YOSHIO TAHARA
【専門領域】
循環器救急
私が医師を志したのは、幼い頃から人を相手にした仕事に就きたかったという考えがあったことと、決まり切った形のゴールがなく、患者さんそれぞれに最適な治療を提供するということは100点満点がなく、人生かけて探求し続けられる職業だと感じたからです。そのため、医療の分野で何がなんでもこれをやりたいというこだわりまでは持ち合わせていませんでしたが、このことが逆に必要とされていることなら何でもやるということに繋がり、私の強みとなりました。結果論ではありますが、今思うとこだわりがなかったことにより、色々なことを吸収することができました。
出身は神奈川県三浦市ですが、大学は山口大学を選択しました。当時の教授から「授業に無理して出なくていい。学生時代にしかできないことをどんどんやりなさい」と言われてきたので、勉強一辺倒ではなく、のびのびとした学生時代を過ごすことができました。山口の歴史や文化に触れたことは私にとっても大変貴重な経験となりました。また「国家試験は6割取れればいい。但し電話帳のような問題集を試験前の3ヶ月という短い期間で理解できるほどの力がないと、忙しい医師の仕事は務まらないぞ」とも教授からは言われており、のびのびとした学生生活ではありましたが、当時からそれだけ医師は過酷な仕事であるという覚悟をもって学業に励んでいました。実際に医師になった後に教授の言葉は正しかった。と痛感しました。
初期研修先として選んだ横浜市立大学で診療科をローテーションした時に感じたのは、診療科によってカンファレンスの時間や日々の過ごし方が全く違うということ。また循環器分野の中でも様々な疾病や治療法がありますし、すぐに結果が出るものもあれば結果が出るまでに時間がかかる診療科もあります。おそらく、人にはそれぞれ体内時計というか、その人に合ったリズムが存在すると思います。自分のスタイルに合うか合わないは、診療科を選択する上でとても重要です。循環器は忙しい科であると思います。実際に私自身も四六時中患者さんのことを考えていました。ただ忙しいことも、患者さんのことを常に考え続けることも、私にとってまったく苦になりませんでした。そういった点から、私にとって循環器は働き方としてスタイルがあっていたのだと感じましたし、忙しさに勝るやりがいがあるため、やりがいと成果のバランスをみた時にも魅力がある科だと感じました。
レジデントとして勤務していた、ここ国立循環器病研究センターには2014年に戻ってきました。上司からは、この病院と患者さんのためになることであれば好きなようにやってほしいと言われ、自分だからこそできる必要不可欠な役割はなにか?を突き詰めた結果が循環器救急医という答えでした。当時は救急医療も各専門医が対応していました。自分の専門分野であれば、とても高度な治療を提供することができますが、救急で搬送されてくる患者さんが、必ずしも初期対応した医師の専門分野とは限りません。そのため、搬送された患者さんを的確に診断して、治療しやすいように処置して各専門医に引き継ぐという役割は必要だと思ったのです。つまり日本で唯一の循環器のナショナルセンターである国立循環器病研究センターに集まる優秀な専門医が最高の治療ができるよう橋渡しをする役割を担いたいと考えたわけです。救急搬送された患者さんを一人で全て担うのではなく、パートに分けて、それぞれの専門医が実力を発揮できる仕組みを整えることで、治療の質を向上できると考えました。
専門医への橋渡し以外にも、救急医療で重要となるのは救急隊員との連携と信頼関係の構築です。理由としては、当院に対応すべき患者さんを適切に搬送してもらう必要があるからです。私が救急を担当しはじめた当時は、循環器疾患だけではなくさまざまな症状の患者さんが搬送されてきました。実際、当院に搬送されるよりも他の医療機関で治療を受けた方が患者さんにとっても良い結果になるでは?と感じるような場面も多々ありました。とはいえ、一刻を争う事態ですのでお断りすることも、嫌な顔をすることも決してしませんでした。まずは救急隊の皆さんに頼られる存在になろうと思い、極力断らないようにしていました。正直なところ、最初は大変なことも多くありました。骨折のように明らかに整形外科分野の患者さんであっても検査をし、患者さんが痛みを訴えたら痛み止めを処方し、最適な治療を受けられる病院に連絡して引き継ぐ。また救急隊が直接頼むと断られるような病院へは、私から紹介状を書いて受け入れてもらえるようにサポートもしていました。そのような姿をみてか、救急隊の皆さんも、どのような症状の患者さんを当院に搬送すべきなのか、自分たちで考えて出してくれるようになりました。今では「国立循環器病研究センターならこの患者さんを助けられるのでは?」としっかり症状を判断した上で、搬送して下さるようになりました。このような状態になったのも信頼関係あってのことだと思います。また救急隊の方がしっかり搬送先を判断できる手助けになればと、消防本部で症例検討会や救急車の中でできる処置についての指導を続けています。
