MENU

国立循環器病研究センター 冠疾患科
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 
法人番号3120905003033
〒564-8565 大阪府吹田市岸部新町6番1号 
電話:06-6170-1070(代)

コラム

Column

疾患・治療等コラム

冠動脈CTでここまでわかる 一歩進んだ冠動脈CT活用法

はじめに

冠動脈CTは、狭心症を診断するための検査として、近年広く用いられるようになってきている検査法です。そして、最近では狭心症の診断のためのみならず、予防のためにも有用な検査と考えられるようになってきています。このコラムでは、冠動脈CTについて、その特徴や一歩進んだ評価法、使い方についてご紹介いたします。

狭心症とは

狭心症は、心臓を栄養する血管(冠動脈)の狭窄や閉塞によって、心臓に十分な血液が供給されないことによって引き起こされる疾患です。典型的には、階段を上るなどの労作で心臓に負荷がかかった際に、胸部圧迫感などの症状が出現します(労作性狭心症)。心筋梗塞に移行しやすい不安定な狭心症(不安定狭心症)では、安静にしていても胸部症状が出現することがあります。

狭心症はどのようにして診断するのか?

狭心症は、冠動脈に狭窄や閉塞があることを確認(解剖学的評価)したり、その結果、心臓に十分な血液が供給されていないことを確認(機能的評価)したりすることで診断することができます。解剖学的評価を行う方法には、心臓カテーテル検査や冠動脈CTがあり、機能的評価を行う検査に、心筋血流シンチグラフィーやアンモニアPET検査、運動負荷心電図検査などがあります。
この中で、心臓カテーテル検査は最も正確に冠動脈の解剖学的評価をすることができます。しかも、心臓カテーテル検査時には、Fractional Flow Reserve(FFR)検査という検査を追加する事で、正確な機能的評価もできるため、狭心症の診断を確定したり、治療方針を決定したりするうえで、非常に重要な検査となっています。しかし心臓カテーテル検査は、上肢あるいは鼠径部の血管から、心臓のすぐ近くにある冠動脈の入口部まで、カテーテルと呼ばれる細長い管を挿入し、カテーテルを通じて冠動脈に直接造影剤を流し込んでX線撮影することにより、冠動脈を映し出す検査ですので、侵襲を伴う(身体への負担がある)というデメリットがあります。

非侵襲的な冠動脈狭窄の評価

冠動脈の解剖学的評価は、以前は心臓カテーテル検査を行うことでしか、得ることができませんでした。しかし、撮像技術の進歩により、CTでも冠動脈の解剖学的評価を正確に行うことができるようになってきており、最近では、冠動脈CTは広く用いられる検査になってきています*1。冠動脈CTでは、血管を拡張するような薬や脈を安定させる薬を投与したのち、点滴から造影剤を注射し、心電図と同期させ、冠動脈に造影剤が満ちる最適なタイミングでCTの撮影を行います。撮影時間は10分もかからず、入院中でも外来でも検査を受けることができます。特に冠動脈CTは冠動脈狭窄の見落としが少ない検査であり(感度95%、特異度83%1)、冠動脈CTで狭窄がないということが分かれば、不要なカテーテル検査を減らすことができるため、患者さんの負担を減少させることができます。
例えば、不安定狭心症は、心筋梗塞に移行することがあるため、その疑いがある場合には入院を要したり、心臓カテーテル検査が必要になったりすることが多い疾患です。一方、心電図や採血などに異常が現れにくく、自覚症状以外に手掛かりとなる情報がない場合も多いため、不安定狭心症が疑われて心臓カテーテル検査をしても異常がない(不安定狭心症ではない)場合もよくあります。不安定狭心症が疑われる患者さんでも、採血や心電図検査などで異常がないような場合には、冠動脈CTが有用な場合があります。冠動脈CTで狭窄がないということが分かれば、不要なカテーテル検査を減らすことができ、早期に方針を決定することにつながります2

*1: アレルギー歴や不整脈など状況によっては、冠動脈CTが適さないあるいは実施できない場合もあります。

非侵襲的な冠動脈狭窄の評価

図1 冠動脈CTで得られる画像
CTの高い解像度により、冠動脈を詳細に評価することができます。

一歩進んだ評価法:冠動脈CTによる虚血評価(機能的評価)

