰骨の上のあたり、腸の後ろに左右に1個ずつあります。形はソラマメ型で、大きさは縦10~12cm、横5~6cm、重さは120~150gで、左腎のほうが右腎と比べて少し高い位置にあります。お互いが面する内側には腎門と呼ばれる凹みがあり、血液を送り込む腎動脈、血液が出てくる腎静脈、できた尿を膀胱に運ぶ尿管がつながっています。心臓から大動脈には1分間に約5Lの血液が送り出されます。体重の1/200以下の重さである腎臓に、約1L(約1/5)もの血液が流れています。腎臓は血液量の最も多い臓器です。これは、腎臓が全身の臓器で作られた老廃物を尿に捨て、きれいになった血液を心臓に戻すという大切な役割を担っている為です。

腎臓の構造・ネフロン

腎動脈は腎臓の中で細かく枝分かれして、ネフロンという尿を作る装置に行きつきます。ネフロンは尿を作る装置(糸球体)と、尿に不要なものを捨てたり、捨てられた有用物を尿から取り戻したりする装置(尿細管)に分けられます。1つの腎臓は約百万個のネフロンと、それを支える血管・間質などで構成されています。ネフロンはループ状に連なった毛細血管の束になったもの(糸球体)と、それを包み込んでいる風船様の中空のカプセルであるボーマン嚢と、そこから伸びる尿細管によって構成されています。腎臓に流れる血液は、糸球体に入り、血圧によって血液中の水分が濾しだされます。こうして濾しだされた水分が原尿とよばれるものです。続く尿細管では、血液から更に老廃物が捨てられ(分泌)、原尿の大部分の水分が再吸収されて血液に戻りますが、体に不要な老廃物がたくさん残り、尿となります。尿はここから腎盂、尿管を通って排出されます。

腎臓の働き

身体で作られた老廃物をろ過して、尿として排泄します
身体に不要となった窒素(N)を含む代謝老廃物を尿として排泄し、血液をきれいな状態に保ちます。これらの老廃物には、尿素窒素(BUN)(タンパク質由来)、クレアチニン(筋肉のクレアチン由来)、尿酸(核酸由来)、ヘモグロビンの崩壊最終産物など、数多くのものが含まれます。

体内の水分量や電解質の調整をしています
適量の水分や電解質(塩分、ミネラル)を排泄し、身体全体としてのバランスを保ちます。腎臓の糸球体では1日に約150Lもの大量の原尿を作ります。実際には尿細管を通過する間に約99%が再吸収され、約1.5Lが尿として排泄されます。電解質として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどがこのような調節を受けています。このように、身体の水分や電解質を調節し、血圧をコントロールします。身体の中にある体液の濃度・量の調節、血液の酸性・アルカリ性のバランスを調節します。

ホルモンを出す内分泌器官として、働いています
①ビタミンDを活性化し、カルシウムが骨に吸収されるのを助けます。②血圧の維持に重要なレニンの生産と分泌を行います。③骨髄で作られる赤血球の生産を刺激するホルモン(エリスロポエチン)の生産と分泌を行います。

慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病(CKD、Chronic kidney disease)は、アメリカで提唱された比較的新しい考え方です。わが国でも日本腎臓学会などで検討が行われました。CKDの原因には様々な腎疾患や全身疾患がありますが、糖尿病、慢性腎炎、高血圧などが代表的です。CKDの定義やステージを、表1に示しています。定義では、尿蛋白の有無が重要です。腎臓の働き(腎機能)の目安は糸球体ろ過量(GFR)で示され、推算GFR(eGFR)で計算する事ができます。我が国では、eGFR60未満のステージ3以上に悪化しているCKD患者数は成人人口の約11%、約1100万人と膨大な人数です。また、わが国では透析患者数も多く、2021年末で約35万人と毎年増加している状態です。ステージ3以上の方では、腎臓専門医への受診や、食事療法や薬物治療が必要な場合もあります。

