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新型コロナウイルス肺炎に対する高性能新規ECMOシステムの安全性及び有用性に関する多施設共同単一群試験(COVID-19_ECMO)

令和2年9月8日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の巽英介副オープンイノベーションセンター長、西中知博人工臓器部長らの研究チームは、超小型高性能のポータブルECMO(注1)システムをニプロ(株)と共同で世界に先駆けて開発し、福嶌教偉移植医療部長が治験責任医師となって、2020 年3 月10 日より医師主導治験を開始しております。この超小型ECMOシステムには、世界初かつ唯一の動圧浮上非接触回転型血液ポンプBIOFLOAT®-NCVC®、世界で最初にポリメチルペンテン(PMP)製ガス交換膜を用いた高耐久性膜型人工肺BIOCUBE®、そしてシステム全体に極めて高い抗血栓性を賦与するT-NCVC®コーティングが、最先端の主要技術として用いられています。
このたび、BIOFLOAT-NCVCポンプ、BIOCUBE人工肺、T-NCVCコーティング回路で「高性能新規ECMOシステム」を構築し、これを用いた新型コロナウイルス感染症による重症呼吸不全に対する補助循環(COVID-19_ECMO)治療を、2020年9月中旬から福嶌移植医療部長を研究責任医師とする特定臨床研究として、国循並びに東京の5施設(国立国際医療研究センター、東京都立多摩総合医療センター、日本赤十字社医療センター、聖路加国際病院、東京医療センター)と大阪の4施設(大阪大学医学部付属病院、関西医科大学総合医療センター、大阪急性期・総合医療センター、りんくう総合医療センター)の計10施設で実施することとなりました。
本特定臨床研究は、令和2年度第1次補正予算による国立研究開発法人日本医療研究開発機構のウイルス等感染症対策技術開発事業(注2)の中で実施しており重症患者の救命を目的に、病態の理解、患者の救命率向上、医療従事者の負担軽減等の優れた医療の早期提供に努めます。

背景

新型コロナウイルス感染症は、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言し、世界的な感染拡大の状況、重症度等から3月11日に新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明しました。世界的には、増加は継続しており、8月30日現在、感染者数は2500万人を超え、84万人以上が死亡しています。国内では緊急事態宣言後一旦収束したようにも見えましたが、宣言解除後、再度感染者数は増加し、感染者数は6万6千人と、死亡者は1200人を超えました。
新型コロナウイルス感染症は80%近い感染者は感冒様の症状を認めた場合でも軽症ですが、20%程度で肺炎症状が増悪し、5%程度は人工呼吸器を用いた呼吸管理が必要になってきます。日本COVID-19対策ECMOnetの調べでは、8月30日現在、916名が人工呼吸器を装着され、589名が軽快し離脱しましたが、161名が死亡し、166名が装着中です。従来の人工呼吸管理では生命が維持できない場合、またはそれを続けることによって肺に不可逆的な傷害を与える可能性がある場合に体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)が必要になってきます。8月30日現在、223名にECMOが装着され、142名はECMOを離脱していますが、57名が死亡、24名がECMO実施中です。
しかし、現在国内で使用されているECMO回路は、薬機法(注3)上6時間以内を条件で承認された医療機器であり、新型コロナウイルス感染症治療におけるECMO使用期間の中央値が12日であることを考えると、頻繁な交換を要し、患者の合併症発生や、医療スタッフへの負担が大きく、また新型コロナウイルスの他者への感染のリスクも増加させます。また、COVID-19肺炎の原因の1つとしてサイトカイン放出が考えられており、抗血栓性、血液適合性の優れたECMOシステムが有用と考えらます。
そのような理由から、特に新型コロナウイルス感染症による呼吸不全においては、長期間使用可能で、炎症を惹起しにくいECMOシステムの開発が望まれています。

機器概要と研究成果

国循人工臓器部では1986年より抗血栓性と長期耐久性に優れたECMOシステムの開発を目指して研究を続けてきました。本装置では、これまで人工臓器部が実用化してきた様々な先端技術を用いてECMOシステムを構築することで、高い緊急対応性・携帯性・抗血栓性・耐久性を実現しました。
 本装置で用いられる血液ポンプBIOFLOAT-NCVCは、小型、軽量(血液充填量は16mlで、重量は33g)で、動圧軸受を採用しているため、インペラ(血液ポンプ内で回転する羽根車)が外枠であるケーシングに接触することがありません。さらに内面に特殊なヘパリンT-NCVCコーティングを施しているため、耐久性と抗血栓性に優れています。2018年に実施した医師主導試験では、この血液ポンプを体外設置型人工心臓として9例に用い、9‐48日間循環補助を行うことができました。
 一方、本装置でも用いられる膜型人工肺BIOCUBEは、ポリメチルペンテン(PMP)製のガス交換膜を使用し、動物実験ではヘパリン非使用下に長期間使用できることも確かめられているものです。血液回路は、T- NCVCヘパリンコーティングを施し、抗血栓性に優れています。これらで構成されたECMOシステムを、ヘパリンを使用しないで稼働される慢性動物実験を成山羊で行い評価しましたが、30日間良好な状態で山羊は生存し、人工肺・遠心ポンプを含む回路内を検索したところ、殆ど血栓形成を認めませんでした。

実施手法と今後の展望

本研究は、従来の治療法では救命が困難な新型コロナウイルス感染症による重症呼吸不全の患者を対象に、長期間同じ回路で呼吸・循環補助を行うことによって救命率の向上につながるかを明らかにする目的で実施します。対象症例数は合計50 例とし、症例登録期間は2020年9月中旬~2021年3月31日(約7ヶ月)までとします。
本研究により「高性能新規ECMOシステム」の効果が確認できれば、重篤な患者の救命に寄与する全く新しい機器となることが期待されます。

<注釈>
(注1)ECMO
体外式膜型人工肺(Extracorporeal Membrane Oxygenation)の略称。人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療で、重症呼吸・循環不全患者の呼吸および循環回路が自発的に回復するまでの間に呼吸や循環を補助する対症療法として用いられる。経皮的心肺補助(Percutaneous Cardio Pulmonary Support:PCPS)も広義のECMOに含まれる。

(注2)ウイルス等感染症対策技術開発事業(令和2年度第1次補正予算)
研究課題名は「新型コロナウイルス肺炎に対する高性能新規ECMOシステムの有効性・安全性に関する臨床研究」である。

(注3)薬機法
正確な名称は「医薬品・医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保等に関する法律」。旧薬事法を平成25年に見直したもの。

<図>
今回の特定臨床研究で用いられるECMO

最終更新日 2020年9月8日

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