循環器救急は、全国でもまだ取り組んでいるところが少ない分野でもあります。また専門病院は地域に偏在しているため、全ての人が質の高い救急医療を受けられる体制はまだまだ整備されていません。2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(以下、脳卒中・循環器病対策基本法)が成立し、翌年施行されました。循環器病の発症の疑いがある患者さんを迅速に搬送し適切に医療機関の受入れが実施できる体制を構築することが求められています。そのためにも当院が循環器救急の模範となり、体制作りはもちろんのこと指導を続けていくべきだと感じています。循環器救急疾患は処置が30分以内だったか1時間以内だったかで、生死が分かれるほど緊急性を要します。スピードが命に直結します。最近は通信インフラも整い、スマートフォンでも大容量の画像が送れるようになりました。通信システムを使って救急救命士が現場から病院にあらかじめ患者さんの情報を送ることで受け入れ可能な病院が表示され、一番適切な医療機関がすぐに選択できる等、ICT技術を最大限活用することで時間短縮を図ることもできるようになってきました。しかし、デジタルが得意な医療従事者ばかりではないため、まずはモデル地区を作ってその成功例を示し、普及させていく必要があります。社会全体に通信インフラが整い始めた今こそ救急だけではなく、医療システム全体が変わっていく転換期だと感じています。そのような中で、私に求められている役割は変化を率先して起こすことだと思っています。かかりつけ医や在宅医から送られてきた緊急性が高い患者情報に関して、遠隔でリアルタイムにアドバイスし、必要に応じて専門医や適切な医療機関をアテンドする。救急隊が現場で活躍することにも配慮しながら、最適な専門医に橋渡しが実現できれば、今以上に質が高い救急医療を提供できるようになりますし、これこそ救急医の目指すべき姿だと思っています。
救急医は一般的には総合病院に勤務することが多いので、循環器だけでなく、全ての救急患者を診ることになりますが、当院は循環器系の特定機能病院ですから、循環器救急医を育てる全国でも数少ない施設でもあります。脳卒中、心筋梗塞、不整脈、心不全や大動脈疾患などの循環器救急疾患を特に学びたいという人にとっては毎日特定の病気の患者さんばかりを診ることができるので、循環器に興味があり、短期間でも集中的に勉強できるという意味では日本で一番よい環境であると言い切れると思います。循環器のサブスペシャリティも強みになると思いますが、救急というのは全般を診る力も必要になります。それを仕分けて然るべき専門医に引き継ぐ力を習得すべきと思いますし、それを習得できれば救急医として多くの患者さんの命を救うことができます。
また国立循環器病研究センターは北海道から沖縄まで全国から多彩な医療スタッフが集まっているので、そのバックグラウンドも多種多様で大変ユニークです。一人一人考え方も違い、自分の意見を通すのか譲るのか、譲ったとしても信念は曲げない個性的な方々が多いです。出身地だけじゃなく、どういう経緯を辿ってどういう人たちと接してきたかによっても考え方や患者さんに対する姿勢も変わります。そういった点でも当院は、様々な人との出会いを通じて多くの刺激と学びを得ることができるため、医師人生にプラスになるに違いありません。
循環器専門医を目指そうとされている方や当院での研修をご検討されている方に伝えたいことは、自分の可能性を絶対に諦めないで欲しいということです。可能性を追求すれば必ず結果が出ますが、諦めてしまったらそこで終わりです。国立循環器病研究センターには出身大学や出身高校に関わらず、若手医師を受け入れていますし、可能性を引き出してくれる医療スタッフが多く在籍しています。あなたの可能性を広げられる良い機会になると思いますし、私自身も皆さんが一歩踏み出し、成長できる瞬間に立ち会うことができたとしたら大変嬉しく思います。
Doctor Profile
田原 良雄
YOSHIO TAHARA
日本循環器学会専門医
日本内科学会総合内科専門医
日本集中治療医学会専門医
日本救急医学会専門医・指導医
その他疾患や実績については以下よりご確認ください。
Acsess
〒564-8565 大阪府吹田市岸部新町6番1号
虚血性心疾患の検査として、近年ではマルチスライスCT検査での冠動脈評価の精度が向上し、外来で冠動脈の解剖学的な評価が可能になりました。
※緊急受診について
以下のような症状が出ている場合は緊急にかかりつけ医を受診ください。
医師から処方されている(ニトログリセリンなどの)舌下錠を3回舌下しても症状があるとき発作が頻回に起こるようになってきたとき
※夜中でも「朝まで・・・」と我慢する必要はありません。
※外来の日が近くても、上記のような症状があったら、すぐにかかりつけの病院に連絡して下さい。