慢性腎臓病(CKD)と循環器病(CVD)のかかわり

この二つの疾患の関係にはいくつかの側面があります。まず一つは、アメリカから報告された事ですが、腎機能の低下に伴い、循環器病による入院や死亡が増加する事です。わが国の報告でも、腎機能や尿蛋白が入院や死亡に関係していました。つまり、CKDは循環器病などの予後を規定する因子という事です。次に、我々も検討した結果、循環器病の患者さんの腎臓は循環器病でない方と比べて、障害の程度がひどい事です。心筋梗塞や脳卒中、大動脈瘤の患者さんでは、腎動脈が狭窄するが事もあり、腎臓自体にも動脈硬化や糸球体硬化・尿細管萎縮などの障害がおこる事があります。その結果、蛋白尿を認め、腎機能が悪化する事がわかりました。腎臓病と循環器病は互いに影響し合って悪化させている悪循環の関係にあります。その原因としては、互いを悪化させる因子に共通したものが見受けられるからです。例えば、高齢、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などは共通した悪化因子です。循環器病による全身の循環不全や、検査の為の造影剤の使用は、腎機能を悪化させる可能性があります。腎臓病によって、老廃物が蓄積し、カルシウム・リン代謝に異常を来すと、動脈硬化や血管石灰化が進展します。同様に高血圧のコントロールが悪化すると、心血管への負担が増大し、心肥大・動脈硬化を進展させます。腎不全に伴う貧血も、循環器疾患に悪影響を与えます。両疾患の関わりを理解して、治療を受ける事が大切です。

慢性腎臓病にならないために

CKDの予防には、早期発見が大切です。腎臓は肝臓と同じように予備能力が大きな臓器のため、病状がかなり悪化しないと自覚症状はあらわれません。むくみ、尿の変化(量の増減、泡立つなど)、体がだるい、貧血、食欲がない、吐き気があるなどの症状が認められた場合には、すぐに病院で検査を受ける必要があります。初期には自覚症状に頼る事はできない為、定期的な検査が重要です。まず、尿検査で蛋白尿や血尿を調べます。血液検査では、血清クレアチニンを測定する事により、eGFRを計算する事ができます。また、高血圧や糖尿病の程度も重要ですので、定期的な血圧測定や血液検査(血糖値、ヘモグロビンA1cなど)を行う事が大切です。こういった検査などは通常の健康診断で行われますので、健康診断の受診が勧められます。検尿や腎機能に異常が認められた場合には、医療機関(かかりつけ医)を訪れましょう。異常の程度が大きい場合には、腎臓専門医への受診が勧められます。尿蛋白が大量に出る状態(ネフローゼなど)では、腎臓専門医での腎生検(腎臓の一部を取り組織を検査する)などが必要な場合もあります。かかりつけ医と腎臓専門医での併診が望ましい連携医療と考えられます。

慢性腎臓病の治療方法

CKDと診断されたら、適切な治療によって病気の進行を遅らせ、末期腎不全に至る事を防がなければなりません。CKDに対する治療には、生活習慣の改善、食事療法、薬物療法の3つがあります。

生活習慣の改善
生活習慣の改善(禁煙、減塩、肥満・運動不足の解消、節酒など)は腎臓を守る基本であり、循環器疾患を予防する基本でもあります。最近注目されているメタボリックシンドロームでも、CKDが起こりやすくなるという事がわかっています。メタボリックシンドロームや高血圧の方は、肥満を改善し減塩する事が望ましいです。飲酒にも注意が必要です。アルコールがCKDを悪化させるとの報告はありませんが、一般的な適正飲酒量(日本酒で1日1合以下)にして、大量飲酒は避けましょう。喫煙は、心臓や肺に悪影響を及ぼすだけでなく、腎機能も低下させる事がわかっていますので、禁煙を心がけましょう。水分の摂取は、かなり腎機能が低下した場合には制限が必要ですが、極端な制限は脱水を引き起こす為、勧められません。まず、十分な減塩を行った上で、主治医と相談してください。また、かぜ薬・解熱薬・鎮痛薬・抗菌薬などは腎機能を悪化させる可能性があります。CKDの方は、かかりつけ医に飲んでも良い市販薬やサプリメント・漢方薬などについて尋ねておきましょう。

●食事療法
i)低タンパク食
食事療法はCKD治療の基盤の一つであり、eGFR60ml/分以下になったら低タンパク食を開始する事が望ましいです。タンパク質の摂取量は体重1kg当たり0.8g以下に制限します。タンパク質が多すぎると、老廃物が増えて腎臓に負担がかかりますが、反対に少なすぎると体内のタンパク質を分解してしまい、腎臓には良くありません。また、食事で摂るエネルギーが不十分だと、体内のタンパク質が消費され、かえって老廃物が増加します。必要なエネルギーは十分に摂りましょう。そこで、カロリー摂取は体重1kg当たり25~35kcalとします。3食きちんと食べる事や、油脂を適切に使う事、でんぷんの多い食品を摂取する事も勧められます。

ii)塩分制限
塩分摂取量は1日6g以下にする事が望ましいですが、主治医の指示に従ってください。食べ方の工夫(漬け物や塩干物の制限、だし汁の摂取制限、インスタント食品の制限など)、味付け(酸、香辛料など)や調理法の工夫を行う事も、減塩に有効な場合があります。

iii)カリウム、リン制限
カリウムやリンの含有量の多い食品(果物類、いも類、緑黄色野菜類、豆類、乳製品、コーヒー、茶など)を制限し、調理法を工夫(茹でる、茹で汁は料理に使わない、水にさらす)することが大切です。摂取制限が奏効しない時には内服薬(カリウムイオン交換樹脂やリン吸着剤)を使用する事になります。

