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認知症を生じる遺伝性脳小血管病CADASILのiPS細胞モデルで病態を試験管内で再現することに成功

令和2年3月16日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)脳神経内科の猪原匡史部長と病態代謝部の山本由美非常勤研究員らの研究チームは、井上治久教授(京都大学iPS細胞研究所)、曽根正勝特定准教授(京都大学糖尿病・内分泌・栄養内科)らの研究グループとともに、遺伝性脳小血管病CADASIL患者のiPS細胞から血管壁細胞を分化誘導し、その病態を試験管内で再現することに成功しました。この病態モデルの解析により、細胞の増殖や遊走に関係する血小板由来成長因子受容体β(PDGFRβ)シグナルの異常が、病態を生じる可能性が見いだされました。この研究結果は、2020年3月19日(グリニッジ標準時午前1時,日本時間午前10時)にMolecular Brain誌でオンライン公開されました。

背景

希少難病CADASIL (cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)とは、血管壁細胞(ペリサイト、血管平滑筋細胞)に特異的に発現する一回膜貫通型受容体NOTCH3遺伝子の変異による優性遺伝性脳小血管病です。CADASIL患者は、毛細血管や細動脈などの小血管の狭窄や血管平滑筋細胞の変性などの病的変化により、脳梗塞や脳の深部の神経線維が障害される白質障害さらには認知症を発症しますが、その病態メカニズムは未だに解明されておらず、治療法も存在しないのが現状です。これまでその頻度(有病率)は人口10万人あたり数名と言われていましたが、最近のゲノム解析では,CADASILを起こしうるNOTCH3遺伝子の変異を100人に1人が持つという発表もなされており、脳梗塞の治療薬開発のために病態を再現するモデルを用いた病態メカニズムの解明が強く望まれています。

研究方法と成果

研究グループは、まず既存の血管内皮細胞の分化誘導手法を改良し、成熟した血管壁細胞を患者さんのiPS細胞から分化誘導する手法を確立しました(図1)。この新たな手法により分化誘導したCADASIL iPS細胞由来壁細胞において、CADASILの病態としてこれまでに知られている、NOTCH3タンパク質の細胞外部分の凝集、細胞骨格アクチン繊維の構造異常、およびPDGFRβの増加が再現されていることが確認されました。また、CADASIL患者の血管壁に観察されるGOM (Granular osmiophilic material)と呼ばれる凝集体が再現され、CADASILに見られるようにNOTCH3細胞外部分とHtrA1というタンパク質が含まれていました(図2)。患者iPS細胞由来の壁細胞が、CADASILの病態モデルとして信頼できることを示しています。

さらに、健常コントロール群との比較の結果、CADASILの壁細胞において細胞遊走能が亢進しており、これに変異NOTCH3と過剰発現したPDGFRβが関わっていることが示唆されました。

今後の展望と課題

PDGFRβは、血管壁細胞の増殖と遊走の切り替えに関与することが知られています。CADASILの壁細胞では、PDGFRβが過剰発現することにより、血管新生の際の増殖と遊走の切り替えが正常に働かなくなり、結果として血管形成や構造の不安定化につながることでこの病気を引きおこすのではないかと考えられます。今後、CADASILの病態モデルにより、詳細な病態メカニズムの解明だけでなく、治療薬の探索に利用されることが期待されます。

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
本研究は、科学研究費助成事業(24.7954, 26830039, 16K18387, 18K07058)と日本医療研究開発機構(JP16ek0109130, JP18jm0210053, 20ek0210126s0102)により支援されました。

<図>
(図1)iPS細胞から分化誘導した血管壁細胞

(図2)CADAISL iPS細胞由来壁細胞のGOM様沈着物(矢印)

最終更新日 2020年3月19日

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