ホーム > 広報活動 > プレスリリース > 脳梗塞患者の中に急性大動脈解離患者が隠れている~適切な診断を行うための指針を提案~

脳梗塞患者の中に急性大動脈解離患者が隠れている
~適切な診断を行うための指針を提案~

平成30年1月25日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)脳血管内科の古賀政利医長、豊田一則副院長らの研究チームは、Stanford A型急性大動脈解離(注)に合併する脳梗塞(以下、「本症例」)を適切に診断し、不適切なアルテプラーゼ静注血栓溶解療法(以下、「t-PA静注療法」)を回避し、適切な外科治療を遅らせないための診療指針を提案しました。本研究成果は日本脳卒中学会誌「脳卒中」オンライン版に平成29年12月25日に掲載されました。

背景

2005年に急性期脳梗塞に対するt-PA静注療法が認可されたことは、救命や予後改善などわが国の脳卒中医療の進展に大きく寄与しました。一方で、大動脈解離が隠れている脳梗塞患者にt-PA静注療法を選択したことで大動脈解離の破裂・出血が起こり死亡する例が2005年~2007年で10例集積したことから、日本脳卒中学会から2007年に「胸部大動脈解離あるいは胸部大動脈瘤を合併している可能性がある患者では、適応を十分に検討すること」と警告されました。その後、t-PA静注療法は急性期脳梗塞の治療法として定着しましたが、このような合併症を持つ症例については未だ確立した診療指針がありません。
Stanford A型急性大動脈解離は緊急手術を行わない場合の入院中死亡率が50%以上に達する非常に重篤な病気です。本症例では、緊急手術を行うことで予後が改善する可能性が報告されていることから、治療の初期段階で脳梗塞の背景に大動脈解離が隠れていないかを適切に見分ける指針が必要です。

研究手法と成果

古賀医長らの研究チームは、①国循で診療を受けたStanford A型急性大動脈解離及び脳梗塞患者の調査 ②全国アンケート調査 ③救急隊員に対するアンケート調査を行いました。
①より、脳梗塞を伴っていると急性大動脈解離の典型的な症状である胸や背中の激痛の訴えは半数程度と少ないことがわかりました。また、国循では脳梗塞合併症例であることから多くの場合で血管外科医ではなく脳卒中診療医が初期診療を担当していました。本症例の診断につながる所見としては、上肢血圧の左右差(腕頭動脈に解離がおよぶことが多く右上肢が低くなる)や頚部血管エコーにおける総頚動脈閉塞・解離波及所見、血栓の生成傾向を示す指標D-dimer高値が有効でした。発症4時間以内に来院する急性期脳梗塞患者の1.7%が本症例でした。
②より、全国では、本症例の約半数は脳卒中診療医が初期診療を担当し、回答施設のt-PA静注療法による死亡は過去1年間に計5例でした。日本脳卒中学会は救急隊との連携を提言していますが、実際に本症例を考慮して救急隊と連携している施設は約5%でした。
一方で、③では調査に参加した救急隊員の大多数は脳卒中疑いの患者における大動脈解離の可能性を評価した上で搬送施設を選定することが可能と回答していました。
以上の結果より、急性大動脈解離に合併する脳梗塞症例においては、初診診療時に胸や背中の激痛の訴えが少ないために搬送先施設の脳卒中診療医は大動脈解離が隠れているのを見分けることが難しく、救急隊による本症例の評価と搬送先の脳卒中診療医による適切な初期診療方針の決定が必要です(図)。

今後の課題と展望

緊急を要する急性期脳梗塞患者の中に本症例は1~2%含まれており、脳卒中診療において医師は常に大動脈解離の存在を疑う必要があります。脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等)の救急搬送件数は年間30万件前後であるため、決して少ない症例ではありません。我々が提案する診療指針案により救急隊と脳卒中診療医が大動脈解離を適切に診断するための診療技術が向上し、本症例に対するt-PA静注療法回避と適切かつ迅速な外科的治療につながることが期待されます。今後は、本診療指針案の評価を臨床現場で行い、その有用性を確認する予定です。

<注釈>Stanford A型大動脈解離

Stanford分類は、大動脈のどの部位に解離が起こっているかによる分類法。A型は心臓のすぐ上の上行大動脈に解離がある症例で、B型は上行大動脈に解離が無い症例 を示す。A型は治療をしなければ48時間以内に大動脈破裂を起こす可能性が高く、緊急手術が必要な症例である。解離による血流障害のために、急性心筋梗塞や狭心症、脳梗塞など虚血性合併症が起こることがある。

<図>Stanford A型急性大動脈解離に合併する脳梗塞の診療指導案

搬送中からの救急隊と脳卒中診療医の連携と、初期診療の内容が重要となる。

最終更新日 2018年01月25日

ページ上部へ