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人工臓器部

部の業績
2013年業績

2013年の業績

研究活動の概要

平成25年度も、従来から継続して取り組んできた循環器系人工臓器および周辺技術に関する研究開発を推進した。 すなわち、患者を救命し社会復帰せしめるための循環器系治療系医療機器、人工臓器および周辺技術の開発、製品化、臨床応用を目的とした研究活動を行った。医療機器産業ビジョン2013(平成25年6月26日公表)等でわが国の施策として打ち出されている医療機器開発・製品化推進という方針に従って、学術的業績のみにとらわれることなく、トランスレーショナルリサーチの成果を国際競争力のある医療機器として迅速に世の中に出し、製品として臨床現場に届けることに重点を置いた活動に注力した。

具体的には、連続流超小型体内埋込式補助人工心臓(VAD)システムの開発、空気駆動VAD用の携帯型駆動装置の開発、小児用VADシステムの開発、簡易左心バイパスシステムの開発、呼吸循環不全に対する長期心肺補助(ECMO)システムの開発、コンピュータ技術を用いた人工臓器の研究開発の効率化に関する研究、特性試験・耐久試験のための循環器シミュレータの開発、などについて継続的な研究活動を展開した。

研究開発のフレームとしては、平成24年度までは、当センター橋本総長を主任研究者とする先端医療開発特区設備整備事業(スーパー特区)「先端的循環器系治療機器の開発と臨床応用、製品化に関する横断的・統合的研究」を構成する4つのサブテーマの内の2つのサブテーマである「次世代呼吸循環補助システム」および「高機能体内埋め込み型補助人工心臓」について、分担研究者の巽がサブグループ長として担当し、研究開発を加速・推進した。本年度は、スーパー特区事業の代表的成果物である世界初の動圧浮上方式の高耐久性ディスポ遠心ポンプをコア技術とした「Bridge to Decision目的の簡易左心バイパスシステム」のトランスレーショナル開発研究について、これを中核シーズとする厚生労働省の「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」、およびかかる新規機器に対する評価ガイドライン作成を主な研究課題とする「革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業」を通じて研究開発を推進した。このうち、平成23年度から始まった峰松副院長を主任研究者とする「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」では、採択5課題中で唯一「医療機器」を対象として当センターの提案が採択され、リスクマネージメントやGLP体制の整備を進め、さらに医療研究機関としては恐らく我が国初となるISO13485(開発分野)取得準備を進めるなどしながら、平成26年度中の医師主導臨床治験の実施を目指している。また、平成24年度から開始された巽を総括研究代表者とする「革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業」では、上記の簡易左心バイパスシステム等を具体例としたガイドライン作りを進めると共に、PMDAとの連携によって相互人材交流や定期的意見交換による実用化・臨床応用促進を行った。一方、平成23年度に修了したNEDO橋渡し研究により、超小型の動圧浮上方式体内埋込み型VADシステムを開発したが、その研究成果を引き継ぐ形で平成22年度から採択された「次世代機能代替治療技術の研究開発/次世代心機能代替治療技術の研究開発/小柄患者用補助人工心臓の有効性及び安全性の評価」は4年目となり、小児に適用可能な体内埋込み型VADシステムの開発を継続した。

2013年の主な研究成果

国循型空気駆動方式VADに関して、現行のVADに組み込まれている人工弁の製造中止が決まったため、新規人工弁を組み込んだVADのin vivo評価(3ヶ月の長期動物実験×4例)を行った。PMDAへの薬事相談を企業と共に
行い、現在助言に従って最後の追加試験を遂行中であるが、平行して一部変更申請を行う準備を進めているところであり、何とか臨床現場からVADが姿を消すという事態は回避できる見込みとなった。このような活動(VADの人工弁生産中止による緊急長期in vivo評価だけでも今回で3度目)は決して学術業績として評価されることはない
が、臨床現場で重要な役割を担う医療機器を守り続けるという、大変地味ではあるが当部しか果たすことが出来ない重要な使命であると認識している。また、小児用VADシステムに関しては、製造承認が得られている国循型M型VADの改良を進めて昨年度これを完了したが、本年度は前臨床試験としての長期動物実験評価(3ヶ月×4例)を行った。この研究開発は「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」のシーズ研究として認定され、現在PMDAへの薬事相談の準備を行っている。

