循環動態制御部
部の業績
2014年業績
2014年の業績
研究活動の概要
循環動態制御部の研究基本理念は、統合的な枠組みによる循環器系の生理的・病態生理的な機能の解明である。生体システムの統合された複雑な状態での重要な特性の解明をめざして以下の方針で研究を構築している。循環動態制御部の研究分野の2つの柱は、「循環器系そのものの力学特性の解明」と「循環調節特性の解明」であり、両分野について基礎研究、応用研究および臨床に資する医療機器としての実用化の各階層にわたる研究を展開している(図)。特に、その結果としての最終目標として急性および慢性心不全の診断・治療の革新をめざした研究に焦点を当てている。さらに心不全の主たる死因である致死性不整脈の克服をめざし、基盤技術として心臓シミュレータ、臨床展開として超ICDを開発している。
本年度、特に注力した研究分野は、1. 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究(図では「低侵襲モニタの開発」)、2. 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究(図では「循環調節特性の解明」)、3. 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発(図では「循環バイオニック研究」)、4. 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発(図では「超ICDの開発」)の4つである。さらに、5. 臨床に直結した研究としては、心磁図を用いた致死性不整脈の詳細な時空間的機序解明を行った。
以下に各項目について、その意義を記し、次項に本年度の成果の概要を列挙する。
- 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
- 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
- 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発:
- 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発:
- 臨床に直結した研究:
心不全などの循環管理では心臓・血管の特性を定量的に把握する必要があり、これが臨床的に可能となれば、急性心不全の自動診断・自動治療が可能となる。そのためには心拍出量・左心房圧の測定は欠かせないが、肺動脈カテーテルによる測定は侵襲が大きく有害事象をもたらして予後を改善していない。正確であるが低侵襲な心拍出量や左心房圧の連続モニタが臨床的に求められており、そのために新しい機器の開発に取り組んでいる。
循環器疾患では心臓や血管系自体の異常に加え、これらの恒常性を維持する制御機構にも破綻をきたしている。このような病態を理解するために、循環制御系がどのような原理で心臓や血管系を制御しているのかを解明する研究を行っている。循環器疾患の新しい診断・治療法(腎神経焼灼術や頚動脈神経刺激治療)の開発に資するため、病態や治療法による循環調節機構の変調についても検討している。
生体の循環調節機構に外部より介入することにより、生体自身の調節を超える制御が可能であり、各種循環器疾患の予後を改善できることが明らかとなった。この原理(循環バイオニック医学)をもとにした治療法の開発を推進している。特に、迷走神経の電気刺激や薬物による刺激により重症慢性心不全の予後が改善することが明らかになったが、迷走神経刺激による心保護の機序解明、最適な刺激条件の研究、新たな迷走刺激薬の検索と開発、心筋再生の効果増強に関する研究を行っている。虚血再潅流後の早期迷走神経刺激による梗塞の縮小に関する研究にも取り組んでいる。
従来の植込み型除細動装置(ICD)の限界を克服する新しい独自機能を搭載し、国際競争力のある新しい植込み型治療機器を国内で製品化するための研究を継続している。試作機の大幅な小型化と低消費電力化に成功し、既存機器と同様の使い勝手ながら、独自機能により低電力除細動、正確な早期診断、心機能モニタを可能としている。
国立循環器病研究センターは多くの重症心不全患者、低心機能の虚血患者、特殊な不整脈患者を診療している。この特徴を最大限に生かし、循環器疾患の診断、病態、治療に密接に関連した研究を行っている。特にわが国で2ヶ所にのみ設置されている心磁図を用いて、従来の心電図では不可能であった心筋内興奮の3次元時空間的な推移を可視化することができるようになった。心磁図は突然死・致死的不整脈を生じる臨床上重要な種々の心疾患における不整脈発生の機序解明に大きく寄与している。患者ごとの差異より治療法の適応決定にも利用可能となっている。
2014年の主な研究成果
- 包括的な循環器系(心臓・血管)特性解析(心不全の自動診断)に関する研究:
- 慢性心不全治療のための循環系の神経性・体液性の制御の基礎研究:
- 循環バイオニック医学:循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発:
- 循環器疾患の克服に貢献する新しい医療機器の開発:
- 臨床に直結した研究:
低侵襲血行動態連続モニタに関し、無侵襲左心充満圧推定法の臨床心不全症例における検討、無侵襲血圧連続モニタシステムの開発、心不全患者の循環管理を支援する血行動態自動制御システムの臨床応用に向けた低侵襲化の研究を行った。また、包括的な循環器系の特性解析に関して、部分肺循環補助がFontan循環の血行動態に及ぼす影響の検討、肺高血圧症の病態解明のための生体内肺動脈インピーダンス制御システムの開発の研究を行った。
