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心血管モザイク研究室

 

研究概要

 心血管モザイク研究室は2023年4月に新たに誕生した、国立循環器病研究センターで初めての独立型研究室です。室長である佐野宗一が率いる当研究室では、体細胞モザイクと心血管疾患との関連に焦点を当て、とてもエキサイティングな研究を展開しています。

【体細胞モザイクとは何か?】

 モザイクは、私たちの体の細胞がそれぞれ異なるDNAを持つ状態を指します。私たちの体は多くの細胞で構成され、それぞれの細胞にはDNAという遺伝情報が含まれています。ただし、全ての細胞が同じDNAを持っているわけではありません。これは、日常生活でDNAに変異というキズが生じることによります。
 変異が起こる場所や数は多くのパターンがあり、細胞はそれぞれ異なるDNAを持つことになります。また、DNAの重要な部分で変異が起きると、その細胞は増殖しやすくなり、同じ変異を持つ細胞が集まる「クローン」ができることもあります。
 このような、異なるDNAを持つ細胞とクローンが共存する状態を「体細胞モザイク」または「モザイク」と呼びます。これは、様々なパーツが組み合わさったモザイクアートのような状態に例えられます。

図1:体内にモザイクができる仕組み
変異細胞が少しずつ増えていく様子。変異細胞が増えてできた細胞はもとの細胞と同一の変異を持つため、同じ赤色のクローンとして示しています。クローンや変異細胞がたくさんできるとモザイク模様になります。Ogawa H et al. Annu Rev Phisiol. 2021(改変)

【どのような組織がモザイク化するのか?】

 年齢を重ねることで、私たちのあらゆる臓器や組織はモザイク化することが分かっています。モザイク化は誰にでも起こる現象で、その意味で私たちはみんな、「モザイクにんげん」と言えます。特に、皮膚や腸、骨髄(血液)など細胞の増殖が活発な部分はモザイク化しやすいとされています。血液のモザイク化は「クローン性造血」とも呼ばれています。

図2:We are all mosaics.
私たちの体にある臓器や組織はどれも、クローンや変異細胞がたくさんできることでモザイク化します。モザイクの中には、クローン性造血のように病気を悪くするものがあります。Sano S et al. Eur Heart J. 2020(改変)

Ⅱ. 業績内容

研究業績

1. CHIPと心血管疾患についての研究

 クローン性造血は様々な遺伝子変異が原因で引き起こされる現象であり、特にDNMT3A、TET2、ASXL1といった血液がんの原因遺伝子が変異することで生じるクローン性造血はCHIP(clonal hematopoiesis with indeterminate potential)という名で知られています。
 私たちの研究により、CHIPが動脈硬化症や心不全などの心血管疾患の悪化に関与していることが明らかになってきました。クローン性造血は他にも、様々な病気を悪化させる可能性があります。がん、肺の病気、肝臓の病気などがそれに含まれます。
 クローン性造血のある人の血管には、変異した血液細胞が多く存在し、これらが動脈の壁や心臓の中に入り込むことで病気が悪化すると考えられています。具体的には、変異した血液はその部分の炎症を悪化させたり、繊維化という変化によってその部分を硬くしたりすることで、臓器の機能を低下させてしまいます。

図3:クローン性造血が心不全を悪化させる仕組み
有利な変異を持つ造血幹細胞は、クローンのように増殖します。そして、これらの変異を持つ白血球は、通常とは異なる性質を示すことがあります。例えばTet2、Dnmt3a、JAK2遺伝子の変異を持つマクロファージは炎症性サイトカインやケモカインの発現が通常よりも増加することが分かっています。これが心不全が悪化につながります。Sano S et al. Circ J.2018

2. Loss of Y chromosomeと心血管疾患についての研究

 血液中でY染色体が完全に失われる現象は、男性においてよく見られ、後天的Y染色体喪失(mosaic loss of Y chromosome, mLOY)と呼ばれます。血液中のmLOYは年齢とともに増えていき、70歳の男性の約半数はある程度のmLOYを持っているとされています。
疫学データに基づくと、mLOYが発生した男性は余命が短く、アルツハイマー病、がん、心血管疾患などの加齢性疾患にかかりやすいことが分かっています。また、最近の研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経過も悪化することが示されています。しかし、mLOYがこれらの疾患の「原因」なのか、それとも年齢とともに起こる現象の一つに過ぎないのかははっきりしていませんでした。
 私たちの研究チームは、遺伝子を編集する技術(CRISPR/Cas9)を使って、mLOYの影響を調べるためのマウスを作りました。その結果、mLOYがあるマウスでは、心臓、肺、腎臓などの臓器がだんだんと硬くなる病気(繊維化)が進んでいくことが分かりました。Y染色体が欠けた血液細胞(マクロファージ)では、正常な細胞よりも繊維化を引き起こす性質が強く、このことが原因の一つと考えられています。この研究により、mLOYの役割と病気との因果関係がより明確になりました。

図4:Y染色体のない単球/マクロファージが心臓病を悪化させる仕組み
老化により血液はY染色体を失います。Y染色体を欠失した単球/マクロファージは、様々な臓器で繊維化を引き起こしていることが示唆されています。私たちの研究では特に心臓の繊維化や心不全に注目して研究を進めました。Editorial by Zeiher A et al. Science. 2022(改変)

■今後の展望

 体細胞モザイクは血液だけの現象ではなく、人体のあらゆる部分にモザイク化が起こります。そういった血液以外のモザイクが心血管疾患や他の病気にどのような影響があるのかは、まだ解明されていません。心血管モザイク研究室では、クローン性造血の研究を続けながら、血液以外のモザイクと心血管疾患との関連性も探求しています。
 心血管モザイク研究室では、共に研究を進めてくださる皆様を積極的に募集しております。ご興味をお持ちの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください(sano.soichi@ncvc.go.jp)。一緒に未来の医療を革新し、より健康な社会の実現に貢献しましょう。お待ちしております。

最終更新日:2023年04月27日

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