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脳内BDNFの増強を目指す、新たな発芽玄米製造法の開発
~適量の5-アミノレブリン酸が育てる良質な発芽玄米~

平成30年10月10日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)研究所分子病態部の柳本広二疾患分子研究室長の研究グループは、SBIホールディングス株式会社との共同研究により、発芽玄米に含まれる健康成分を増加させる製造方法を開発しました(以下、この方法で製造された発芽玄米を「本発芽玄米」とします)。さらに、独自のマウスモデルを用いた実験で、本発芽玄米の継続摂取により脳内物質BDNF(注1)の産生が増強されることを確認しました。なお、本発芽玄米については、「発芽玄米の底力」との商品名で、10月11日より、SBIグループのSBIアラプロモ株式会社から、販売が予定されています。

背景

脳梗塞は発症すると後遺症が残ることが多く、最重度の要介護5の原因疾患の第1位です(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」より)。また、同省の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されており、認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)」と推計される約400万人を合わせると、高齢者の約4人に1人が認知症もしくは予備群です。さらに、内閣府の推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。

脳内BDNFの適度の産生増加は、虚血性脳卒中への抵抗性や記憶力を高め、また、うつ症状を軽減させることがわかっており、国民医療費増大の大きな要因となる脳血管疾患や認知症の予防に活用できると考えられます。BDNFは「適度で自発的、持続的な身体活動」や「適度で持続的なカロリーの摂取制限」、すなわち「身体をしっかり動かして、腹八分目の生活を続けること」によって増加します。しかしながら、誰もが運動や食事制限を続けられるとは限らないため、安全かつ誰もが取り入れることができる、新たなアプローチによるBDNF増加手段の開発が求められています。

研究手法と成果

玄米の発芽過程で適切な温度と水が必要となりますが、柳本室長らは、新製造法に基づき5-アミノレブリン酸(ALA、注2)を適切に用いることで、発芽玄米に含まれるガンマ-アミノ酪酸(GABA(ギャバ)、注3)が通常(既存)の発芽と比べて有意に増加することを明らかにしました。

玄米が発芽するとギャバ量が約3~4倍に増加しますが、劣悪な発芽環境、または、不十分な発芽時間では殆ど増加しません。既存の発芽手法に勝る、発芽後ギャバ量の増加は、順調な発芽反応が、一定時間内に十分に進んだこと(玄米のより健全な発芽)を示します。本研究では、玄米の発芽過程でALAを適切に用いることで、より良質な発芽反応が生じることが示されました。

マウスを ①マウス用通常食群 ②本発芽玄米群 ③従来の発芽玄米(無作為に3種を抽出)群に分け、6週間にわたり飼料として与えた後に、独自の修正を加えた「モリスの水迷路試験」(注4)を実施して、個々のマウスの空間認知学習力を判定しました。その結果、マウス用通常食で飼育されたマウス群に比べて本発芽玄米で飼育されたマウスの成績が有意に高く、本発芽玄米によりマウスの記憶力が向上したことが示されました(図1)。また、マウスに対する ①または ②のいずれかの処置後に、ELISA法を用い、脳内BDNF量を測定しました。その結果、②群のBDNF量が、①群に比して有意に高いことが示されました(図2)。

今後の展望・課題

今回の研究結果は、あくまでもマウスという実験動物を用いたものであり、人での有効性が確認されたわけではありません。しかし、マウスを用いた実験系で見る限り、従来の発芽玄米の品質は決して一定ではなく、発芽玄米であれば身体によいとは一概には言えません。比較した従来の発芽玄米群のうち、一部の(既存)製品では、脳内のBDNFを減少させ、記憶力を低下させる、というマイナス効果が示されました。記憶力やBDNF量の変動が、「マウスによる結果に過ぎない」とは言え、そのような結果が得られたことから、今後は、脳内BDNF量の増減に関連する機能性の、人での検証が求められます。

<注釈>

(注1)BDNF
脳由来神経栄養因子とよばれる分泌性タンパク質の一種。BDNF産生量が増加すると、虚血性脳卒中への抵抗性や記憶力を高め、またうつ症状を軽減させることが、これまでの研究で明らかになっている。