一方、人工心臓の恒久使用(Destination Therapy: DT)を目的とした単2乾電池サイズの超小型軽量の体内埋込式軸流ポンプ型VADシステムについても、継続して開発を進めた。動圧浮上方式の非接触回転型軸流ポンプである本システムは、世界に類をみない超高耐久性が期待できるものであり、NEDO橋渡し研究のもとで前臨床試験および耐久性試験を完了し、ヒト用モデルの最終化段階に到達している。この研究開発も「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」のシーズ研究として認定され、PMDAの事前面談を受けるなどの前臨床最終段階の準備を行いつつある。また、このシステムは、NEDOの次世代機能代替治療技術プロジェクトへと引き継がれ、上述の如く小児への適用も可能なシステムの改良開発に進展している。さらに、同じ動圧浮上方式として開発を完了した高耐久性ディスポ遠心ポンプ(BIOFLOAT-NCVC)についても、連携企業から近々体外循環用として薬事申請が行われる予定であるが、上述の如く、さらにBridge to Decision目的の簡易左心バイパスシステムへの展開を進めている段階であ
り、早期・探索的臨床試験拠点整備事業の中核シーズ研究として平成26年中の医師主導治験遂行を予定している。

次世代ECMOシステムに関する研究では、当部が開発した革新的人工肺BIOCUBE-NCVCは広く臨床応用され、無ヘパリン長期ECMOの実現によって、従来であれば救命困難であった出血合併症を伴う重症呼吸循環不全患者の救命例が複数の施設から報告されるなど、その画期的な性能によりかかる患者の治療体系そのものに革新をもたらしつつある。BIOCUBE-NCVCを用いたECMOシステムは、当センター臨床工学部との共同開発により、急速充填可能なサブシステム導入で緊急使用を可能としたENDUMOシステムとして製品化を達成したが、本年はさらに、可搬性に優れた集積化装置とするための研究開発を進めた。システム移動カートの試作・改良と臨床応用を進め、本年度製品化(ECLSPORTER--NCVC)を達成した。現在は、さらに小型パッケージ化した持ち運び可能な超小型ECMOシステム開発を開始し、3rd Iterationまで試作改良を繰り返した。酸素ボンベを含めて総重量7kg以下の手荷物サイズのECMOシステムで、スタンドアローンで2?3時間の連続駆動が可能なシステムとなる予定である。

昨年は、我が国で薬事承認が完了したサンメディカル社の体内埋込み型人工心臓EVAHEARTについて、動物を用いた埋込み手術トレーニングを施行した。これは、研究開発基盤センターのトレーニングセンターが受託し、センター内の施行部署として人工臓器部が請けおうというスキームによる。これまでに17施設の医療機関(全て埋込み型VAD認定施設で多くが大学病院)の外科チーム(通常心臓外科医2~4名、看護師2~4名、臨床工学技士2~4名、合計5~10名位のチーム)に対してトレーニングを行い、安全なVAD埋込み・普及に貢献するとともに、当センターの外部資金獲得にも貢献した。我が国にはVADの埋込み手術トレーニングを大型動物を用いて行い得る施設は存在せず、埋込型VADというハイリスクの新規機器における臨床応用前のトレーニングを行っていくという点で重要な役割を果たすこととなった。本年度はさらに、関西イノベーション国際戦略総合特区の関連事業として、大阪商工会議所の主催で「国際展開を視野に入れた臨床手技トレーニング事業」を実施し(10月1日)、海外の7カ国(韓国、ロシア、台湾、タイ、シンガポール、米国、カタール)のキーオピニオン・リーダーである有力な医師を招聘して、実験動物を介したEVAHEARTの植込み手術トレーニングや、国循型ニプロ社製VADその他の機器の試用トレーニングを行った。

