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人工臓器部

部の業績
2012年業績

2012年の業績

研究活動の概要

平成24年度も、従来から継続して取り組んできた循環器系人工臓器および周辺技術に関する研究開発を推進した。すなわち、人工臓器および周辺技術を用いることで患者を救命し社会復帰せしめるための循環器系医療機器の開発、製品化、臨床応用を目的とした研究活動を行った。国の方針として打ち出されている医療機器開発・製品化推進という方針に従って、学術的業績のみにとらわれることなく、トランスレーショナルリサーチの成果を医療機器として世に出すための活動に注力した。

具体的には、連続流超小型体内埋込式補助人工心臓(VAD)システムの開発、空気駆動VAD用の携帯型駆動装置の開発、小児用VADシステムの開発、簡易左心バイパスシステムの開発、呼吸循環不全に対する長期心肺補助(PCPS)システムの開発、コンピュータ技術を用いた人工臓器の研究開発の効率化に関する研究、特性試験・耐久試験のための循環器シミュレータの開発、などについて継続的な研究活動を展開した。

研究開発のフレームとしては、当センター橋本総長を主任研究者とする先端医療開発特区設備整備事業(スーパー特区)「先端的循環器系治療機器の開発と臨床応用、製品化に関する横断的・統合的研究」を構成する4つのサブテーマの内の2つのサブテーマである「次世代呼吸循環補助システム」および「高機能体内埋め込み型補助人工心臓」について、分担研究者の巽がサブグループ長として担当し、研究開発を加速・推進した。また、平成23年度から開始された厚生労働省「早期・探索的臨床試験拠点整備事業」において、採択5課題中唯一医療機器を対象として採択された、当センター峰松副院長を主任研究者とする「Bridge to Decisionを目的とした超小型補助循環システム並びに頭蓋内・心血管治療用の新規多孔化薄膜カバードステントに関する医師主導型治験及び実用化研究」の具体的臨床試験シーズ研究2課題中の1課題を担当し、研究開発を推進した。さらに、平成24年度から開始された厚生労働省「革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業」にも巽を総括研究代表者とした申請を行って採択され、上記超小型補助循環システム等を具体例として、リスクマネージメントやGLP体制整備、PMDAとの連携によって相互人材交流や定期的意見交換による実用化・臨床応用促進を開始した。一方、平成23年度に修了したNEDO橋渡し研究により、超小型の動圧浮上方式体内埋込み型VADシステムを開発したが、その研究成果を引き継ぐ形で平成22年度から採択された「次世代機能代替治療技術の研究開発/次世代心機能代替治療技術の研究開発/小柄患者用補助人工心臓の有効性及び安全性の評価」は3年目に入り、小児に適用可能な体内埋込み型VADシステムの開発を継続して、着実な開発進捗が得られている。

2012年の主な研究成果

現行の空気駆動方式VADに関して、人工臓器部では患者QOL向上を目指して2001年にキャリーバック型小型駆動装置Mobart-NCVC(重量13kg)を開発し、製品化を達成したが、2009年からは、かかる患者の在宅治療実現を目指して、ショルダーバッグ型の小型軽量(重量4kg以下)の駆動装置の開発を進めている。昨年度は慢性動物実験評価の段階まで開発を進めたが、本年度は共同研究開発の企業と製品化候補企業を含めた合同会議で臨床試験と引き続く製品化を見据えたロードマップを検討し、目標物のスペックにも最終仕様に向けた修正を行った。プロトタイプを学術集会で展示したところ、臨床医等から一日も早い製品化を切望する等の大きな反響が得られた。現在、2年以内のFIHおよびPOC臨床試験を目指して、開発を加速させつつある。さらに、小児用VADシステムに関しては、製造承認が得られている国循型東洋紡製M型VADの改良を進めてこれを完了し、さらにIn vitro評価の後、昨年度から本年度にかけて、前臨床試験としての長期動物実験評価を継続的に進めている。

一方、人工心臓の恒久使用(Destination Therapy: DT)を目的として、長期耐久性を有する動圧軸受けを用いた単2乾電池サイズの超小型軽量の体内埋込式軸流ポンプ型VADシステムの開発を進めた。これは動圧浮上方式の非接触回転型軸流ポンプで、世界的に類をみない超高耐久性が期待できるものであり、NEDO橋渡し研究のもとで前臨床試験および耐久性試験を完了し、次世代型人工心臓ガイドラインに基づいて慢性動物実験でコンスタントに3ヶ月間の生存を得、ヒト用モデルの最終化を進めた。このシステム開発は、NEDOの次世代機能代替治療技術プロジェクトへと引き継がれ、小児への適用も可能なシステムの改良開発に進展している。また、同じ動圧浮上方式の高耐久性ディスポ遠心ポンプ(動圧浮上ディスポ血液ポンプとして世界初)の開発も並行して進め、こちらは連携企業から数ヶ月以内に体外循環用として薬事申請が行われる予定である。さらに、この新規開発遠心ポンプを用いたBridge to Decision目的の簡易左心バイパスシステムの開発を進めており、そのための独特の形状を有する脱血管(Lantern Canulaと命名)や人工血管付き送血管も試作改良を進めている。このシステム開発は、早期・探索的臨床試験拠点整備事業におけるシーズ研究であり、平成26年中の医師主導治験遂行を予定している。

長期PCPSシステムに関する研究では、製品化を達成した革新的人工肺BioCube-NCVCは広く臨床応用され、無ヘパリン長期PCPSの実現によって、従来は救命困難であった出血合併症を伴う重症呼吸循環不全患者の救命例が複数の施設から報告されるようになりつつある。BioCube-NCVCを用いたPCPSシステムは、さらに当センター臨床工学部との共同開発により、急速充填可能なサブシステム導入で緊急使用を可能としたENDUMOシステムとして製品化を達成し、また可搬性に優れた集積化装置とするための研究開発を進め、システム移動カートの試作・改良と臨床応用を進め、本年度製品化達成した。現在は、さらに小型パッケージ化した持ち運び可能な超小型ECMOシステム開発を新たに開始した。

