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生体医工学部

Ⅰ.概要

生体医工学部は、2004年より山岡哲二4代目部長が指揮をとり、このたび44年目を迎えることとなった。旧生体工学部設立以来、工学技術を中心として、分子生物学・生化学・薬学等の最新手法を取り入れることで新たな治療法や医療デバイスの研究を進めている。人工血管や人工弁等の外科的デバイス、薬物送達システム(DDS)キャリヤ、再生医療関連技術の開発を具体的なターゲットとし、特に、生体組織を材料とした再生医療用デバイスの臨床化に向けて精力的に研究展開している。近年、脱細胞化異種血管に自己組織誘導機能を搭載することで、世界初の内径2 mmという小口径人工血管の大動物実験開存化に成功した。現在、中長期開存性試験を実施すると共に、その臨床化に必要な生物学的安全性重要項目をGLP準拠で実施し、臨床研究に向けた準備を完了しつつある。また、近年注目されている、幹細胞移植療法の安全性の確保や移植効果の検証を可能にする新たな工学技術の開発を進めている。

Ⅱ.業績内容

(1) 研究業績

  1. 臨床的意義を有するサイズの小口径脱細胞化血管の開発

    内径3 mm以下で外科手術に利用可能な長さの小口径血管は未だに存在しない。合成材料では抗血栓性が不十分で血栓性閉塞を起こす。そこで、臨床で要求される小口径血管のサイズ的同等性に着目して食用ダチョウの頸動脈由来の脱細胞小口径人工血管を開発した。脱細胞化血管はコラーゲンによる血栓形成のために小口径での開存化は困難である。そこで、内皮の再生を誘導するペプチド配列で修飾することでミニブタ大腿動脈-大腿動脈交叉バイパス術において内径2 mmのロングバイパスの開存化に成功した(図1)。ペプチド分子が循環細胞を効率良く捕捉し、血管内腔は1日程度で細胞に覆われ血栓性閉塞を抑制できる。現在、安全性試験をほぼ完了しファーストインヒューマン試験の準備を進めている。

    臨床的意義を有するサイズの小口径脱細胞化血管の開発
  2. 移植幹細胞の分布と生死の追跡

    間葉系幹細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来細胞を移植する臨床研究が進んでいるが、移植した細胞の生着率や生存期間は明らかでない。そこで、観察深度と分解能に優れている磁気共鳴画像診断法(MRI)を利用したin vivo細胞追跡法を開発した。すなわち、水溶性高分子をベースとした、高分子化水溶性MRI造影剤を細胞内に送達する技術を開発した。開発した造影剤(図2)は、細胞増殖、細胞分化能力、増殖因子などの分泌能力には影響を与えず、さらに、細胞外へ漏出しないことも1ヶ月間確認した。また、この造影剤を細胞が死滅した場合に細胞外に漏出し、血流を介して尿中に排泄されるように設計したことで、移植幹細胞の生存期間と生存率を低侵襲で、定量的に追跡することに成功した。現在は、より簡便な手法で効率よく細胞内に導入できる高分子化水溶性MRI造影剤を開発中である。

    移植幹細胞の分布と生死の追跡
  3. 脳などの微小血管を撮像できるMRI造影剤

    MRIを用いた血管造影法は、広く臨床応用されているが、非造影による撮像法では主要な血管構造しか可視化できないという大きな問題がある。そこで、撮像時間内に血中を安定に循環し、その後直ちに排泄される高分子MRI造影剤を開発してきた。分岐型ポリエチレングリコールの末端に“適切な疎水性基”とGdキレートを適正な割合で導入することで、高分子造影剤の一時的な凝集構造の形成による血中寿命の向上と、その凝集構造の崩壊によるすみやかな体外排泄により、微細血管網を高精細に撮像できる高分子MRI造影剤の開発に成功した。MRIによる脳動脈瘤撮像への適応についても成功し、今後、さらなる脳血管系疾患への適応を進めたい。