(注2)5-アミノレブリン酸(ALA)
エネルギーと代謝水の生成に欠かせない天然アミノ酸。植物で光エネルギーを化学エネルギーに変える葉緑体に含まれるクロロフィル(葉緑素)の原料や、動植物で呼吸およびエネルギー変換と水の産生を行うミトコンドリアの代謝を司るヘム/シトクロムの原料となる。甘酒や赤ワインなど一部の食品に多く含まれる。かつては、プラチナよりも高価なアミノ酸、とも言われたが、近年、科学技術の進歩により、大量生産への道が開かれた。植物や果実の成長を高め、皮膚組織の調子を整え、また、代謝率を高めることで血糖を低下させる、などの作用があるため、植物の成長促進剤や化粧品、サプリメントなどとして販売されている。

(注3)GABA(ギャバ)
白米には殆ど含まれず、玄米での含有量も僅かのみであるが、発芽時の良好な酵素活性によって胚芽、その他の部分で産生され、増加する。頭部外傷後の記憶力の低下を改善させることを目的とした保険適応を持つ臨床薬の成分である。最近では、玄米を含む、様々な食品や飲料に添加されている。

(参考)ギャバ以外に発芽玄米に含まれるとされる主な健康成分

  • γ(ガンマ)‐オリザノール
    米糠に含まれている。フェルラ酸と食物ステロールとの結合体。緊張や不安、抑うつの改善、または、高脂血症の改善を目的とした保険適応を持つ臨床薬の成分である。
  • フェルラ酸
    米糠に含まれている。強い抗酸化力があり、食品添加物として使用されている。人での抗認知症効果が期待され、いくつかの「サプリメント」が販売されている。
  • 食物繊維
    米糠や胚芽に含まれている。腸内細菌叢の健全な育成と、脳精神機能を高めることに寄与する「健全な腸脳相関」に必須の物質である。
  • 玄米乳酸菌
    米糠に含まれている。「鮒ずし」や「酒粕を原料とする甘酒」等、様々な発酵食品に古来利用されており、摂取後に腸内で生存・増殖することで(腸脳相関)、精神神経活動を含む様々な健康増進効果や寿命延伸効果が期待されている。
  • ビタミンB1:
    米糠に含まれている。神経系のエネルギー利用を助け、神経活動に欠かすことのできない因子である。不足すると、軸索変性、多発性神経炎が生じ、脚気心、ウエルニッケ脳症(コルサコフ症候群)、大脳皮質壊死症等を発症する。

    既存の発芽玄米製品には、理論的には、上記すべての成分が含まれているが、BDNF産生への影響(増加、または、減少させる:下図参照)との観点からは、それぞれの要素間の調和(質と量、または、その他、未だ同定されていない成分の存在)も、重要な役割を果たす可能性がある。健康増進を目的として末永く食べ続けるためには、販売開始後の、人での評価(個々人の健康チェック、または、新たな臨床研究)も求められている。

(注4)モリスの水迷路試験/変法(本研究で実施した)
マウスをプールに入れ、水の中にある隠された足台にたどり着くまでの時間を1日4回、それを5日連続で計測することにより、マウスの空間認知学習能力を判断する試験方法。

<図1>
本発芽玄米(本発芽)と従来の市販品(A,B,または、C社の発芽玄米)を6週間継続摂取した後の記憶力(空間認知学習能)の相違(各30-60匹)


図1のごとく、本発芽玄米(本発芽)を食した群では、マウス通常食を食した群に比して、「水中に隠された足台」まで、より短時間で到達できるようになった。一方、A社の発芽玄米を食した群では、足台までの到達時間が有意に延長していたことより、空間記憶学習能が、通常食群よりも劣っていた。


<図2>

通常食、または、本発芽玄米のいずれかを6週間にわたり摂取させた後の、前脳(皮質、海馬、基底核を含む"大脳"部分)に含まれるBDNF量の比較(各6、16匹)


図2のごとく、本発芽玄米を食したマウス群は通常食群に比して、有意に高いBDNF値を示した。

最終更新日 2018年10月10日

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