国立循環器病研究センター

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冠動脈疾患治療における世界初のエビデンスが最高峰の医学雑誌New Engl J Medに掲載

2019年9月5日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)の、安田聡副院長、小川久雄理事長を代表とする日本人研究グループは、心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者において従来複数の抗血栓療法治療薬が必要と考えられてきましたが、むしろ薬剤を絞り込み単剤とした治療のほうが 心血管イベントの発生を増加させることなく出血性イベントを優位に減らすことを世界で初めて明らかにしました。
このAFIRE研究(Atrial Fibrillation and Ischemic events with Rivaroxaban in patiEnts with stable coronary artery disease Study)は、本邦の294施設が参加して行われたランダム化比較試験で、新規性とエビデンスレベルの高さから 世界医学雑誌ランキング総合医学部門で第一位 (2018年journal impact factor 70.670) にランクされている The New England Journal of Medicine(NEJM)誌に2019年9月2日付で掲載されました。

概要

急激に高齢化が進む本邦において、不整脈の一種である心房細動の患者数は、検診で診断される患者さんの数だけでも約80万人と推計 (Inoue H, et al. Int J Cardiol 2009;137:102-107)されており、潜在的な患者数を含めると、実際には100万人を超すといわれています。これまでの臨床試験から、心房細動に対しては抗凝固療法が、冠動脈疾患に対しては抗血小板療法が各々必要とされており、心房細動合併冠動脈疾患症例においては抗凝固療法に加え抗血小板療法を継続するという治療方針がとられてきました。一方で複数の薬剤を組み合わせた抗血栓療法は出血リスクも高めることが懸念されていました。このような背景から、欧米や本邦のガイドラインでは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)後でも1年を経過した安定期には抗凝固療法単独が推奨されるようになりました。しかしながら海外の観察研究結果を参考としたエキスパートオピニオンとしての位置づけで、大規模臨床試験による検証が待望されていました。
AFIRE研究は安定冠動脈疾患を合併する心房細動患者を対象に経口抗凝固薬リバーロキサバン単独とリバーロキサバン+抗血小板薬併用との 有効性・安全性の比較を行った多施設共同のランダム化比較研究です。2015年2月より2,200名を目標に患者登録が行われ、2017年9月末までに2,240例が登録されました。平均2年以上の観察期間を予定しておりましたが、データ安全性モニタリング委員会の勧告に基づき2018年7月に研究を早期終了、2019年1月にデータを固定し解析を進めて参りました。この度その解析結果がまとまり、2019年9月2日欧州心臓病学会(ESC) Hot Line Sessionでの発表と同時にNEJM誌掲載となりました。
AFIRE研究では最終的に2,215例(1,107例単独療法vs. 1,108例併用療法; アスピリン併用70.2%)が研究解析対象となり、平均年齢74歳、男性79%、PCI施行70.6%、CABG施行11.4%でした。約2年間の観察期間において、有効性主要評価(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定狭心症、総死亡の複合エンドポイント)では、リバーロキサバン単剤療法群の併用療法群に対する非劣性が証明されるとともに、事後解析にてリバーロキサバン単剤療法群の優越性も示されました。さらに安全性主要評価(ISTH*基準による重大な出血性合併症)においても、リバーロキサバン単剤療法群の併用療法群に対する優越性が証明されました。
*ISTH; International Society on Thrombosis and Haemostasis

本研究の意義

これまで病態に応じて数多くの治療法が開発され、疾患が重なる多疾患罹患の状態では複数の薬剤が組み合わされ診療が行われてきました。高齢化・多疾患罹患に直面する我が国から、All Japanでの研究組織により"薬剤を減らす"冠動脈疾患の新たな治療戦略がエビデンスとして世界に先駆けて創出されたことは大変意義深いものと考えられます。

<論文情報>

Antithrombotic Therapy for Atrial Fibrillation with Stable Coronary Disease
Satoshi Yasuda, M.D., Ph.D., Koichi Kaikita, M.D., Ph.D., Masaharu Akao, M.D., Ph.D., Junya Ako, M.D., Ph.D., Tetsuya Matoba, M.D., Ph.D., Masato Nakamura, M.D., Ph.D., Katsumi Miyauchi, M.D., Ph.D., Nobuhisa Hagiwara, M.D., Ph.D., Kazuo Kimura, M.D., Ph.D., Atsushi Hirayama, M.D., Ph.D., Kunihiko Matsui, M.D., M.P.H., and Hisao Ogawa, M.D., Ph.D. for the AFIRE Investigators*
N Engl J Med. September 2, 2019 DOI: 10.1056/NEJMoa1904143

最終更新日:2021年09月26日

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