    脳などの微小血管を撮像できるMRI造影剤
  4. 超高圧がん治療装置の臨床化

    哺乳類のあらゆる細胞が200 MPa10分間の室温静水圧処理により死滅する現象を確認した。一方、細胞外マトリックスの変化(変性)は最小限に止まった。すなわち、腫瘍発生部位を摘出して体外で超高圧処理することで腫瘍細胞を含む全ての細胞を死滅化させ、処理後の “不活化”組織を摘出部位の外科的再建用の自己由来スキャホールドとして利用することに成功した。
    まずは、関西医科大学森本医師(現・京都大学形成外科教授)と共同で、先天性巨大色素性母斑を対照とした研究を開始した。色素性母斑とは真皮の中に母斑細胞とよばれるメラニン色素を産生する細胞が存在し、整容上の問題だけでなく悪性黒色腫のリスクも高い。これまでに、13例の臨床試験を完了してその効果を確認した。さらに、改良型超高圧印加装置を医療機器とする治験の準備を始めた。

    超高圧がん治療装置の臨床化
  5. 新たな高分子治療システムの創出

    代謝異常疾患の治療を達成する新規治療法、DNCS(Drug Navigated Clearance System)を開発した。毎日2 gのリポプロテイン(LDL)を代謝する脂質代謝経路に着目し、LDLレセプター認識分子とβ2ミクログルブリン(β2M)の抗体を連結した薬剤分子(ナビゲータ)を作製した。血中のナビゲータはβ2Mを捕捉した状態でLDLレセプターを発現した肝臓細胞に誘導されることを細胞およびマウスを用いて実証した。この戦略を用いて、様々な病因物質(β2M, 自己抗体)の血中濃度を低下させることで、透析アミロイドーシスやリウマチ性疾患治療への応用を目指している。
    また現在、新型コロナウイルスワクチンや心筋梗塞遺伝子治療に資するmRNA送達高分子キャリアの創出を目指して研究をすすめている。

    新たな高分子治療システムの創出
  6. 心筋梗塞の再生医療

    心筋細胞は増殖能に乏しく、心筋梗塞により心筋細胞が死んでしまった部分は元通りには再生しない。我々は、ハイドロゲルを心筋に注入することで心機能の改善や悪化防止を図る研究に取り組んでいる。ハイドロゲルは、水を内部に含む三次元網目構造を持つ高分子である。高分子の分子設計・合成を通して、注射器で心筋に直接注入でき、心筋細胞の拍動を利用してゲル化するようなハイドロゲルの開発を行っている。左心室壁厚を維持するのに必要なゲルの硬さを得るため、分子量や架橋密度の制御、および分子構造の検討を行っている。また、ハイドロゲル内に細胞等を内包することで、心筋機能の再生を促進するような方法も考えている。

    心筋梗塞の再生医療
  7. 歯槽骨再生のための薬剤徐放性多孔体

    歯周病と心疾患の間には様々な関連性が指摘されている。我々は、歯周病治療のための骨再建足場の機能化を目指して、多孔体の表面改質技術の開発を進めている。足場材料に依存せずにヘパリン介在で細胞成長因子を材料表面に固定化する手法を開発し、多孔体内部への組織浸潤の促進効果を報告した。また大阪歯科大学橋本医師との共同研究のもと、同手法を用いた多孔体による歯槽骨再生の促進効果を見出した。ヘパリンを介して多孔体表面に成長因子を固定化することで、成長因子の活性維持、長期間の薬物徐放を達成し、効率的な歯槽骨再生のための材料表面設計を目指す。

    歯槽骨再生のための薬剤徐放性多孔体

Ⅲ.今後の展望

上述のごとく、小口径人工血管や腫瘍殺滅高圧装置など、いくつかの研究シーズを臨床化間近の段階まで持ってくることが出来ている。いずれも世界初の医療機器であるので、そのファーストインヒューマン研究は、薬品の第一相試験と異なって、最終製品を適応部位にて試験する必要がある。ようやく準備が整ってきたことから、病院診療科とも協力して、その臨床化と製品化を成し遂げたい。さらに、第3,第4の新たな医療機器の創出に向けて、センター内外、国内外を問わず、情報交換・共同研究を活発化させていくことが重要と考えている。

最終更新日:2021年10月05日

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