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循環動態制御部

部の業績
2016年業績

2016年の業績

研究活動の概要

循環動態制御部の研究基本理念は、統合的な枠組みによる循環器系の生理的・病態生理的な機能の解明である。生体システムの統合された複雑な状態での重要な特性の解明をめざして以下の方針で研究を構築している。循環動態制御部の研究分野の2つの柱は、「循環器系そのものの力学特性の解明」と「循環調節特性の解明」であり、両分野について基礎研究、応用研究および臨床に資する医療機器としての実用化の各階層にわたる研究を展開している(図)。特に、その結果としての最終目標として急性および慢性心不全の診断・治療の革新をめざした研究に焦点を当てている。さらに心不全の主たる死因である致死性不整脈の克服をめざし、基盤技術として心臓シミュレータを開発している。

本年度、特に注力した研究分野は、1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究(図では「低侵襲モニタの開発」)、2. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究(図では「循環調節特性の解明」)、3. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発(図では「循環バイオニック研究」)、4. 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発(図では「迷走神経刺激による梗塞縮小装置の開発」)の4つである。

以下に各項目について、その意義を記し、次項に本年度の成果の概要を列挙する。

  1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
    心不全などの循環管理では心臓・血管の特性を定量的に把握する必要があり、これが臨床的に可能となれば、急性心不全の自動診断・自動治療が可能となる。そのためには心拍出量・左心房圧の測定は欠かせないが、肺動脈カテーテルによる測定は侵襲が大きく有害事象をもたらして予後を改善していない。正確であるが低侵襲な心拍出量、左心房圧、血圧等の連続モニターが臨床的に求められており、そのために新しい機器の開発に取り組んでいる。
  2. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
    循環器疾患では心臓や血管系自体の異常に加え、これらの恒常性を維持する制御機構にも破綻をきたしている。このような病態を理解するために、循環制御系がどのような原理で心臓や血管系を制御しているのかを解明する研究を行っている。循環器疾患の新しい診断・治療法(動脈圧反射刺激治療など)の開発に資するため、病態や治療法による循環調節機構の変調、心不全に対する新しい薬物療法の開発、虚血再潅流後の早期迷走神経活性化による梗塞の縮小に関する研究にも取り組んでいる。
  3. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発:
    生体の循環調節機構に外部より介入することにより、生体自身の調節を超える制御が可能であり、各種循環器疾患の予後を改善できることが明らかとなった。この原理(循環バイオニック医学)をもとにした治療法の開発を推進している。特に、迷走神経の電気刺激や薬物による刺激により重症慢性心不全の予後が改善することが明らかになったが、迷走神経刺激による心保護の機序解明、心筋再生の効果増強に関する研究、自動制御による飲水量調節による心不全治療の研究を行っている。
  4. 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発:
    新規医療機器の開発に関して、心筋梗塞後の心不全発症を予防するカテーテル型治療装置の開発に取り組んでいる。

2016年の主な研究成果

  1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
    低侵襲血行動態連続モニターに関し、無侵襲血圧モニターシステムの開発、敗血症ショックの初期蘇生療法を自動化するコンピュータ制御循環管理システムの開発を行った。また、包括的な循環器系の特性解析に関して、肺循環疾患モデル動物における肺血管の拍動抵抗に関する研究を行った。
  2. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
    循環系の神経性・体液性の制御に関して、迷走神経の存在がラット心不全モデルにおける動脈圧受容器反射に及ぼす影響を検討した。薬物治療の開発に関して、第2世代及び第3世代β遮断薬が動脈圧受容器反射に及ぼす影響、ドネペジルの中枢投与による心筋梗塞後重症心不全ラットにおける心臓リモデリングの抑制作用及び長期生存率の改善作用、再潅流心筋梗塞縮小薬の研究開発、デシプラミンによる内因性ノルエピネフリンレベルの上昇がα2アドレナリン受容体を介して迷走神経を活性化するかどうかの検討、心拍数低下薬イバブラジンの迷走神経刺激下における心房細動誘発能に関する検討を行った。新たな病態モデルとしてストレプトゾトシン誘発性糖尿病ラットにおける動脈圧受容器反射異常の定量的解析を行った。また、新規な遺伝学的自律神経操作技術を利用し、圧反射求心性神経の血圧感知機構の解明に関する研究を行った。
  3. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発:
    循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発に関して、迷走神経刺激による生体内在性再生能力の賦活化を利用した新規心血管再生治療法の開発、大動脈減圧神経刺激による心臓副交感神経活動亢進におけるα2アドレナリン受容体の役割、動脈圧反射活性化治療が生体側の動脈圧反射に及ぼす影響の検討を行った。また、心不全ラットにおける水代謝病態解明及び飲水行動制御による治療効果の検討を継続して行った。
  4. 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発:
    新しい治療機器の開発に関して、心筋梗塞後の心不全発症を予防するカテーテル型治療装置の開発の研究を実施した。

