メニュー

患者の皆様へ

高安動脈炎

 


10代後半~30代の若年女性に発症が多く見られます。早期に診断して適切な時期に治療を導入しないと、血管の障害が進んで血管狭窄や大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全などの重い合併症をきたすことがあり、合併症の進行によって心臓血管外科での手術治療やカテーテル治療が必要となる疾患です。

1. 高安動脈炎とは?

高安動脈炎は大動脈とそこから分枝する主要な動脈に原因不明の炎症が生じて、血管が狭窄・閉塞したり拡張(瘤を形成)したりする血管のリモデリング(変形)を来す厚生労働省の指定難病です。血管のリモデリングから、脳、心臓、腎臓、肺といった重要な役割を持つ臓器への血流障害から臓器障害を来したり、手足への血流不全から手足の易疲労感を来したりする未だ原因が不明の「血管炎症候群」に属する疾患です。

金沢医学専門学校(金沢大学の前身)で眼科学の教授をしていた高安右人先生が、1908年にこの病気の患者について初めて報告したことをから、「高安動脈炎」と呼ばれています。高安動脈炎はこれまで、大動脈炎症候群、脈なし病、高安病などのさまざまな呼称で呼ばれていましたが、2015年に難病法が施行された際、「高安動脈炎」へと病名が統一されました。

2. 高安動脈炎の疫学情報について

厚生労働省研究費補助金「難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班」による2017年の全国疫学調査によると、わが国の高安動脈炎・患者数は約5,000名でした。厚生労働省の統計では、約200-300名程度が毎年新規に発症するとされています。

高安動脈炎患者さんのおよそ9割は女性です。10代後半から30代までの若年女性に発症することが多いです。最近、男性の発症数が増えているという報告もあります。稀ですが、10歳未満で発症することもあります。世界での患者分布をみると、高安動脈炎はアジアや中南米に患者が多いとされています。

3. 高安動脈炎の症状

高安動脈炎では、どの血管に障害(変形=リモデリング)が生じたかにより、症状はさまざまなものが出てきます。高安動脈炎の発症初期には、発熱、全身倦怠感 、食欲不振、体重減少などの感冒に罹患した時の様な、非特異的な症状が出現することが多いです。その後、血管の炎症によって、時間経過とともに血管が狭窄・閉塞、あるいは拡張(瘤形成)してきます。頭部へと血流を送る血管が障害を受けると、めまい、立ちくらみ、失神、ひどい時には脳梗塞や視力障害(失明)へと至ることもあります。また、歯痛、頸部痛、耳鳴などもよく見られる症状です。上肢に血流を送る血管が障害を受けると、腕が疲れやすい、 脈が触れない、血圧の左右差が見られるなどのさまざまな症状が出現します。また、高安動脈炎の約2~3割の患者さんで心臓の大動脈弁周囲に障害を生じて、弁膜症(主に大動脈弁閉鎖不全症)を発症して、状況により、その後の心臓機能に影響をきたすこともあります。また、腎臓へ血流を送る血管が障害されて腎臓の機能障害(腎不全)に至ることもあります。さらに、下肢に血流を送る血管が障害を受けて歩行困難の症状をきたす方もいます。また、高安動脈炎の患者さんでは血管の動脈硬化の進行も健常の方より進行がみられて高血圧症もよく見られる症状です。

4. 高安動脈炎の原因

高安動脈炎の原因は未だに良くわかっていません。しかし、遺伝的要因を背景にして、何らかの感染やストレスがきっかけとなって発症に至り、血管での炎症が持続することが原因だと考えられています。最近の研究から、高安動脈炎の発症には特定の遺伝子変異が関係する可能性が示唆されています。しかし、家族内での遺伝が見られるケースは非常に少ないと言われています。高安動脈炎の発症は、遺伝的要因と環境要因の両者が関与すると考えられています。

5. 高安動脈炎の検査

高安動脈炎の検査では、画像検査が非常に重要です。高安動脈炎の診断に使用される画像検査には、造影CT、造影MRI、頚動脈超音波検査、FDG-PETCT検査があります。これらの検査を高安動脈炎の診断では早期に行う判断が診断に重要となります。

造影CT検査は短時間で広範囲の形態的特徴を捉えられ、空間分解能も高く、必須といえる検査です。短所には、被爆があり妊娠の可能性がある患者さんでは施行できないこと、造影剤アレルギーや腎障害のリスクがあることが挙げられます。

造影MRIは被爆がないことが長所で、造影剤を用いなくても病変の評価がある程度可能であることも長所として挙げられますが、短所として空間分解能が低く、検査に時間がかかることが挙げられます。頚動脈超音波検査は侵襲が少なく、繰り返し行える利点がある一方で、撮像範囲が限られる点が短所となります。