我が国で薬事承認が完了したサンメディカル社の体内埋込み型人工心臓EVAHEARTは、平成23年度4月より保険収載され販売が開始されたが、販売開始前の平成23年1月より本年度にかけて、動物を用いたEVAHEARTの埋込み手術トレーニングを施行した。これは、研究開発基盤センターのトレーニングセンターが受託し、センター内の施行部署として人工臓器部が請けおうというスキームによる。現在我が国には、医療機関の外科チーム全体が参加する規模(通常心臓外科医2~4名、看護師2~4名、臨床工学技士2~4名、合計5~10名位のチーム)のVADの埋込み手術トレーニングを大型動物を用いて行い得る施設は存在せず、今後同様の新規機器臨床応用前のトレーニングプログラムを行っていく点で重要な役割を果たすこととなる。トレーニング開始以来、これまでに17施設(全て埋込み型VAD認定施設で多くが大学病院)に対してトレーニングを行い、安全なVAD埋込み・普及に貢献するとともに、当センターの外部資金獲得にも貢献した。

研究業績

  1. Ando M., Takewa Y., Nishimura T., Yamazaki K., Kyo S., Ono M., Tsukiya T., Mizuno T., Taenaka Y. and Tatsumi E. Coronary Vascular Resistance Increases Under Full Bypass Support of Centrifugal Pumps-Relation Between Myocardial Perfusion and Ventricular Workload During Pump Support. Artificial Organs 36, 105-110, 2012.
  2. Hanada S., Takewa Y., Mizuno T., Tsukiya T., Taenaka Y. and Tatsumi E. Effect of the technique for assisting renal blood circulation on ischemic kidney in acute cardiorenal syndrome. J Artif Organs 15, 140-5, 2012.
  3. Akagawa E., Lee H., Tatsumi E., Homma A., Tsukiya T. and Taenaka Y. Flow visualization for different port angles of a pulsatile ventricular assist device. J Artif Organs 15, 119-27, 2012.
  4. Sawa Y., Tatsumi E., Funakubo A., Horiuchi T., Iwasaki K., Kishida A., Masuzawa T., Matsuda K., Myoui A., Nishimura M., Nishimura T., Tokunaga S., Tomizawa Y., Tomo T., Tsukiya T., Yamaoka T. and Journal of Artificial Organs Editorial Committee. Journal of Artificial Organs 2011: the year in review. J Artif Organs 15, 11-9, 2012.
  5. Ando M., Nishimura T., Takewa Y., Kyo S., Ono M., Taenaka Y. and Tatsumi E. Creating an ideal "off-test mode"for rotary left ventricular assist devices: establishing a safe and appropriate weaning protocol after myocardial recovery. J Thorac Cardiovasc Surg 143, 1176-82, 2012.
  6. Umeki A., Nishimura T., Ando M., Takewa Y., Yamazaki K., Kyo S., Ono M., Tsukiya T., Mizuno T., Taenaka Y. and Tatsumi E. Alteration of LV end-diastolic volume by controlling the power of the continuous-flow LVAD, so it is synchronized with cardiac beat: development of a native heart load control system (NHLCS). Journal of Artificial Organs 15, 128-133, 2012.
  7. Takewa Y., Yamanami M., Kishimoto Y. , Arakawa M., Kanda K., Matsui Y., Oie T., Ishibashi Uchida, H., Tajikawa T. , Ohba K. , Yaku H., Taenaka Y. , Tatsumi E. and Nakayama Y. In vivo evaluation of an in-body, tissue-engineered, completely autologous valved conduit (biovalve type VI) as an aortic valve in a goat model. Journal of artificial organs , 2012.
  8. 巽 英介. 抗血栓症と長期耐久性に優れた次世代型人工肺およびECMO/PCPSシステムの開発と製品化. 医療機器学 82, 472-478, 2012.
  9. 巽 英介. 先進医療機器の開発・製品化における現在の課題と取組み. 研究開発リーダー 8, 21-25, 2012.
  10. 巽 英介. 循環系人工臓器とは・・・. 人工臓器は、いま -暮らしのなかにある最先端医療の姿-, 129-132, 2012.
  11. 築谷 朋典. 人工心臓. 人工臓器は、いま -暮らしのなかにある最先端医療の姿-, 171-190, 2012.
  12. 片桐 伸将, 市場 晋吾. 人工肺. 人工臓器は、いま -暮らしのなかにある最先端医療の姿-, 191-210, 2012.
  13. 巽 英介. 次世代型人工心臓研究開発の現況. 先端バイオマテリアルハンドブック, 221-226, 2012.
  14. 巽 英介. 先進医療機器の研究開発・臨床応用・製品化における課題. 第一回早期・探索的臨床試験拠点 Joint Symposium アカデミア発医療イノベーション -ALL Japan パラダイムシフト-講演集, 26-37, 2012.
  15. 築谷 朋典. 人工心臓の実用化-人工心臓をつけて家族のもとへ帰ろう-. 日本機械学会誌 115, 38-39, 2012.
  16. 巽 英介. 人工肺とECMO/PCPS. 日本体外循環技術医学会 教育セミナーテキスト 28, 21-29, 2012.
  17. 巽 英介. 先端医療機器の研究開発・臨床応用・製品化における諸問題. 平成23年度東京理科大学総合研究機構インテリジェントシステム研究部門研究成果報告会論文集, 1-3, 2012.

最終更新日:2021年10月01日

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