研究業績

  1. Fujii Y, Shirai M, Inamori S, Shimouchi A, Sonobe T, Tsuchimochi H, Pearson JT, Takewa Y, Tatsumi E and Taenaka Y. Insufflation of Hydrogen Gas Restrains the Inflammatory Response of Cardiopulmonary Bypass in a Rat Model. Artif Organs. 37, 136-141, 2013.
  2. Fujii Y, Shirai M, Tsuchimochi H, Pearson JT, Takewa Y, Tatsumi E and Taenaka Y. Hyperoxic Condition Promotes an Inflammatory Response During Cardiopulmonary Bypass in a Rat Model. Artif Organs. 37, 1034-1040, 2013.
  3. Umeki A, Nishimura T, Ando M, Takewa Y, Yamazaki K, Kyo S, Ono M, Tsukiya T, Mizuno T, Taenaka Y and Tatsumi E. Change of Coronary Flow by Continuous-Flow Left Ventricular Assist Device With Cardiac Beat Synchronizing System (Native Heart Load Control System) in Acute Ischemic Heart Failure Model. Circulation Journal. 77, 995-1000, 2013.
  4. Hoashi T, Kagisaki K, Yamashita K, Tatsumi E, Nishigaki T, Yoshida K, Hayashi T and Ichikawa H. Early clinical outcomes of new pediatric extracorporeal life support system (Endumo® 2000) in neonates and infants. J Artif Organs. 16, 267-272, 2013.
  5. Kishimoto Y, Takewa Y, Arakawa M, Umeki A, Ando M, Nishimura T, Fujii Y, Mizuno T, Nishimura M and Tatsumi E. Development of a novel drive mode to prevent aortic insufficiency during continuous-flow LVAD support by synchronizing rotational speed with heartbeat. J Artif Organs. 16, 129-137, 2013.
  6. Sawa Y, Tatsumi E, Tsukiya T, Matsuda K, Fukunaga K, Kishida A, Masuzawa T, Matsumiya G, Myoui A, Nishimura M, Nishimura T, Nishinaka T, Okamoto E, Tokunaga S, Tomo T, Yagi Y and Yamaoka T. Journal of Artificial Organs 2012: the year in review. J Artif Organs. 16, 1-8, 2013.
  7. Sumikura H, Homma A, Ohnuma K, Taenaka Y, Takewa Y, Mukaibayashi H, Katano K and Tatsumi E. Development and evaluation of endurance test system for ventricular assist devices. J Artif Organs. 16, 138-148, 2013.
  8. Takewa Y, Yamanami M, Kishimoto Y, Arakawa M, Kanda K, Matsui Y, Oie T, Ishibashi-Ueda H, Tajikawa T, Ohba K, Yaku H, Taenaka Y, Tatsumi E and Nakayama Y. In vivo evaluation of an in-body, tissue-engineered, completely autologous valved conduit (biovalve type VI) as an aortic valve in a goat model. J Artif Organs. 16, 176-184, 2013.
  9. Umeki A, Nishimura T, Takewa Y, Ando M, Arakawa M, Kishimoto Y, Tsukiya T, Mizuno T, Kyo S, Ono M, Taenaka Y and Tatsumi E. Change in myocardial oxygen consumption employing continuous-flow LVAD with cardiac beat synchronizing system, in acute ischemic heart failure models. J Artif Organs. 16, 119-128, 2013.
  10. Mizuno T, Takewa Y, Sumikura H, Ohnuma K, Moriwaki T, Yamanami M, Oie T, Tatsumi E, Uechi M, and Nakayama Y. Preparation of an autologous heart valve with a stent (stent-biovalve) using the stent eversion method. J Biomed Mater Res B Appl Biomater. 102, 1038-1045, 2013.
  11. 巽 英介. 先進医療機器の研究開発・臨床応用・製品化における課題. アカデミア発医療イノベーション-All Japanパラダイムシフト-講演集. 26-37, 2013.
  12. 安藤 政彦, 武輪 能明, 西村 隆, 山崎 健二, 許 俊鋭, 小野 稔, 築谷 朋典, 水野 敏秀, 妙中 義之, 巽 英介. A novel counterpulsation mode of rotary left ventricular assist devices can enhance myocardial perfusion. 人工臓器. 42, 19-21, 2013.
  13. 荒川 衛, 武輪 能明, 西村 隆, 巽 英介. 右心補助を目指した定常流型左室補助人工心臓による心拍同期回転数制御システムの開発. 人工臓器. 42, 37-38, 2013.
  14. 堀口 祐憲, 築谷 朋典, 武甕 虎太郎, 野本 剛司, 辻本 良信. 心肺補助システム用二段遠心型血液ポンプの改良と抗溶血性能評価. 日本機械学会論文集(B編). 79, 492-504, 2013.
  15. 吉田 幸太郎, 林 輝行, 高橋 裕三, 松本 泰史, 四井田 英樹, 西垣 孝行, 小川 浩司, 西岡 宏, 帆足 孝也, 鍵崎 康治, 市川 肇, 片桐 伸将, 巽 英介. 新生児・乳児期に対する超低充填量心肺蘇生用ECMOシステムの臨床使用経験. 膜型肺. 34, 44-51, 2013.
  16. 片桐 伸将, 巽 英介, 林 輝行, 吉田 幸太郎, 柳園 宜紀, 小林 進, 妙中 義之. 院内外搬送が可能なモバイルECMOシステムのための人工心肺用移動架台の開発と臨床応用. 膜型肺. 34, 28-34, 2013.
  17. 齋藤 友宏, 巽 英介, 片桐 伸将, 武輪 能明, 水野 敏秀, 築谷 朋典, 市川 肇, 鍵崎 康治, 帆足 孝也, 林 輝行, 吉田 幸太郎, 妙中 義之. 模型人工肺の臨床 超耐久性小児用ECMOの研究開発と臨床応用. 膜型肺. 34, 35-43, 2013.

最終更新日:2021年10月01日

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