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急性心不全患者における活性型BNPとNT-proBNPの比率は 腎機能悪化を早期に予測・発見する指標となる

2019年8月27日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)髙濱博幸心不全科医師、泉知里心臓血管内科部長、南野直人創薬オミックス解析センター特任部長らの研究チームは、急性心不全患者における腎機能悪化とBNPの内在分子の比率の変動の関連性を初めて明らかにし、その有用性を提唱しました。本研究成果は米国の科学誌「Journal of American Heart Association」に令和元年8月23日(現地時間)に電子掲載されました。

研究の背景

・心不全患者における腎機能悪化(Worsening renal function: WRF)

心不全患者の入院中の腎機能悪化(Worsening renal function、 以下WRF)は、しばしば認められる重要な合併症の一つです。心不全の治療入院中には急激にWRFを起こす率が高く、WRFの合併は心不全患者の長期予後にも悪影響を及ぼすため、その早期発見は重要な課題とされてきました。
腎機能の評価は血中のクレアチニン濃度に基づき評価する方法が一般的に用いられています。しかし、クレアチニンは、年齢や体重、筋肉量などの影響を受ける点や、腎機能悪化からクレアチニン上昇までに時間を要する点などが問題でした。そのため、より早期にWRFを発見する腎機能評価法やバイオマーカーの確立が望まれてきました。

・脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の生成と代謝

心不全の患者では脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の心臓での産生が亢進するため、BNPは心不全のバイオマーカーとして世界中で広く利用されています。図1に示すように、BNPは心筋細胞内で前駆体(ProBNP:BNPの基となる物質)として合成され、活性型BNPと非活性型であるNT-proBNPに切断されて放出されます。
この2つの分子は、心不全のバイオマーカーとして広く利用されておりますが(注)、その代謝経路には大きな差異があります。すなわち、活性型BNPとNT-proBNPは、前駆体のProBNPから1:1の割合で生成し(図1)、活性型BNPはクリアランス受容体に結合して速やかに代謝されますが、NT-proBNPは腎臓により代謝され血中から徐々に除去されます。髙濱医師らの研究チームは、心臓から産生、分泌されるこの2つの分子の代謝の差異が腎機能と関連すると考え、この現象が心不全患者の腎機能悪化の予測に利用できるとの仮説を立て、検証しました。
活性型BNPを直接測定することは難しいのですが、当センターではBNP前駆体(ProBNP)を特異的に測定する方法の開発に成功し、この方法と総BNP(total BNP)濃度を用いて、活性型BNPの推定値(推定活性型BNP=総BNP-ProBNP)を算出することが可能となりました(図1)。
本研究では入院後の研究説明にご同意頂いた患者さんから計4回の血液採取を行い、この推定活性型BNP、NT-proBNPの濃度と腎機能の推移を検討しました。図2-Aに示しますようにNT-proBNPは入院後、WRF発症者と非発症者の間で差異を認めません。これに対して推定活性型BNP濃度はWRF発症者で低下を認めました(図2-B)。さらに両者の比率(NT-proBNP/推定活性BNP)はクレアチニンを基に計算された推定糸球体濾過量の上昇よりも早期に上昇することを見出しました(図2-C, 図2-D)。
さらにこの現象(NT-proBNP/推定活性型BNP比率と腎機能の関係)は、心不全の重症度の高い患者(NT-proBNP中央値より高値の患者)で、より顕著に認められました(図3)。
この理由を現在までの研究情報で説明することは困難です。活性型BNPが受容体(NPR-A)に結合して細胞に反応を引き起こす際に、2nd messengerであるサイクリックGMPを増加します。急性心不全入院後3日目に、NT-proBNP/推定活性型BNP比率が増加し、その高値群ではcGMP濃度が上昇していることから(図4)、WRFを起こす症例では、クリアランス受容体(NPR-C)とNPR-Aの発現が亢進するなどの考察も既出報告から可能ですが、今後の原因究明と検証が必要です。

今後の展望

冒頭に述べましたように、急性心不全の急性期において腎機能の評価法は非常に重要でありながら、良い評価法や指標がありませんでした。この問題の解決に、今回の新しい指標が役立つように、より多くの症例で測定を行い信頼度を十分検証して、臨床での使用へと研究を進めて参ります。
本研究は、従来は複数の分子をまとめて測定していたBNPという検査項目(総BNP)を、当センターの創薬オミックス解析センターで、BNPの検査項目を構成する分子であるproBNP、推定活性型BNPなどを測定・解析可能としたことにより実施できました。今後も病院、研究所や創薬オミックス解析センターが協力し、病態解明や治療、診断につながる研究を進め、新たな知見を医療に還元する臨床研究を進めて参ります。

<図>

(図1) BNP前駆体(ProBNP)からの活性型BNPとNT-proBNP生成と血中への分泌



(図2) 急性心不全患者におけるNT-proBNP, 推定活性型BNP、NT-proBNP/推定活性型BNP比率と腎機能(推定糸球体濾過量)の推移



(図3) 急性心不全患者におけるNT-proBNP/推定活性型BNP比と腎機能の関係



(図4) 急性心不全患者におけるCyclic GMP濃度の時間経過

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