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循環動態制御部

循環バイオニック医学の研究

循環動態制御部では、生体、特に自律神経系との間で種々の情報を交換しながら、治療を行う医療機器の開発を行っています。バイオニック医学とは、生体のおける神経系の情報を解読して治療のためにフィードバックさせる方法や、生体の神経系を至適に刺激する方法をめざして行う研究開発を指しています。脳や神経系と情報を交換できれば、色々なバイオニック治療機器が実現できると考えられます。本研究では、迷走神経を電気刺激することで慢性重症心不全を治療することに成功しました。また血圧調節および心拍数調節の論理インターフェイスを開発し電子的に血圧・心拍数制御することに成功しました。

(1) 慢性心不全のバイオニック治療

重症の心筋梗塞では、心機能が低下して慢性期に持続的に交感神経の活動が増強します。これは心臓リモデリングを惹起して悪循環に陥り、予後を悪化させています。私たちは交感神経と拮抗する迷走神経を電気刺激することにより迷走神経機能を活性化させ、心臓肥大や心臓死が抑制できるかどうか検討しました。心筋梗塞を起こしたラットの迷走神経を2週後より6週間にわたって刺激したところ、心臓肥大が抑制されました(図1)。その後も20週まで観察したところ、死亡率が劇的に減少しました(図2)。

さらに、心不全が完成する前に迷走神経を一時的に電気刺激することにより、虚血再灌流モデルにおける心筋保護・心筋梗塞縮小・心不全抑止効果が認められました。

これらの効果の機序を解明するために、迷走神経の電気刺激の心臓内在性幹細胞について検討したところ、時間とともに幹細胞の増加、幹細胞アポトーシス抑制が認められました(図3)。

図1

図1 迷走神経刺激による心臓肥大の抑制、心機能低下の抑制

図2

図2 迷走神経刺激による生存率の劇的な改善

図3

図3 迷走神経刺激による心臓内在幹細胞の増加、アポトーシスの抑制

関連成果等

  • Li M, Zheng C, Sato T, Kawada T, Sugimachi M, Sunagawa K: Vagal nerve stimulation markedly improves long-term survival of chronic heart failure in rats. Circulation 109: 120-124, 2004.
  • Uemura K, Li M, Tsutsumi T, Yamazaki T, Kawada T, Kamiya A, Inagaki M, Sunagawa K, Sugimachi M. Efferent vagal nerve stimulation induces tissue inhibitor of metalloproteinase-1 in myocardial ischemia-reperfusion injury in rabbit. Am J Physiol Heart Circ Physiol 293: H2254-2261, 2007.
  • Uemura K, Zheng C, Li M, Kawada T, Sugimachi M. Early short-term vagal nerve stimulation attenuates cardiac remodeling after reperfused myocardial infarction. J Card Fail 16: 689-699, 2010.

(2) 慢性心不全の薬理学的バイオニック治療

心筋梗塞の縮小や心不全への移行・重症化の抑制には迷走神経活動を増加させることが重要ですが、電気刺激ではなく薬理学的な方法でこれが実現できないか検討しました。その結果、抗アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のドネペジルの経口投与にて同様の作用が再現できることが明らかになりました(図4)。

ドネペジル投与にてその作用点を検討したところ、ドネペジルはまず脳内に移行して迷走神経活動の遠心路を活性化し、その亢進した迷走神経活動が末梢のα7受容体を刺激して抗炎症作用により心臓リモデリングを抑制し、予後を改善すると考えられました。図5には脳室内に微量のドネペジルを長期投与した実験結果を示しています。その結果、中枢作用のみで経口投与時の効果を再現でき、著明な心臓リモデリング抑制作用、心機能や神経体液性因子の改善効果を示しました。

また迷走神経の電気刺激と同様に虚血再灌流直後から早期に投与することで、梗塞領域も縮小することを明らかにしました。

図4

図4 ロサルタン投与下でドネペジル経口投与による生存率の改善

図5

図5 ドネペジル中枢投与による心臓肥大の抑制、心機能低下の抑制

関連成果等

  • Li M, Zheng C, Kawada T, Inagaki M, Uemura K, Shishido T, Sugimachi M. Donepezil markedly improves long-term survival in rats with chronic heart failure after extensive myocardial infarction. Circ J. 77: 2519-2525, 2013.
  • Li M, Zheng C, Kawada T, Inagaki M, Uemura K, Sugimachi M. Adding the acetylcholinesterase inhibitor, donepezil, to losartan treatment markedly improves long-term survival in rats with chronic heart failure. Eur J Heart Fail. 16: 1056-1065, 2014.
  • Okazaki Y, Zheng C, Li M, Sugimachi M. Effect of the cholinesterase inhibitor donepezil on cardiac remodeling and autonomic balance in rats with heart failure. J Physiol Sci. 60: 67-74, 2010.
  • 特許出願:心筋梗塞縮小薬.