FDG-PETCT検査は高安動脈炎に対して2018年保険適応となって汎用されています。炎症部位を空間的に可視化できて、活動性病変の有無や治療効果の判定に有用です。ただし、被ばく量が多く、反復して検査を施行する場合には、使用頻度に留意する必要があります。

血液検査では炎症反応の指標として、C反応蛋白質(CRP)、血沈、フィブリノーゲン、血清アミロイドAなどが炎症状態を評価するのに有用です。しかし、高安動脈炎患者では、炎症が一旦鎮静化している場合も良く見られるため、上記の炎症マーカーが陰性化しているからと言って、高安動脈炎の診断を否定するものではありません。あくまで血液検査は補助的な役割が診断上は期待されています。また、高安動脈炎患者では白血球の型のHLA-B52陽性が60%の方において見られますが、一般の方ではHLA-B52陽性が20%程度で、これも診断において参考所見になります。

6. 高安動脈炎の診断

高安動脈炎の診断には、画像診断が第一に重要です。造影CT、造影MRI、頚動脈超音波検査、そしてFDG-PETCT検査などにより、大動脈とその1次分枝血管の両方またはいずれかに、多発性またはびまん性の肥厚性病変、閉塞を含む狭窄性病変、あるいは瘤を含む拡張性病変が認められることが診断に必須です。つまり、画像の異常がないと高安動脈炎と診断できないことになっています。

2番目に高安動脈炎に関連する症状が「1つ以上」見られることが必要です。症状が見られた上で、最後に鑑別すべき疾患である「8つの疾患」(動脈硬化症、先天性血管異常、炎症性腹部大動脈瘤、感染性動脈瘤、梅毒性中膜炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、血管型ベーチェット病、IgG4関連疾患)を除外できたら、「高安動脈炎」と診断されます。

7. 高安動脈炎の治療

高安動脈炎による炎症を抑制することが基本です。

通常、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドを第1選択薬として使用します。炎症が強く、なかなか副腎皮質ステロイドの減量が進められない場合には、免疫抑制薬(メトトレキサートやアザチオプリンなど)や生物学的製剤の抗IL-6受容体抗体のトシリズマブを使うことがあります。トシリズマブは日本で行われた治験をもとに2017年に薬事承認されました。副腎皮質ステロイドは副作用もいろいろ生じる為、減量を可能な限り進めて、5-10mg/日を維持量として通常投与することが多いです。何れの治療でも、ある程度の免疫抑制がかかるため、感染症などの副作用に留意することが必要となります。また、血栓ができるのを予防する為の抗血小板剤を使用することもあります。

炎症によって血流低下が生じて日常生活に大きく差し支える場合には、炎症が治まってから外科的に血管のバイパス手術などをすることがあります。また、大動脈瘤や大動脈弁閉鎖不全等の合併症をきたした患者さんでも、人工血管置換術や大動脈弁置換術などの手術や血管内治療(カテーテル治療)をする必要が生じることもあります。高安動脈炎のおよそ2(~3)割の患者さんが手術治療を受けると言われています。

8. 高安動脈炎の日常生活の留意点

1)高安動脈炎は感染、ストレス等が病状を悪化させるため、体調管理には十分留意して、ストレスを避ける。

2)高安動脈炎は慢性的に血管炎症が動脈に生じるため、動脈硬化が生じやすいと考えられています。動脈硬化の進行を予防・抑制するため、動脈硬化のリスクファクターである喫煙、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症がある場合には、生活習慣を是正し、必要な場合は薬物療法を行います。
(1)禁煙:喫煙は動脈硬化を進行させるので、禁煙は必須です。
(2)高血圧の管理:上腕で家庭血圧測定。塩分摂取を控え、軽い運動をする。
         必要に応じて主治医に相談して降圧剤による治療を受ける。
(3)糖尿病・脂質異常症の対策:適切な食事療法と運動療法、必要な場合には薬物療法を受ける。 

3)ステロイド治療中では、感染症、骨粗鬆症、骨壊死などの副作用が生じる可能があります。そのため、ステロイドの副作用の予防と検査を定期的に受ける必要があります。 
(1)感染の対策:うがい、手洗いを励行。人込みを避け、人込みではマスクを着用。
        発熱時は早めに病院に行き、胸部X線等の検査を受けることが必要。
        主治医の判断により、感染予防のための薬剤を内服することがあります。
(2)骨粗鬆症の対策:カルシウムの摂取と軽い運動の励行。
          ステロイド性骨粗鬆症の進行を防ぐため、骨粗鬆症治療薬を内服する。
(3)骨壊死への対策:股関節や膝などに痛みが生じた場合は、病院を受診して画像検査で診断をする必要が有ります。

最終更新日:2023年09月22日

設定メニュー