ホーム > 広報活動 > プレスリリース > 急性心不全患者の重症度とBNP分子比の関連を明らかに

急性心不全患者の重症度とBNP分子比の関連を明らかに

活性型BNP分子比の増加に基づく新しい心不全代償機序を提唱

平成30年4月24日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)心不全科の髙濱博幸医師、安斉俊久前部長(現・北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教授)、創薬オミックス解析センターの南野直人センター長らの研究チームは、急性心不全患者のBNP分子比の変化と心不全重症度との関連性を世界で初めて明らかにしました。本研究成果は科学誌「International Journal of Cardiology」に平成30年3月13日(現地時間)に掲載されました。

背景

心臓の負荷が増加すると、その負荷を低減するために人体に備わったメカニズム(代償機構)のはたらきにより、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の体内での産生が増加します。BNPには強力な血管拡張作用と利尿作用があります。心不全によるうっ血(血液の流れが悪くなること)に対して、血管の拡張や腎臓からの尿の排泄量の増加などによって解消させるために、BNPを体外から補充的に投与する治療が行われることがあります。
体内でのBNP産生過程は図1のとおりです。すなわち、①BNPのもととなる物質がいくつかの過程を経てproBNPという物質に変化します。②proBNPに各種の糖が数個から10個がつながった「糖鎖」が結合します。proBNPには、最大で7つまで糖鎖が結合できます。③糖鎖がついたproBNPの一部は、心保護作用の強い活性型BNPと心保護作用のないNTproBNPに切断されて、血中に放出されます。このとき、切断されていないproBNPも一緒に血中に放出されます。
proBNPは心保護作用が極めて低いため、血中BNP全体量に対するproBNPの割合が高くなることで活性型BNP割合は低くなり、BNPの心保護作用が弱くなる可能性が指摘されていました。しかし、BNP全体における各種BNPの割合の抽出や判明したBNP種の比率と心不全重症度との関連、急性心不全患者での時間経過に伴うBNP割合の変動などについて、これまで明確な研究成果はありませんでした。

研究手法と成果

国循、京都大学と塩野義製薬の研究チームはproBNPのみを個別に測定する手法の開発に成功しました。この手法と従来あったBNP全体の測定手法を改良して組み合わせることで、心不全患者の血中BNPにおけるproBNPと活性型BNPの割合がわかるようになりました。この手法を用いて、髙濱医師らの研究チームは2012年から2015年までに急性心不全で国循に入院された患者154名についてproBNP, 総BNPなどの測定を行い、総BNP値が中央値(116.5pg/ml)より低い患者(軽症群:77名)と高い患者(重症群:77名)に分けて解析を実施しました。その結果、軽症群では重症群よりBNP中のproBNPの割合が低いことがわかりました(図2)。さらに、入院時proBNP比率が60%以上の患者(高率群:76名)と60%未満の患者(低率群:78名)に分けて解析を実施したところ、高率群では単位BNP量当たりのサイクリックGMP値が低いことが明らかになりました。サイクリックGMPは活性型BNPがその受容体と結合して細胞に反応を引き起こすときに生じる生理活性物質(血管拡張作用などの保護効果をもたらす)であり、BNP量に対するサイクリックGMP値が低いことは、BNP分子あたりの作用を発揮する効率が低下していることを意味します。つまり、proBNP低率群では活性型BNPの割合が高いためBNPの心保護作用がうまく機能していますが、高率群では活性型BNPの割合が低く、その結果BNPからサイクリックGMPを産生する経路の働きが弱くなっている可能性が示唆されました(図3)。

今後の展望と課題

本研究成果は、いまだ不明な点が多い心不全の病態解明だけでなくナトリウム利尿ペプチドの補充療法の個別化治療(オーダーメイド治療)に発展する可能性があります。今後も引き続き病院と研究所が一体となって研究を進めて参ります。

<図表>

(図1)活性型のBNP分子が産生される手順(BNPプロセシング)
BNPのもととなる物質に最大7つの糖鎖がつくことで、はたらきの違う複数のBNP種類に変化する。

(図2)総BNP値により2群に分けた心不全患者おけるproBNPの割合の時間的変動
BNPが中央値より低い患者(軽症心不全患者・赤線)と中央値より高い患者(重症心不全患者・青線)に分けて解析を実施しました。その結果、軽症心不全患者では入院時に%proBNP[(=proBNP/total BNP (proBNPと活性型 BNPの和)X100]が低下を認めるのに対し、重症心不全患者ではこのような変化を認めないことが分かりました。

(図3)proBNPの割合により2群に分けた心不全患者の、サイクリックGMP産生量比の時間的変動
サイクリックGMPは活性型BNPが受容体に結合し産生されるセカンドメッセンジャーですが、本研究ではproBNP割合が高い(=活性型BNP割合が低い)場合はBNP分泌量の割にサイクリックGMP値が低いことが分かりました。これは、BNP⇒サイクリックGMP経路に基づく心不全状態を改善させる代償機構がうまく機能していないことを示唆します。

最終更新日 2018年04月24日

ページ上部へ