国立循環器病研究センター

メニュー

広報活動

高血圧が及ぼすさまざまな疾患リスクに関する疫学研究 ~吹田研究などのコホート研究からみる疾患リスクについての総説~

2015年7月9日

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)予防健診部 小久保喜弘医長と高血圧・腎臓科 岩嶋義雄医長は、米国心臓学会の高血圧専門誌 Hypertension 8月号にて、脳卒中や虚血性心疾患に留まらない、高血圧がおよぼす疾患リスクについての疫学的総説を平成27年7月9日(日本時間)付で掲載しました。

研究の背景

高血圧が脳卒中、虚血性心疾患において重要な危険因子となることは、これまで様々な疫学・臨床研究でも示されてきました。さらに、近年、高血圧は、今まで示されてきた循環器病領域を超えた疾患リスクでもあることが分かってきました。

研究の総説

《心房細動》
高血圧は心房細動のリスクとなることが欧米のコホート研究でわかってきました。最近では、日本の都心部地域住民を対象としたコホート研究である「吹田研究」においても、高血圧と心房細動罹病リスクに関連があることが分かりました。

《脳と心臓と腎臓の連関》
高血圧は腎機能の低下を促進させ、脳卒中、心臓病それぞれとの関わり合いが認められています(脳心腎連関)。「吹田研究」においても、慢性腎臓病で、かつ高血圧である場合、循環器疾患に対するリスクが相乗的に高くなるという結果が認められました。

《認知症》
中年期の高血圧が、高齢になった際の認知症リスクとなることは、多くの疫学追跡研究から示されています。しかし、高齢者に見られる高血圧は、中年期の高血圧と異なり、認知症リスクとの関連性ははっきりしていません。高血圧は認知症、特に血管性認知症のリスクである点は認められますが、アルツハイマー病のリスクであるという関連性は認めらないようです。

《がん》
欧米の大規模コホート研究において、高血圧はがん発症及び死亡リスクとなることが分かってきました。特に、高血圧が、腎がん、食道がん、膵がんなどの危険因子であることが分かってきました。

《口腔内の健康障害との関連》
「吹田研究」において、口腔衛生状態の問題を示す4項目(歯周病,不正咬合,歯牙喪失,歯肉出血)のうち3つ以上該当する人は高血圧になりやすいという傾向が認められています。

《骨粗鬆症》
高血圧と骨粗鬆症との関係を調べた際、そこに因果関係は認められませんでした。しかし高血圧治療薬(特にサイアザイド系利尿薬)が骨密度を維持する重要かつ有効な手段であることは認められています。

今後の展望と課題

以上のことより、高血圧には循環器病以外にも、様々な疾患との関連性が示唆されていることがわかってきました。健康寿命延伸においては、様々な疾患を総合的に予防することが大切であると考えられ、高血圧の予防や加療を行うことは、循環器病の予防・治療のみならず、様々な疾患の予防にも関与することが示唆されます。今後、これらの疾患の発症や予防に関する新たな研究結果が期待されます。

※本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・文部科学省「基盤A (No. 25253048)、基盤B (No. 25293147)、挑戦萌芽 (No. 26670320)」
・循環器病研究開発費「No.22-4-5」

最終更新日 2015年07月09日

最終更新日:2021年09月26日

設定メニュー