研究業績

  1. Fukumitsu M, Kawada T, Shimizu S, Turner MJ, Uemura K, Sugimachi M. Development of a servo pump system for in vivo loading of pathological pulmonary artery impedance on the right ventricle of normal rats. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology. 310, H973-H983, 2016.
  2. Moslehpour M, Kawada T, Sunagawa K, Sugimachi M, Mukkamala R. Nonlinear identification of the total baroreflex arc: chronic hypertension model. American Journal of Physiology-Regulatory Integrative and Comparative Physiology. 310, R819-R827, 2016.
  3. Moslehpour M, Kawada T, Sunagawa K, Sugimachi M, Mukkamala R. Nonlinear identification of the total baroreflex arc: higher-order nonlinearity. American Journal of Physiology-Regulatory Integrative and Comparative Physiology. 311, R994-R1003, 2016.
  4. Fukumitsu M, Kawada T, Shimizu S, Turner MJ, Uemura K, Sugimachi M. Effects of Proximal Pulmonary Artery Occlusion on Pulsatile Right Ventricular Afterload in Rats. Circulation Journal. 80, 2010-2018, 2016.
  5. Nakahara H, Kawada T, Ueda S, Kawai E, Yamamoto H, Sugimachi M, Miyamoto T. Electroacupuncture most effectively elicits depressor and bradycardic responses at 1 Hz in humans. Clinical Autonomic Research. 26, 59-66, 2016.
  6. Shimizu S, Kawada T, Une D, Shishido T, Kamiya A, Sano S, Sugimachi M. Hybrid stage I palliation for hypoplastic left heart syndrome has no advantage on ventricular energetics: a theoretical analysis. Heart and Vessels. 31, 105-113, 2016.
  7. Uemura K, Kawada T, Zheng C, Sugimachi M. Less Invasive and Inotrope-Reduction Approach to Automated Closed-Loop Control of Hemodynamics in Decompensated Heart Failure. IEEE Transactions on Biomedical Engineering. 63, 1699-1708, 2016.
  8. Shimizu S, Kawada T, Une D, Fukumitsu M, Turner MJ, Kamiya A, Shishido T, Sugimachi M. Partial cavopulmonary assist from the inferior vena cava to the pulmonary artery improves hemodynamics in failing Fontan circulation: a theoretical analysis. Journal of Physiological Sciences. 66, 249-255, 2016.
  9. Kawada T, Shimizu S, Turner MJ, Fukumitsu M, Yamamoto H, Sugimachi M. Systematic understanding of acute effects of intravenous guanfacine on rat carotid sinus baroreflex-mediated sympathetic arterial pressure regulation. Life Sciences. 149, 72-78, 2016.
  10. Kawada T, Li M, Zheng C, Sugimachi M. Acute effects of vagotomy on baroreflex equilibrium diagram in rats with chronic heart failure. Clinical Medicine Insights: Cardiology. 10, 139-147, 2016.
  11. Kawada T, Akiyama T, Li M, Zheng C, Turner MJ, Shirai M, Sugimachi M. Acute arterial baroreflex-mediated changes in plasma catecholamine concentrations in a chronic rat model of myocardial infarction. Physiological Reports. 4, e12880, 2016.
  12. Kawada T, Sugimachi M. Open-loop static and dynamic characteristics of the arterial baroreflex system in rabbits and rats. Journal of Physiological Sciences. 66, 15-41, 2016.
  13. Kawakami S, Takaki H, Hashimoto S, Kimura Y, Nakashima T, Aiba T, Kusano KF, Kamakura S, Yasuda S, Sugimachi M. Utility of High-Resolution Magnetocardiography to Predict Later Cardiac Events in Nonischemic Cardiomyopathy Patients With Normal QRS Duration. Circulation Journal. 81, 44-51, 2016.
  14. 川田 徹, 杉町 勝. 交感神経と副交感神経の相互作用と病態. 循環制御. 37, 190-191, 2016.
  15. 杉町 勝. 心臓の収縮と弛緩のメカニズム:生理学的観点から. ここが知りたい 強心薬のさじ加減. 1-6, 2016.

最終更新日:2021年10月01日

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