神経性・体液性の制御に関し、交感神経活動と血中ノルエピネフリン濃度の関係の定量化、慢性心不全における動脈圧決定機構の平衡線図による解析を行った。薬物治療の開発に関して、ドネペジル中枢投与による心保護作用における末梢性α7-ニコチン性アセチルコリン受容体の役割の検討、ドネペジルの早期投与による再潅流心筋梗塞ラットにおける心筋細胞の保護及び心臓リモデリングの抑制作用の研究を行った。また、自律神経の長期操作に関して、臓器別かつ神経種別の自律神経の長期操作技術の開発、遺伝学的神経操作技術による胃求心性迷走神経の役割の解明の研究を行った。
循環系の制御機構への介入による心不全治療の開発に関して、迷走神経刺激によるラット心不全モデルの動脈圧反射中枢機能の改善、迷走神経刺激による生体内在性再生能力の賦活化及び新規心血管再生治療、心不全ラットにおける水代謝の病態解明及び飲水行動制御による治療効果の検討を行った。また、圧反射活性化治療に関して、動脈圧反射活性化治療が生体側の動脈圧反射に及ぼす影響の検討を行った。
超ICDプロジェクトに関し、超ICD試作機の各種機能の検証を行った。また、新しい治療機器の開発に関して、心筋梗塞後の心不全発症を予防するカテーテル型治療装置の開発の研究を実施した。
心磁図による不整脈の機序解明と診断精度向上に関し、心磁解析による左脚ブロックを呈した左室機能低下患者の心臓イベント予測、心磁解析による心室再分極不均一性の検出とそれによる心臓イベント予測:拡張型心筋症での検討の研究を実施した。
研究業績
- Uemura K, Inagaki M, Zheng C, Li M, Kawada T and Sugimachi M. A novel technique to predict pulmonary capillary wedge pressure utilizing central venous pressure and tissue Doppler tricuspid/mitral annular velocities. Heart and Vessels. -, -, 2014.
- Kawada T, Akiyama T, Shimizu S, Sata Y, Turner MJ, Shirai M and Sugimachi M. Acute effects of arterial baroreflex on sympathetic nerve activity and plasma norepinephrine concentration. Autonomic Neuroscience:Basic and Clinical. 186, 62-68, 2014.
- Li M, Zheng C, Kawada T, Inagaki M, Uemura K and Sugimachi M. Adding the acetylcholinesterase inhibitor, donepezil, to losartan treatment markedly improves long-term survival in rats with chronic heart failure. European Journal of Heart Failure. 16, 1056-1065, 2014.
- Kawada T and Sugimachi M. Application of acupuncture to circulatory regulation using engineering approach. Proceedings of Life Engineering Symposium 2014. -, 68-69, 2014.
- Une D, Nakanishi K, Shimizu S, Nakai M and Kato G. Cephalic vein pseudoaneurysm after blunt trauma in a patient with arteriovenous fistula for hemodialysis. Circulation Control. 35, 232-234, 2014.
- Kawada T, Li M, Zheng C, Shimizu S, Uemura K, Turner MJ, Yamamoto H and Sugimachi M. Chronic vagal nerve stimulation improves baroreflex neural arc function in heart failure rats. Journal of Applied Physiology. 116, 1308-1314, 2014.
- Sakurai S, Kuroko Y, Shimizu S, Kawada T, Akiyama T, Yamazaki T, Sugimachi M and Sano S. Effects of intravenous cariporide on release of norepinephrine and myoglobin during myocardial ischemia/reperfusion in rabbits. Life Sciences. 114, 102-106, 2014.
