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国立循環器病研究センター 冠疾患科
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 
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疾患・治療等コラム

冠動脈疾患に対する冠動脈バイパス術とカテーテル治療の選択

冠動脈疾患に対する冠動脈バイパス術とカテーテル治療の選択

狭心症、無症候性心筋虚血といった冠動脈疾患では、薬物療法で狭心症の改善が十分でない場合、心臓の血流低下(虚血)の範囲が広いため予後に悪影響を及ぼす可能性がある場合にはカテーテル治療(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)による血行再建術(冠動脈血流の改善を得ること)が検討されます。血行再建が必要か、PCIとCABGのどちらが適切か、治療方針の決定にあたっては治療のメリット、リスクの評価が大切です。本コラムではPCIとCABGの治療方針の決定のプロセスについてご紹介したいと思います。

カテーテル治療(PCI)とは?

冠動脈のカテーテル治療(PCI)は、局所麻酔薬を使用して手首、太腿の付け根、肘からカテーテルと呼ばれる細い管(直径数mm)を挿入して行われます。PCIではバルーンと呼ばれる特殊な風船やステントと呼ばれる金属の筒を冠動脈の病変に進め、血管の中から狭くなった部分を広げることで心臓の筋肉への血流を改善させます。PCIの1番の利点は、メスを使わず、傷が数mmと小さいため、一般的に体への負担が少ないことです(一般に入院期間は4日程度)。また、PCIは冠動脈造影(カテーテルによる冠動脈病変の診断検査)からすぐに移行することが可能なため、早急な血流改善が必要な心筋梗塞時の血行再建にも有用です。
 一方、PCIの問題点として、治療した冠動脈の狭窄部分が再び狭くなってくる再狭窄が起こることがあります。初期のステント(ベアメタルステント)では1年間に20%近くの再狭窄が報告されていました。近年は再狭窄予防の薬が塗られた薬剤溶出性ステントが開発され、新しい世代の薬剤溶出性ステントの再狭窄率は1年で約5%程度まで低下しています。しかし、糖尿病、慢性腎臓病のある方、高度石灰化のある病変、血管の枝分かれしている部分(分岐部)の病変、もともと完全に詰まっていた病変(慢性完全閉塞性病変:CTO)は再狭窄のリスクが高いと言われています。
 また、慢性完全閉塞性病変や高度石灰化など複雑な病変ではPCIによる治療自体が困難なケースもあります。そのような場合にはCABGの方がより望ましい場合があります。

冠動脈バイパス術(CABG)とは?

冠動脈バイパス術(CABG)は1960年代から開始された歴史のある治療で、冠動脈の狭くなった部分より先の部分に小さなメスで穴を開け、グラフトと呼ばれる自分の体に存在する血管を取ってきて縫い付けることで冠動脈の血流を改善させる治療です(図1)。グラフトに用いられる血管はいくつか種類がありますが、内胸動脈と呼ばれる血管を用いたグラフトは長期にわたって閉塞しにくいため、予後改善に重要な左前下行枝の治療のゴールドスタンダードとなっています(10年開存率は90%程度)。また、冠動脈の狭窄がいくつもの枝にわたってある場合にも、複数のグラフトを用いることで同時に血行再建を行うことも可能です。多数の複雑な冠動脈病変を持った患者さんでは、完全な血行再建の達成という点でCABGの方がPCIよりも優れており、生命予後改善に有利とされています。
 一方、CABGは全身麻酔で行う外科手術のため、手術の合併症リスク評価が重要です。手術リスクの評価方法にはSTSスコア、EuroSCORE II、JapanSCOREと呼ばれるリスク指標があり、患者さんの年齢、性別、合併疾患などの情報をもとに、手術を行った場合の死亡の危険性、合併症の危険性の予想を行います。CABGに適した病変でも手術のリスクが高いと判断される場合にはPCIや薬物療法を優先して行う場合があります。

冠動脈バイパス術(CABG)とは?