薬物療法
まず、CKDの原因となった病気の治療を行う事が大切です。例えば、糖尿病・高血圧や脂質異常症のコントロールを行います。慢性腎炎や膠原病なども、専門医で治療を受けましょう。循環器疾患を有する場合も、適切な治療を受けましょう。

i)高血圧の治療
血圧の管理は最も重要なCKD治療の一つです。CKD診療ガイドラインには、腎障害を伴う高血圧症の治療目標は140/90mmHg未満に、糖尿病を合併している場合、尿タンパクが1日0.15g以上認められる場合には130/80mmHg未満にするように勧告されています。薬剤としては、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、利尿薬、カルシウム拮抗薬などを組み合わせて服用する事が推奨されています。多くの降圧薬がありますが、3種類以上内服しても降圧効果が不十分な場合、食事療法(減塩)をさらに厳格に行う事が大切です。

ii)水・電解質の治療
腎臓にはカリウムを尿中に排泄するはたらきがあるので、腎機能が悪くなってくると体内のカリウムは高い値になります。カリウム高値は不整脈の原因になり、死亡する事もある為、食事療法とともにカリウムイオン交換樹脂の内服が勧められます。吸着剤なので、便秘などへの注意が必要です。
同様に、高リン血症が認められた場合には、まずタンパク質の摂取制限を行います。それでも、高リン血症が進行する場合には、リンを吸着し排泄するために炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの薬剤を食後すぐに服用する事が勧められます。同じ薬剤は、腎機能低下による低カルシウム血症の場合にも、内服が勧められます。
活性型ビタミンD製剤は、透析導入前でも二次性副甲状腺機能亢進症の明らかな症例に開始しますが、血清カルシウム、リン値の十分な管理が必要になります。
また、老廃物が蓄積し、血液が酸性に傾く代謝性アシドーシスを呈した場合には、重曹などのアルカリ剤を投与して補正します。

iii)尿毒症毒素の吸着
経口の尿毒症毒素吸着剤として、石油系炭酸水素由来の球形多孔質炭素が用いられます。消化管内のタンパク関連尿毒症性物質を吸着して体外に排泄する作用を持っています。便秘や腸管通過障害には注意を要します。

iv)貧血の治療
CKD患者さんに貧血が起こった場合には、原因の検索が必要です。悪性腫瘍や消化管出血の有無を検査し、鉄分不足、栄養障害、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏などがないかどうかを調べます。それらが認められない場合、腎臓が原因の貧血と診断されます。ヘモグロビン濃度10g/dL未満で、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の皮下注射を始め、ヘモグロビン11~13/dL程度に維持する事が望ましいとされています。ESA製剤としては、ヒトエリスロポエチン製剤やダルベポエチンアルファ製剤などがあります。最近、低酸素誘導因子ープロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬という貧血治療薬を服用することもありますが、悪性腫瘍や糖尿病性網膜症合併している場合はこれらの病態を悪化させることがあり、注意を要します。

まとめ

わが国には、CKDの患者さんが約1100万人いると推定されています。日本人の10人に1人がCKDと言われており、実はとても身近な病気だと言えるのです。CKDは腎機能が悪化すると透析が必要な腎不全まで進行するだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などを発症する危険性も高くなる事がわかってきました。日常生活も大きく制限される為、注意が必要です。CKDと循環器疾患は互いに関係しあって、悪化する悪循環の関係にあります。CKDは適切な治療をする事により、悪化を防ぐ事が可能な病気と考えられます。生活習慣病や循環器疾患を有する方々は、まず自分の腎臓の状態を把握しましょう。そして、かかりつけ医に治療が必要な段階だと言われたら、治療を継続する事が大切です。また、専門医への受診を勧められたら、必ず受診しましょう。

表1 慢性腎臓病の定義とステージ分類

定義
① 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(300mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要。
②推定GFR<60ml/min/1.73m2
①、②のいずれか、または両方が3か月以上持続する

日本人のGFR推算式
推定GFR(mL/min/1.73m2)=194 x (Cr)-1.094 x(年齢)-0.287 (x 0.739 女性の場合)

 

最終更新日:2023年08月04日

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