(3) 迷走神経活動賦活薬の系統的探索

前項で述べたドネペジルのように遠心性の迷走神経活動を賦活化する薬剤は重症心不全や心筋梗塞の治療薬として有用と考えられます。しかし麻酔下の動物で迷走神経の電気活動を記録することは難しく、また心臓への遠心路を分離することも困難でした。そこで私たちは、心臓の微小透析の手法を用いてアセチルコリンの分泌を測定することによって、迷走神経活動を賦活化する薬剤を探索できないか検討しました。その結果、グレリンの脳内投与、α2交感神経刺激薬(メデトミジンやグアンファシン)に迷走神経活動の賦活化作用があることが明らかになりました。

また交感神経活動を抑え難治性高血圧の治療に用いる圧反射活性化療法でも同時に迷走神経活動の賦活化が起きることを明らかにしました。

図6

図6 圧反射活性化療法を模擬する大動脈減圧神経刺激による心筋アセチルコリン濃度の増加

関連成果等

  • Shimizu S, Akiyama T, Kawada T, Shishido T, Yamazaki T, Kamiya A, Mizuno M, Sano S, Sugimachi M. In vivo direct monitoring of vagal acetylcholine release to the sinoatrial node. Auton Neurosci. 148: 44-49, 2009.
  • Shimizu S, Akiyama T, Kawada T, Sonobe T, Kamiya A, Shishido T, Tokudome T, Hosoda H, Shirai M, Kangawa K, Sugimachi M. Centrally administered ghrelin activates cardiac vagal nerve in anesthetized rabbits. Auton Neurosci. 162 :60-65, 2011.
  • Shimizu S, Akiyama T, Kawada T, Kamiya A, Turner MJ, Yamamoto H, Shishido T, Shirai M, Sugimachi M. Medetomidine suppresses cardiac and gastric sympathetic nerve activities but selectively activates cardiac vagus nerve. Circ J. 78: 1405-1413, 2014.
  • Shimizu S, Kawada T, Akiyama T, Turner MJ, Shishido T, Kamiya A, Shirai M, Sugimachi M. Guanfacine enhances cardiac acetylcholine release with little effect on norepinephrine release in anesthetized rabbits. Auton Neurosci. 187: 84-87, 2015.

(4) バイオニック圧反射システムの開発

生体内には動脈の血圧を一定に保つための調節系があり、負帰還(ネガティブ・フィードバック)機構によってこれを実現しています(圧反射系)。このシステムは生体に加わった外乱による血圧の変動を少なくする作用があり、体位の変換などでも大きな血圧の変動がないように常時動作しています。圧反射系の機能低下に対し、圧反射系の一部を人工の制御系(バイオニック圧反射システム)に置換することで血圧を安定に保つことが可能であることが明らかになりました。脊椎硬膜外に挿入した電極(手術中)や鍼治療を応用した体表からの刺激(脊髄損傷患者)によって血圧の安定化が可能であることが明らかになりました。

図7

図7 バイオニック圧反射システムによる立位低血圧の抑制

関連成果等

  • Sato T, Kawada T, Sugimachi M, Sunagawa K: Bionic technology revitalizes native baroreflex function in rats with baroreflex failure. Circulation 106: 730-734, 2002. Yanagiya Y, Sato T, Kawada T, Inagaki M, Tatewaki T, Zheng C, Kamiya A, Takaki H, Sugimachi M, Sunagawa K. Bionic epidural stimulation restores arterial pressure regulation during orthostasis. J Appl Physiol 97: 984-990, 2004.<.li>
  • 特許登録:生体調節機能代替を用いた治療用システム並びに該システムに基づく心臓ペーシングシステム、血圧調節システム及び心疾患治療用システム.

最終更新日 2016年07月01日

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