安定冠動脈疾患患者のPCIとCABGの選択に関わる要因

狭心症、無症候性心筋虚血といった安定冠動脈疾患に対してPCIとCABGのどちらを行うのが良いのか?については様々な要因が関わってきます。これまでの研究では、1)冠動脈の病変が1枝病変か多枝病変か、2)複雑な冠動脈病変かどうか、3)糖尿病があるかどうか、4)左主幹部の病変を含むかどうか、といったことによりPCIとCABGの治療成績が異なること報告されています。このような蓄積されたデータに基づき、日本循環器学会と日本心臓外科学会から冠動脈疾患患者に対する血行再建の指針となる合同ガイドラインが出されています(表1)。推奨クラスの見方としてはⅠ、Ⅱa、Ⅱbの順に推奨度が強く、逆にクラスⅢはその治療が推奨されないということになります。
安定冠動脈疾患患者のPCIとCABGの選択に関わる要因

(1)1枝病変(冠動脈の1本のみに病変がある場合)
冠動脈には左前下行枝、左回旋枝、右冠動脈と大きな枝が3本あります(図2)。中でも左前下行枝は1本で心臓の約半分に血流を送っているため特に重要な血管です。左前下行枝の根本に近い部分に虚血を来す病変があると将来的に命に関わる可能性があるため積極的かつ確実な血行再建が望まれます。冠動脈の1本のみに病変がある場合を1枝病変と言いますが、生命予後に関わる左前下行枝の病変の有無によってPCIとCABGの推奨度が変わってきます。内胸動脈を用いた左前下行枝へのCABGは、長期成績が優れているため有効な血行再建法として古くから認識されています。一方、PCI技術やデバイスの進歩により、PCIの成績が向上しており、左前下行枝の1枝病変についてはPCIも標準的な治療法となってきています。実際、慢性完全閉塞性病変や高度石灰化病変などでPCIの治療が困難でない限りは低侵襲なPCIが行われることが多いです。また、左下行枝以外の1枝病変の場合はCABGが単独で行われることは稀で、虚血の範囲に応じて、侵襲度の低いPCIや薬物療法が選択される場合が多いです。

(2)多枝病変

冠動脈の複数の血管(2〜3枝)に病変があることを多枝病変といい、1本の血管病変と比較して重症度が高くなります。多枝病変へのPCIの治療成績は、病変の複雑性と糖尿病の有無で変わります。
冠動脈病変の複雑性の評価にはSYNTAXスコアと呼ばれるリスク指標が用いられます。複雑な病変ほどSYNTAXスコアが高くなりPCIの長期成績が悪くなります。SYNTAXスコアが低い症例(22以下)ではPCIとCABGの成績に明らかな差がないため、PCIで完全血行再建を目指すことも可能ですが、SYNTAXスコアが高い症例(33以上)では、5年後の総死亡率、心筋梗塞発生率、再血行再建率(再び治療が必要になる可能性)のいずれもCABGの方が有利なため、CABGが推奨されます。また、糖尿病のある多枝病変患者ではPCIよりもCABGの長期成績が優れることが数多くの研究で報告されており、CABGの推奨度がより高くなります。

(3)左主幹部病変
冠動脈の左主幹部は左前下行枝と回旋枝の手前の部分で、左主幹部の病変は非常に広い範囲に虚血を起こすため、突然死の原因となりうるなど予後不良です。CABGによる血行再建は薬物療法と比較して左主幹部病変を有した患者さんの予後を改善することが示され、長い間、CABGは左主幹部病変の絶対適応とされてきました。一方、PCIは、再狭窄の問題などから左主幹部病変については禁忌とされていましたが、近年はPCIの成績向上に伴い、PCIが選択されるケースも増えてきています。ただし、SYNTAXスコアが高値(33以上)となるような複雑な病変や左前下行枝と回旋枝の枝分かれの部分に2本のステントを要するような病変ではPCIの成績が悪くなるためCABGがより推奨されます。