通常の冠動脈CT検査では、冠動脈の解剖学的評価が中心になります。そのため、冠動脈に狭窄があったとしても、その狭窄により心臓に十分な血液が供給できなくなっているのかどうかを調べるためには、機能的評価を行う検査である心筋血流シンチグラフィーやアンモニアPET検査などの追加あるいは、心臓カテーテル検査によるFFR検査が必要でした。
冠動脈CT撮影の際に薬剤負荷を追加することで、機能的評価を行うことも可能になります。これをCTパーフュージョン検査といいます。これにより冠動脈の解剖学的評価と機能的評価を1度の検査で同時に実施することができます(図2)。最新のガイドラインにおいても、その診断能は心筋血流シンチグラフィーに劣らないとされており、その代替検査としての役割が期待されています3
さらに最近では、FFR検査で得られるような情報を、薬剤負荷を用いない通常の冠動脈CT画像から、コンピュータ演算により推定することも可能となってきています(FFR-CT)。

一歩進んだ評価法:冠動脈CTによる虚血評価(機能的評価)

図2 CTパーフュージョン検査

CTパーフュージョン検査を行うことで、冠動脈CTの解剖学的な狭窄度評価に加えて、心臓の筋肉への血流も併せて評価することができます。また、通常の冠動脈CTでは苦手とするような石灰化病変やステント留置部の評価にも有用です。

(A)もともと対角枝(D1)にステント治療が施行された既往のある方が、労作時の胸痛があり、冠動脈CTを行いました。(B)通常の冠動脈CTでは対角枝に留置されたステント内の狭窄度評価は不可能でしたが、(C)CTパーフュージョン検査を追加すると、対角枝が灌流する領域の血流の低下を認めました(矢印:赤色は血流が保たれている部分で青に近づくほど血流が低下しています)。(D)心臓カテーテル検査を行いますと、やはり対角枝のステント内に高度狭窄を認めました(矢印)。同部位にカテーテル治療を行っています。

一歩進んだ使用法:冠動脈CTによる狭心症・心筋梗塞の予防戦略

これまで説明してきたように冠動脈CTは、いま狭心症に罹患しているかどうかを調べる検査として非常に有用です。そして、冠動脈CTを上手く使えば、将来、狭心症や心筋梗塞を起こす可能性が高いかどうかも評価する事ができ、リスクの高い患者さんも、心筋梗塞発症前にその予防治療の強化をすることができます。患者さんが、将来狭心症や心筋梗塞を起こしやすいかどうかを調べるためには、①冠動脈の動脈硬化がどれほど進行しているか、②心筋梗塞や不安定狭心症を引き起こしやすいプラーク(動脈硬化病変)があるかどうかといったことを知る必要があります。
冠動脈の動脈硬化がどれほど進行しているかを表す指標に、カルシウムスコアというものがあります。冠動脈に石灰化があるということは動脈硬化が進行していることを示していますが、カルシウムスコアは、冠動脈がどれくらい石灰化しているかを表した指標です。これは造影剤を使用しない単純CTで評価可能です。無症状の中年患者を対象とした研究では、カルシウムスコア0の場合(≒石灰化がない場合)、その後10年間の死亡率は1%未満であったと報告されています4。またカルシウムスコアが高ければ高いほど死亡率が高くなるといわれています5(図3)。

一歩進んだ使用法:冠動脈CTによる狭心症・心筋梗塞の予防戦略

図3 冠動脈石灰化
単純CTでも冠動脈の石灰化(矢印)を判別し、冠動脈疾患のリスク評価が可能です。

心筋梗塞や不安定狭心症は、必ずしも高度狭窄から起こるわけではありません。軽度の狭窄であっても、そこにあるプラークが破裂してしまうと、血栓が付着して血管を閉塞してしまい、心筋梗塞の発症につながってしまいます。プラークには、そのような破裂を引き起きしやすい「不安定プラーク」というものがあることが知られており、造影剤を用いた冠動脈CTの画像を注意深く観察することで、その不安定プラークが見つかる場合があります。冠動脈CTでは不安定プラークを示唆する特徴的な所見としてlow attenuation plaque, positive remodeling, spotty calcification, napkin ring signという所見が知られています。心臓カテーテル検査では、例えば冠動脈内に近赤外線分光法を併用した血管内超音波検査(Near infrared spectroscopy intravascular ultrasound: NIRS-IVUS)のプローブを挿入することで、脂質成分に富んだ不安定プラークを正確に評価する事ができます。私達の検討でも、冠動脈CTでlow attenuation plaqueとpositive remodelingが認められれば、88.5%の確率でNIRS-IVUSでも脂質成分に富んだ不安定プラークが検出されることがわかっています6(図4)。