- Nakanishia K, Watanabe R, Shimizu S and Nakai M. Efficacy of contrast-enhanced ultrasonography in detecting graft rupture sites after abdominal aortic aneurysm repair. Interactive Cardiovascular and Thoracic Surgery. 18, 250-252, 2014.
- Shimizu S, Kawada T, Une D, Shishido T, Kamiya A, Sano S and Sugimachi M. Hybrid stage I palliation for hypoplastic left heart syndrome has no advantage on ventricular energetics: a theoretical analysis. Heart and Vessels. -, -, 2014.
- Takaya Y, Kumasaka R, Arakawa T, Ohara T, Nakanishi M, Noguchi T, Yanase M, Takaki H, Kawano Y and Goto Y. Impact of Cardiac Rehabilitation on Renal Function in Patients With and Without Chronic Kidney Disease After Acute Myocardial Infarction. Circulation Journal. 78, 377-384, 2014.
- Miyamoto T, Bailey DM, Nakahara H, Ueda S, Inagaki M and Ogoh S. Manipulation of central blood volume and implications for respiratory control function. American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology. 306, H1669-H1678, 2014.
- Shimizu S, Akiyama T, Kawada T, Kamiya A, Turner MJ, Yamamoto H, Shishido T, Shirai M and Sugimachi M. Medetomidine Suppresses Cardiac and Gastric Sympathetic Nerve Activities but Selectively Activates Cardiac Vagus Nerve. Circulation Journal. 78, 1405-1413, 2014.
- Nakanishi K, Tajiri N, Nakai M and Shimizu S. Recurrent arterial aneurysm rupture of the upper extremity in a patient with vascular-type Ehlers-Danlos syndrome. Interactive Cardiovascular and Thoracic Surgery. 19, 702-704, 2014.
- Seo K, Inagaki M, Hidaka I, Fukano H, Sugimachi M, Hisada T, Nishimura S and Sugiura S. Relevance of cardiomyocyte mechano-electric coupling to stretch-induced arrhythmias: Optical voltage/calcium measurement in mechanically stimulated cells, tissues and organs. Progress in Biophysics and Molecular Biology. 115, 129-139, 2014.
- Turner MJ, Kawada T and Sugimachi M. Static characteristics of the aortic baroreflex following blockade of unmyelinated baroreceptor activity with resiniferatoxin. Proceedings of Life Engineering Symposium 2014. -, 36-38, 2014.
- Turner MJ, Kawada T, Shimizu S and Sugimachi M. Sustained reduction in blood pressure from electrical activation of the baroreflex is mediated via the central pathway of unmyelinated baroreceptors. Life Sciences. 106, 40-49, 2014.
- Kamiya A, Kawada T and Sugimachi M. Systems physiology of the baroreflex during orthostatic stress: from animals to humans. Frontiers in Physiology. 5(256), , 2014.
- Nakanishi M, Takaki H, Kumasaka R, Arakawa T, Noguchi T, Sugimachi M and Goto Y. Targeting of High Peak Respiratory Exchange Ratio Is Safe and Enhances the Prognostic Power of Peak Oxygen Uptake for Heart Failure Patients. Circulation Journal. 78, 2268-2275, 2014.
- 杉町 勝. 圧受容体反射. 循環器内科. 76, 90-94, 2014.
- 川田 徹, 杉町 勝. 実験とシミュレーションの対比による非線形圧反射解析. 循環制御. 35, 89-97, 2014.
- 杉町 勝. 臓器の血流自動調節能とその破綻. 血圧. 21, 910-912, 2014.
- 杉町 勝. 慢性心不全に対する迷走神経刺激. Clinical Neuroscience. 32, 1374-1375, 2014.
- 杉町 勝. 迷走神経刺激によるデバイス慢性心不全治療. 循環器専門医. 22, 209-214, 2014.
- 稲垣 正司, 杉町 勝. 迷走神経刺激による心不全治療. Annual Review 循環器2014. -, 65-74, 2014.
最終更新日:2021年10月01日