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細胞生物学部

業績

2018年の業績

研究活動の概要

 循環器疾患の病態解明を目指すためには、心臓・血管の発生から循環器の恒常性維持機構を解剖学的・生理学的・生化学的に調べる必要がある。このため、研究テーマとして、特に心臓発生・血管新生の分子メカニズムと形態学的成熟過程を調べることに注力している。

 心臓の心筋細胞も単一な心筋細胞ではなく、心房筋・心室筋・刺激伝導系心筋などで分類されるだけでなく、情報伝達系を調べることで、さらに詳細な分類が必要である。この根本的な心筋細胞の差は、他の細胞、特に血管内皮細胞との相互作用や、循環血液中のホルモンによる制御に依存することを明らかにしている。

 この多様性をもった細胞群からなる心臓・血管構築細胞の細胞間あるいは組織間の機能的調節作用の破たんや、解剖学的欠損が循環器疾患の原因となっていると考える。従って、生体を観察することなくして生理学・病態生理学を理解することは不可能であると考え、生きたままの個体を用いて如何に心筋細胞・血管内皮細胞・周細胞が機能しているか?まず徹底的に調べている。観察結果の解釈が間違いなければ、どのような異常が疾病の原因になるかを導き出すことができる。したがって、メージングを研究手法の中心に据えて、「見ることから知ること、さらに治療・予防にまで発展させるべく」研究を行っている。

 さらに30年度からは、基盤研究だけではなく、薬剤開発の共同研究を開始して、心不全治療薬の開発を主テーマとして、ゼブラフィッシュを用いて薬効評価についても検討を開始した。

主な研究テーマは

  1. 血管新生における細胞形態・運動を調節する情報伝達の解明
  2. 血流依存性血管恒常性維持機構についての検討
  3. ゼブラフィッシュ心臓のWntシグナルの意義
  4. 左右非対称性発生原理の解明
  5. 骨膜由来の分泌性ペプチドOsteocrin(Ostn)による骨形成機構の解明
  6. 荷重負荷によるOstnの発現制御機構
  7. angiopoietin-Tie受容体シグナルの全貌解明

2018年の主な研究成果

  1. Hippoシグナルによる心筋細胞の初期発生から心臓構築における分子メカニズムの解明
    Hippoシグナルの最終標的分子のYap1, Wwtr1(Taz) 転写共役因子が、Isl1陽性の心筋細胞数を調節することにより、心筋細胞のなかでも心房筋への分化を促進し、心房筋細胞数の増加作用を有することを明らかにした。
     -両側の前方側板中胚葉と後方側板中胚葉の境界領域の心筋細胞分化をYap1/Wwtr1が調節する- ① 前方・後方側板の境界のhnad2陽性細胞数がYap1/Wwtr1をリン酸化して核外移行を促進させるLat1/2の遺伝子破壊ゼブラフィッシュで増加していた。即ち、Yap1/Wwtr1依存性にhand2が陽性となる心筋細胞数を増やす転写制御機構が機能していることを突き止めた。
    ② さらにlat1/2遺伝子破壊個体では、心房筋細胞数が増加することから、Yap1/Wwtr1による心房筋分化調節機構を明らかにした。

  2. Yap1/Wwtr1依存性転写の生体での可視化による血管発生機構の解明
    Yap1/wwtr1は通常Angiomotinと結合しているが、shear stressにより、細胞間接着部位でのアクチン束化が増強することにより、actin -angiomotinの結合が強くなることで、Yap1/Wwtr1がangiomotinから離れることで核内移行が促進されることを突き止めた。この核内移行したYap1/Wwtr1の転写依存性の内皮細胞安定化作用が血管接着をさらに強くすることがわかった。Yap1 Wwtr1の欠損ゼブラフィッシュでは節間血管の安定性が乱れて、分岐する節間血管数が増加することから、Yap1/Wwtr1の血管安定化作用を確認できた。

  3. Osteocrin(Ostn)による心筋梗塞の予後改善効果
    Ostnの過剰発現マウスの心筋梗塞モデルでは、梗塞後1週間以内の心臓死(心破裂)が抑制され、予後が改善することがわかった。また、Ostnの持続経静脈投与でも同様の新破裂抑制効果を確認できた。OstnがNa利尿ペプチド受容体NPR3(clearance 受容体)に結合して、Na利尿ペプチドファミリー分子のクリアランスを阻害することで、炎症細胞浸潤を抑制することを突き止めた。

  4. 心臓内Wntシグナル陽性細胞の機能
    Wntシグナル陽性細胞を生体で検出するゼブラフィッシュ個体を作製して、心臓が拍動する細胞でWntシグナルが陽性となる心筋細胞を同定することができた。興味深いことに、Wntシグナル陽性細胞すなわちBeta-cateninの転写活性化細胞は、心房―心室間の限定された部位に局在して、刺激伝導系細胞でもない特殊心筋細胞であることが判った。とくに、心房側心室筋細胞でwntシグナルが活性化しており、発生時に冠状動脈が心内膜から心外膜に心筋細胞層を貫通するのに重要である可能性を突き止めた。

研究業績

  1. Miyazaki T, Otani K, Chiba A, Nishimura H, Tokudome T, Takano-Watanabe H, Matsuo A, Ishikawa H, Shimamoto K, Fukui H, Kanai Y, Yasoda A, Ogata S, Nishimura K, Minamino N, Mochizuki N. A New Secretory Peptide of Natriuretic Peptide Family, Osteocrin, Suppresses the Progression of Congestive Heart Failure After Myocardial Infarction. Circulation Research. 122, 742-751, 2018.
  2. Uribe V, Ramadass R, Dogra D, Rasouli SJ, Gunawan F, Nakajima H, Chiba A, Reischauer S, Mochizuki N, Stainier DYR. In vivo analysis of cardiomyocyte proliferation during trabeculation. Development. 145, dev164194, 2018.
  3. Fukui H, Miyazaki T, Chow RWY, Ishikawa H, Nakajima H, Vermot J, Mochizuki N. Hippo signaling determines the number of venous pole cells that originate from the anterior lateral plate mesoderm in zebrafish. eLife. 7, e29106, 2018.
  4. Vanlandewijck M, He LQ, Mae MAA, Andrae J, Ando K, Del Gaudio F, Nahar K, Lebouvier T, Lavina B, Gouveia L, Sun Y, Raschperger E, Rasanen M, Zarb Y, Mochizuki N, Keller A, Lendahl U, Betsholtz C. A molecular atlas of cell types and zonation in the brain vasculature. Nature. 554, 475-480, 2018.
  5. He LQ, Vanlandewijck M, Mae MA, Andrae J, Ando K, Del Gaudio F, Nahar K, Lebouvier T, Lavina B, Gouveia L, Sun Y, Raschperger E, Segerstolpe A, Liu JP, Gustafsson S, Rasanen M, Zarb Y, Mochizuki N, Keller A, Lendahl U, Betsholtz C. Single-cell RNA sequencing of mouse brain and lung vascular and vessel-associated cell types. Scientific Data. 5, 180160, 2018.
  6. Chiba A, Watanabe-Takano H, Miyazaki T, Mochizuki N. Cardiomyokines from the heart. Cellular and Molecular Life Sciences. 75, 1349-1362, 2018.

過去の業績

最終更新日:2021年10月01日

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