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小児心臓外科

対象疾患・治療法
左心低形成症候群(HLHS)

左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome : HLHS)

左心低形成症候群(HLHS)

左心低形成症候群は左心室と左心室から出ている上行大動脈が非常に小さい(低形成な)先天性心疾患です。左心室の入り口と出口をなす僧帽弁と大動脈弁も、狭いかあるいは完全に閉じています。通常、動脈管開存、大動脈縮窄も伴っていて、なんらかの治療無しには新生児期を生き延びられない重篤な疾患です。


背景

左心低形成症候群とは、左心室が小さく、左心室から出ている上行大動脈が細い先天性心疾患です。左心室の入り口の弁である僧帽弁は狭い(僧帽弁狭窄)か閉じて(僧帽弁閉鎖)おり、出口の弁である大動脈弁も狭い(大動脈弁狭窄)か閉じて(大動脈弁閉鎖)います。左心室の低形成の程度、大動脈弁、僧帽弁の状態に多少幅があるため、ひとまとめにして左心低形成症候群とよばれます。いずれの場合も動脈管開存症と大動脈縮窄症を伴っており、全身への血流は右心室が肺動脈に送り出す血液から枝分かれする動脈管を通じてまかなわれています。したがって動脈管開存が維持されなければ致命的となり、なんらかの治療なしには新生児期を乗り切ることができません。1979年にNorwood手術が開発されて以来、段階的な外科治療によりチアノ-ゼのない状態で発育発達が可能となる道が開かれました。一方、欧米では心移植の対象としている施設もあります。

症状、経過

全身への血流が動脈管を通じて肺動脈からまかなわれているため、動脈管が閉じ始める生後1、2日の間に急速に症状が出現します。すなわち低体温とくに手足が大変冷たい、脈が速い、脈が触れにくい、全身性チアノ-ゼ、肝臓が腫れている、などいわゆるショック状態を呈してきます。これらの症状は動脈管の開通が得られなければ回復せず致命的となります。動脈管開存が維持されれば、ショック状態は回避されますが、脈が速い、呼吸が速い、軽度のチアノ-ゼの状態は続きます。

血行動態(血液の流れ)

左心低形成症候群では、心臓の主たるポンプの働きは右心室によってまかなわれています。肺から左心房に還った赤い血は心房中隔欠損を通して右心房に合流し、ここで体からの静脈血と混合し右心室→肺動脈へと送り出されます。肺動脈に送られた血液の一部は動脈管を通して全身に送られ、それ以外は肺に送られます。このとき肺と全身に送られる血液の配分は、どちらの方がより血液が流れやすいかという血管抵抗の比で決まります。肺に流れる血液量が増えるとチアノ-ゼは軽くなりますが、体の血圧が下がり、尿が出にくくなったり、脳や冠動脈に十分な血流がいかなくなったりします。また反対に肺に流れる血液量が減ると、チアノ-ゼが強くなり低酸素血症を来します。すなわち左心低形成症候群では肺と体の血流の微妙なバランスの上になりたっており、バランスがどちらに傾いても生命の維持が難しくなります。そのため患者は新生児集中治療室での注意深い管理が必要となります。

診断

最近では母親の胎児超音波検査で診断される場合も増えつつありますが、多くの場合は左心低形成症候群があっても妊娠経過、胎児の成長は正常であるため、胎児超音波検査でも妊娠後期に心臓に注意して調べないかぎりはみつかりません。出生後の心臓超音波検査で診断が確定します。合併する心疾患、三尖弁の逆流の有無、程度、心房中隔欠損の交通、動脈管開存の状態などが超音波検査で詳しく調査できます。

治療

まずプロスタグランディンの持続静注を行い動脈管からの血流を維持します。患者の状態によっては人工呼吸器の補助が必要です。体と肺の血流のバランスをとって管理しながら手術治療を計画します。術前に動脈管が閉じかってショックを来した患者では、腎不全、腸閉塞、敗血症、アシドーシス(体の血液が酸性に傾く)などを来しやすいため、必要により強心剤、利尿剤、抗生物質を使います。
手術はNorwood(ノルウッド)手術(第一期手術)を行います。右心室のからでている肺動脈幹から上行大動脈→大動脈弓→下行大動脈へと新しい大動脈の再建を行います。もともと肺動脈幹から出ていた左右の肺動脈は切り離します。肺への血流の確保は当センターでは右室-肺動脈間に人工血管の導管で作成する方法を行っています。

Norwood手術後は6ヶ月前後にBidirectional Glenn(両方向性グレン)手術呼ばれる第二期手術をおこない、さらに2歳前後にFontan(フォンタン)手術(第三期手術)まで到達すれば、チアノ-ゼの無い状態でその後の成長・発育が望まれます。

治療後経過

Norwood手術後、HemiFontan手術後は状態が落ち着いていれば退院は可能ですが、強心剤や利尿剤、アスピリンなどの服用が必要であり、また定期的な超音波検査をおこない次段階の手術を計画する必要があります。さらに第二期、第三期の手術前には心臓カテーテル検査を行い手術術式を検討します。フォンタン手術が終了すれば、チアノ-ゼの無い状態となり、日常生活の制限もあまりない状態での成長発育が見込まれます。

最終更新日:2021年10月08日

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