国立循環器病研究センター

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遺伝子解析により”家族性高コレステロール血症”の重症度を早期に診断

PCSK9 V4I と LDL受容体遺伝子変異が組み合わされると
重症度が高く冠動脈疾患になりやすい

2016年02月13日

国立循環器病研究センター(略称:国循、大阪府吹田市、理事長:小川久雄)病態代謝部の斯波真理子部長、堀美香上級研究員らの研究グループは、家族性高コレステロール血症(以下:FH)ヘテロ接合体と診断された患者(注1)の遺伝子解析を行い、遺伝子変異タイプの違いと症状の重篤性との関係を明らかにしました。
本研究内容は、Journal of Clinical Lipidologyオンライン版に掲載されました。

研究の背景

FH患者は生まれた時より、血中LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール。以下:LDL-C)値が高く、皮膚や腱に黄色腫が出現するという特徴があり、コレステロールの蓄積により動脈硬化が進行し弱年齢で冠動脈疾患に罹患する確率が高くなります。FHヘテロ接合体は国内では200~500人に1人の頻度で見られ、24~60万人の患者がいると推定されます。

FHは常染色体優性遺伝病であり、血中LDLを取り込む"LDL受容体遺伝子(以下LDLR)"やLDLRの分解に関わる遺伝子"PCSK9"の変異が原因として報告されています。本研究ではFHヘテロ接合体患者の遺伝子解析により日本人FH患者の遺伝子変異の特徴を調べるとともに、遺伝子解析が重症患者の選別と有効な治療法の選択につながる可能性について考察しました。

研究手法と成果

斯波部長らの研究グループは国循で臨床的にFHヘテロ接合体と診断された患者269名の採血を行い、LDLR及びPCSK9について遺伝子解析を行いました。その結果、53%にLDLR変異が、13%にPCSK9変異(注2がありました()。また、"LDLR変異"と"PCSK9のうちV4I変異"(注3)の双方を有する患者(全体の3.6%)はLDLR変異のみの患者よりLDL-C値が高いこと、さらに狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の頻度も高くなることが判明しました()。つまり、二つの遺伝子変異が組み合わされるとLDL-Cが増加し、冠動脈疾患に罹患する可能性が高くなることが判りました。このことから、FH患者の遺伝子解析はFHの診断だけでなく重症度を早期に判断する方法としても有用であるといえます。

今後の展望

本研究により、FH患者に対して遺伝子解析を行うことでLDLR変異とPCSK9 V4I変異を両方もつ極めて重症なFHを早期に診断することができることが明らかになりました。今後は遺伝子解析結果を患者の早期診断や重症度に合った治療法の選択に利用することで、FH患者の予後改善に貢献できることが期待できます。

本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 厚生労働省「難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業):原発性高脂血症に関する調査研究 H23-難治-一般-01、H26-難治-一般-056」
  • 厚生労働省「医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業):PCSK9をターゲットとした核酸医薬の薬事申請を目指した治験に橋渡しするための非臨床試験 H26-医療技術-一般-003」
  • 厚生労働省「創薬基盤推進研究事業:アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発 H23-政策探索-一般-004」
  • 循環器病開発費「心血管疾患関連蛋白質の病態生理的意義の解明とその診断・治療への応用 25-2-5」
  • 循環器病開発費「次世代シーケンサーを用いた疾患病態解析の基盤構造とその活用による循環器疾患の病態解析 25-2-3」

【注釈】

(注1) 家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体

「ヘテロ接合体」という言葉には、「臨床診断で判断基準となる項目」と「遺伝子的な組み合わせの種類」の2つの意味があるが、今回は前者を指す。

<臨床診断基準>
① 未治療時の血清LDL-C値が180 mg/dL以上
② 腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫
③ 2親等以内の血族にFHの家族歴あるいは早発性冠動脈疾患
  (男性55歳未満、女性65歳未満)の家族歴がある
→ 上記のうち2項目以上に該当すること。


(注2) PCSK9変異

PCSK9の変異は、機能欠損型と機能亢進型の2つのタイプがある。

PCSK9変異種類LDLR分解能 血中LDL-C濃度 冠動脈疾患発症率
機能欠損型 抑制 減少 減少
機能亢進型 ※ 亢進 増加 増加?

※ ここでは、British Heart Foundation によって公開されている FH の遺伝子変異のデータベース (LOLDv.1.1.0) にて、機能亢進型と予測されている V4I、E32K、R496W をさす。


(注3) PCSK9 V4I変異

PCSK9を構成する4番目のバリン(V4)がイソロイシン(I)に変わる遺伝子変異。この変異によるPCSK9変異体蛋白質のはたらきが、正常なPCSK9蛋白質とどのように異なっているのかは未解明である。


【図表】

(図)FHヘテロ接合体患者におけるLDLR及びPCSK9変異の分布
※今回対象となる患者のうち、血縁関係者をのぞいた224名

LDLR変異のみをもつ患者は約49%、PCSK9変異のみをもつ患者は9%、LDLR変異とPCSK9変異を併せ持つ患者は約4%という結果でした。
なお、海外ではPCSK9変異の患者は1%程度といわれており、PCSK9変異をもつ患者割合の高さは日本人に特徴的な傾向であるものと推察されます。

図

(表)PCSK9 V4IとLDLR変異を有するFH患者におけるLDL-C値及び冠動脈疾患の頻度

PCSK9 V4IとLDLR両方に変異があると冠動脈疾患を起こす頻度が40%程度高くなります。

表

最終更新日 2016年02月13日

最終更新日:2021年09月26日

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