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細胞生物学部

部の業績
2013年業績

2013年の業績

研究活動の概要

循環器疾患の病態解明から、疾患予防と心臓再生・血管新生による循環調節の再構築を目指した新たな治療を目指す研究を展開している。「病態(pathobiology)は、分子の機能異常と細胞・組織間の制御異常、つまり細胞間・細胞内情報伝達破綻のために生じる」「再生は発生過程の情報伝達系を利用している」という考え方を基本として病態の解明と再生メカニズムの解明を目指している。このためには、生体内での心臓・血管の臓器全体と構成細胞の形態変化を捉えるとともに情報伝達の変化を生きたまま捉えることが重要と考えた。生体の情報伝達と形態変化を同時に観察することができるイメージングを研究手法の中心に据えて、見ることから知ることさらに治療にまで発展させるべく研究を行っている。

主な研究テーマは

  • 血管新生における細胞骨格・形態変化を調節する情報伝達の解明(血管と臓器との相互作用も含む)
  • 細胞間接着機構の解明
  • ゼブラフィッシュ心筋細胞の増殖メカニズムの解明
  • スフィンゴシン1-燐酸輸送体の免疫系細胞の血中移行機序の解明
  • 内胚葉による心臓前駆細胞の移動を原始心筒形成のメカニズムの解明
  • Shear stressによるYap1の転写調節機構の解明
  • 交感神経と血管による脂肪分解機構の可視化による検討
  • マウス心臓から発生期に分泌されて、心筋増殖を調節する因子の同定を試み、心臓だけでなく骨、腎臓などの生体の恒常性調節機構を明する
  • 血管の動脈・静脈の維持と特性決定機構の解明
である。

2013年の主な研究成果

  1. 血心筋細胞特異的に細胞周期を生体で可視化するゼブラフィッシュを作製し、発生段階における心筋細胞増殖因子(Heart-derived cardiogenesis-inducer; HDCI)を同定した。管ell CycleのS/G2/M 期、G1期をそれぞれ緑、赤で示すことができるプローブ(FUCCI)を心筋細胞特異的プロモーター(myl7)を用いて心臓に発現させた。S/G2/M期細胞特異的に発現するHDCIが心筋細胞の分裂を促進することを突き止めた。
  2. 心臓の発生過程でゼブラフィッシュもスフィンゴシン1-燐酸(S1P)シグナルが重要であると報告してきたが、S1Pが内胚葉形成に重要であり、心臓に直接作用して中胚葉由来の心筋細胞が正中線へ移動するのではないことを示した。S1Pが卵黄合法体層から内胚葉に向かって分泌され、内胚葉のS1P2 受容体を活性化する。内胚葉細胞では、G12/G13が活性化されその下流のRhoを介したシグナルにより、転写共役因子Yap1の核内移行を促進する。Yap1は転写因子Teadを介して細胞外基質と結合する分子を内胚葉から分泌させることにより、内胚葉自身の生存を維持する。このような一連のシグナル伝達系により、内胚葉の形態が維持され、心臓前駆細胞が内胚葉と分泌された因子を足場として、両側の中胚葉領域から正中に移動して原始心筒を形成することを明らかにした。
  3. 血管新生を可視化するためのトランスジェニックゼブラフィッシュの一つとして、Cdc42, Rac, Rhoの活性化を可視化する個体を作製した。アクチン重合の可視化フィッシュと交配することでRhoファミリー分子の血管新生での機能を明らかにした。特に、尾側静脈叢からの尾側静脈形成過程を検討することで、BMPシグナルがAggf1の発現を介してbeta-Catenin依存性の転写を増加して静脈の特異度を上げるシグナルと重要であることを突き止めた。
  4. 血管と神経の伴走性についてのメカニズムの解明を目指して、ゼブラフィッシュの背側大動脈の腹側を走行する運動神経が大動脈からのVegf-Cシグナルを受けることを明らかにした。さらにこの運動神経がVegfr3受容体を発現することが不可欠であることも示した。
  5. 血管形成過程において、血管内皮細胞の移動をそれに引き続く内皮細胞群が血管の伸展には重要である。このメカニズムとして、尾側静脈ではまず先導端細胞のCdc42が活性化することが重要であり、その後アクチンの伸張を調節する分子としてformin like-3分子が必須であることを明らかにした。
  6. 転写共役因子Yap1が血管内のshear stress依存性に内皮細胞の核内へと移動することが解った。これは、これまでYap1はメカノセンシング機構の下流で機能する分子として同定されてきたことと矛盾しない。Yap1の核内移行には、S1Pシグナル伝達機構の活性化が関わることを示唆する知見を得た。
  7. 臓器サイズ決定に関わる転写因子Yap1の可視化を血管、心臓で可能にしさらに、Yap1の修飾について研究を開始した。