当院ではハートチームで協議して患者さんの治療方針を決定しています

上記のガイドラインは血行再建の方法を考える上での基本となりますが、それぞれの患者さんの治療にあたっては、臨床背景、PCIおよびCABGの合併症リスク、認知機能や身体活動度、各施設の成績や体制、患者さんの意向などを全て考慮し、治療方針を決定していくことが重要です。このような治療方針の決定は一人の医師がするのではなく、心臓内科医、心臓外科医を含むハートチームで協議して行うことで多面的な角度から患者さんの病態を見極め、最適な治療法を検討することが可能になります。国立循環器病研究センターでは、血行再建が検討される症例についてはハートチームがカンファレンスで協議して治療方針を決定しており、患者さんに最善な治療法を提案できるよう取り組んでいます。

症例紹介

【Case 1】ST上昇型下壁心筋梗塞に対し緊急PCI施行後、左主幹部を含む残存病変に対しCABGを追加し、ハイブリッド冠動脈血行再建を実施した一例
症例:71歳 男性
現病歴:過去喫煙歴があり、近医で高血圧症に対し薬物治療中。当院受診前日、ゴルフ中に呼吸困難を自覚し、帰宅後数回嘔吐した。その後胸痛が出現し、翌朝になっても持続していたため救急要請した。ST上昇型下壁心筋梗塞(Killip 4)と診断し、緊急冠動脈造影を実施した。
冠動脈造影:右冠動脈#3 100%閉塞、左主幹部#5 50%狭窄、左前下行枝#6 90%狭窄、第1対角枝 99%狭窄、第2対角枝 99%狭窄、左回旋枝#11 50%狭窄、高位側壁枝 75%狭窄。
血圧が低下していたため大動脈バルーンパンピングを挿入後、右冠動脈に対しPCIを施行し、薬剤溶出性ステント(Xience Skypoint 3.0 mm*38 mm)を留置した。
左主幹部病変およびPCI不適病変を含む多枝の残存病変があり、SYNTAXスコア33点であることから、CABGを追加しハイブリッド冠動脈血行再建の方針とした。
第16病日、左内胸動脈-左前下行枝、右内胸動脈-第1対角枝-高位側壁枝の術式でCABGを実施した。術後経過は良好であり、術後12日目に退院した。

【Case 2】高度石灰化を伴う左主幹部病変を含む2枝病変であったが、間質性肺炎のため外科的治療はリスクが高く、PCIによる血行再建を行った糖尿病合併の一例
症例:77歳 男性
現病歴:複数の冠危険因子を有し、労作性狭心症に対しPCI歴があり当院通院中。糖尿病のコントロールが悪化し糖尿病・脂質代謝内科入院中に運動負荷試験を施行したところ、無症状であったが有意なST低下を認めたため冠動脈造影を実施した。
冠動脈造影:右冠動脈#1 75%狭窄、#4AV 50%狭窄、#4PD 90%狭窄、左主幹部#5 50%狭窄、左前下行枝#6 75%狭窄, #7 50%狭窄, 左回旋枝は低形成。
冠血流予備量比:右冠動脈 最大充血時0.95、左前下行枝 最大充血時0.76。
高度石灰化を伴う左主幹部病変を含む2枝病変(左前下行枝、右冠動脈)であり、SYNTAXスコア60点、糖尿病があることからCABGの方針で術前検査を進めた。呼吸機能検査で拘束性障害、胸部CTで両側の気腫性変化およびすりガラス影を指摘された。血液検査でKL-6 2622 U/mLと上昇しており、間質性肺炎が疑われ、外科的治療はリスクが高いためPCIの方針に変更した。
Rotablatorを併用し、LMT#5-LAD#6に薬剤溶出性ステント(Xience Sierra 2.75 mm*15 mm, Xience Sierra 3.0 mm*28 mm)を留置した。至適薬物療法を強化し、運動負荷試験で心電図変化が生じないことを確認し術後5日目に退院した。間質性肺炎については他院呼吸器内科に紹介した。

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