図4  CTで同定できる不安定プラーク 左前下行枝に狭窄とプラークを認め、Positive remodeling(赤矢印)を認めます。同部位のCT値は-3.7と低値であり、Low CT attenuation plaqueです。また、Napkin ring sign(*)やSpotty calcification(白矢印)も有しております。 同部位はNIRS-IVUS上も脂質成分を豊富に有しており、不安定性が高いといえます。

そして、2018年に報告された論文では、通常の診療に冠動脈CTを加えた場合、冠動脈CTを施行しなかった場合と比較し、5年間での心血管死や非致死性心筋梗塞の発生が有意に低下(2.3% vs. 3.9%; HR 0.59; 95%CI, 0.41-0.84; P=0.004)したということが報告されていますが、これは冠動脈CTが単に狭心症の診断だけではなく、予防戦略にも有効であることを示唆する結果であると考えられています7

おわりに

このように冠動脈CTは、従来は心臓カテーテル検査でしか評価できなかったような冠動脈の狭窄度に関する評価を非侵襲的に、しかも短時間で実施できる便利な検査です。さらに、薬物負荷を併用することで、1回の検査で冠動脈の解剖学的評価と機能的評価を同時に実施することもできます。そして、上手く使えば狭心症や心筋梗塞の診断のみならず予防にも役立てることができ、今後ますます臨床での活躍が期待される検査法であると言えるでしょう。

文献

 

  1. Budoff MJ, Dowe D, Jollis JG, Gitter M, Sutherland J, Halamert E, et al. Diagnostic performance of 64-multidetector row coronary computed tomographic angiography for evaluation of coronary artery stenosis in individuals without known coronary artery disease: results from the prospective multicenter ACCURACY (Assessment by Coronary Computed Tomographic Angiography of Individuals Undergoing Invasive Coronary Angiography) trial. J Am Coll Cardiol 2008; 52: 1724-1732, doi:10.1016/j.jacc.2008.07.031.
  2. Hoffmann U, Truong QA, Schoenfeld DA, Chou ET, Woodard PK, Nagurney JT, et al. Coronary CT angiography versus standard evaluation in acute chest pain. N Engl J Med 2012; 367: 299-308, doi:10.1056/NEJMoa1201161.
  3. 日本循環器学会. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)<https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf>(2021年5月15日閲覧).
  4. Blaha M, Budoff MJ, Shaw LJ, Khosa F, Rumberger JA, Berman D, et al. Absence of coronary artery calcification and all-cause mortality. JACC Cardiovasc Imaging 2009; 2: 692-700, doi:10.1016/j.jcmg.2009.03.009.
  5. Budoff MJ, Shaw LJ, Liu ST, Weinstein SR, Tseng PH, Flores FR, et al. Long-Term Prognosis Associated With Coronary Calcification. Journal of the American College of Cardiology 2007; 49: 1860-1870, doi:10.1016/j.jacc.2006.10.079.
  6. Kitahara S, Kataoka Y, Miura H, Nishii T, Nishimura K, Murai K, et al. The feasibility and limitation of coronary computed tomographic angiography imaging to identify coronary lipid-rich atheroma in vivo: Findings from near-infrared spectroscopy analysis. Atherosclerosis 2021; 322: 1-7, doi:10.1016/j.atherosclerosis.2021.02.019.
  7. Investigators S-H, Newby DE, Adamson PD, Berry C, Boon NA, Dweck MR, et al. Coronary CT Angiography and 5-Year Risk of Myocardial Infarction. N Engl J Med 2018; 379: 924-933, doi:10.1056/NEJMoa1805971.

Actual introduction

FAQ

医療関係者の方へ

Patient Referral

Interested Doctors

PAGE TOP