研究業績

  1. Takahashi A, Asakura M, Ito S, Min KD, Shindo K, Yan Y, Liao YL, Yamazaki S, Sanada S, Asano Y, Ishibashi-Ueda H, Takashima S, Minamino T, Asanuma H, Mochizuki N and Kitakaze M. Dipeptidyl-peptidase IV inhibition improves pathophysiology of heart failure and increases survival rate in pressure-overloaded mice. AMERICAN JOURNAL OF PHYSIOLOGY-HEART AND CIRCULATORY PHYSIOLOGY. 304,H1361-H1369,2013.
  2. Yamazaki S, Kobayashi H, Takashima S, Liu W, Okuda H, Yan J, Fujii Y, Hitomi T, Harada KH, Habu T and Koizumi A. Ablation of Rnf213 retards progression of diabetes in the Akita mouse. Biochem Biophys Res Commun. 432,519-525,2013.
  3. Koyama T, Ochoa-Callejero L, Sakurai T, Kamiyoshi A, Ichikawa-Shindo ?Y, Iinuma N, Arai T, Yoshizawa T, Iesato Y, Lei Y, Uetake R, Okimura A, Yamauchi A, Tanaka, Igarashi K, Toriyama Y, Kawate H, Adams RH, Kawakami H, ?Mochizuki ?N, Mart?nez A and ?Shindo ?T. Vascular endothelial adrenomedullin-RAMP2 system is essential for vascular integrity and organ homeostasis. Circulation. 127,842-853,2013.
  4. Kwon HB, Fukuhara S, Asakawa K, Ando K, Kashiwada T, Kawakami K, Hibi M, Kwon YG, Kim KW, Alitalo K and Mochizuki N. The parallel growth of motoneuron axons with the dorsal aorta depends on Vegfc/Vegfr3 signaling in zebrafish. DEVELOPMENT. 140,4081-4090,2013.
  5. Mikelis CM, Palmby TR, Simaan M, Li W, Szabo R, Lyons R, Martin D, Yagi H, Fukuhara S: Chikumi, H, Galisteo R, Mukouyama YS, Bugge TH and JS. Gutkind. PDZ-RhoGEF and LARG are essential for embryonic developmnet and provide a link between thrombin and LPA receptors and Rho activation. J. BIOL. CHEM. 288,12232-12243,2013.
  6. Ando K, Fukuhara S, Moriya T, Obara Y, Nakahata N and Mochizuki N. Rap1 potentiates endothelial cell junctions by spatially controlling myosin II activity and actin organization. JOURNAL OF CELL BIOLOGY. 202,901-916,2013.
  7. Miura K, Wakayama Y, Tanino M, Orba Y, Sawa H, Hatakeyama M, Tanaka S, Sabe H and Mochizuki N. Involvement of EphA2-mediated tyrosine phosphorylation of Shp2 in Shp2-regulated activation of extracellular signal-regulated kinase. ONCOGENE. 32,5292-5301,2013.
  8. Omae M, Takada N, Yamamoto S, Nakajima H and Sato TN. Identification of inter-organ vascular network: vessels bridging between organs. PLOS ONE. 8,e65720,2013.
  9. Lee J, Kim KE, Choi DK, Jang JY, Jung JJ, Kiyonari H, Shioi G, Chang W, Suda T, Mochizuki N, Nakaoka Y, Komuro I, Yoo OJ and Koh GY. Angiopoietin-1 Guides Directional Angiogenesis Through Integrin alpha(v)beta(5) Signaling for Recovery of Ischemic Retinopathy. SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE. 5, ,2013.
  10. Hyouk-BumKwon, 横田 泰宏, 福原 茂朋, 望月 直樹. 神経血管伴走性の成立機序 ―ゼブラフィッシュをモデルとした研究. 血管医学. 14,273-277,2013.
  11. 安藤康史, 柏田 建, 中嶋洋行, 福原 茂朋, 望月 直樹. 血管内皮細胞のシグナルと接着による血管成熟・安定化機構. 最新医学. 68,2615-2620,2013.
  12. 福原 茂朋, 望月 直樹. 血管内皮細胞に発現するスフィンゴシン1-燐酸輸送体Spns2 によるリンパ球の血管内移動の制御機構. 生化学. 85,269-272,2013.

最終更新日:2021年10月01日

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