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胎児心不全に対する新規治療法開発につながる可能性 
経母体的タダラフィル投与により胎仔心収縮能が改善

2020年3月2日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の細田洋司 再生医療部室長、三好剛一 再生医療部客員研究員(元国循周産期・婦人科医師/現国立成育医療研究センター臨床研究センター)、中川修 分子生理部部長らの研究チームは、タダラフィルの経母体的投与が胎児心不全治療法になりうることを、胎児心不全モデルマウスを用いて世界で初めて示しました。本研究成果は欧州の科学誌「International Journal of Cardiology」に令和元年12月18日付でonline掲載、令和2年3月1日付で出版されました。

背景

胎児の先天性心疾患や不整脈などが原因となり、胎児循環が破綻した病態が胎児心不全です。もし胎内で心不全が進行した場合は胎児を娩出して新生児治療に移行するしかありませんが、在胎週数が早ければ早いほど救命が難しくなるため、胎内で循環を維持する胎児治療法が望まれています。
しかし、これまでに胎児心不全のモデル動物はなく、胎仔(注1)心臓の構造や機能、循環動態をリアルタイムに評価する実験系も確立していないことから、胎児心不全治療法の開発はこれまで全く進んでいませんでした。そこで、我々は小動物用超音波高解像度イメージングシステム(Visual Sonics Vevo2100®)を用いて、胎仔期の心臓形態および循環動態を観察・評価することにより、胎児心不全モデルマウスの探索を行いました。さらに、見出した胎児心不全モデルマウスを用いて、ホスホジエステラーゼ5阻害剤の1つであるタダラフィルの胎仔循環への効果を検討しました。タダラフィルは、小児・成人領域では肺高血圧症の治療薬であり、心収縮能の改善効果もあることが知られています。

研究方法と成果

Hey2遺伝子が胎生期より心臓に強く発現すること、Hey2遺伝子のホモ欠損マウスは心臓形態異常を呈し、出生後早期に心不全で死亡することが知られていました(図1)。まず、小動物用超音波高解像度イメージングシステムを用いて、Hey2ホモ欠損マウスの胎仔の心臓形態および循環機能の評価を行ったところ、胎齢が進むにつれて左室の拡大および左心室駆出率の低下を認め、胎児心不全のモデルマウスとなりうることが判明しました(図2)。
次に、このマウスを用いて、無治療群、タダラフィル低用量(0.04mg/mL)群、タダラフィル高用量(0.08mg/mL)群の3群に分けて、それぞれ母体に飲水投与を行い、胎仔循環への効果を検討しました。タダラフィル低用量群においてHey2ホモ欠損マウスの胎仔の左室駆出率の改善効果が確認されました(図3)。この効果は、胎仔胎盤循環および胎仔の心臓形態や容量負荷の変化を介しておらず、胎仔心筋へのタダラフィルの直接作用が示唆されました。また、タダラフィルには有効な治療域があることが推察されました。

今後の展望と課題

  • 今回確立した小動物用超音波イメージングシステムを用いたリアルタイムに評価する実験系は、様々な遺伝子改変マウスの胎仔心機能や循環動態の観察、さらに治療開発薬の効果判定などに広く応用できると考えられます。
  • 胎仔心臓に対するタダラフィルの分子生物学的な作用機序については不明な点も多く、さらなる解析が必要と思われます。
  • 将来的にタダラフィルを胎児心不全治療薬として臨床応用する場合には、胎児心不全の重症度も考慮しながら、人におけるタダラフィルの適切な投与量を探索する必要があると考えられます。

発表論文情報

著者:Miyoshi T, Hisamitsu T, Ishibashi-Ueda H, Ikemura K, Ikeda T, Miyazato M, Kangawa K, Watanabe Y, Nakagawa O, Hosoda H.
題名:Maternal administration of tadalafil improves fetal ventricular systolic function in a Hey2 knockout mouse model of fetal heart failure
掲載誌:International Journal of Cardiology 302:110-116, 2020.

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
JSPS科研費「17K16316」「19K08343」、日本心臓財団、宮田心臓病研究振興基金、国立研究開発法人国立循環器病研究センター循環器病研究開発費(25-3-1、27-1-5)

<注釈>
(注1)動物の胎児は「胎仔」と呼ばれる。

<図表>
(図1)Hey2ホモ欠損マウスでは胎仔期より左室拡大および右室低形成を呈した
    (胎齢18.5日目)

(図2)小動物用超音波高解像度イメージングシステムを用いて観察したところ、
    Hey2ホモ欠損マウスでは胎齢に伴って胎仔心不全が進行した

(図3)経母体的なタダラフィル低用量(0.04mg/mL)群においてHey2ホモ欠損
    マウスの胎仔左室駆出率の改善を認めた(胎齢18.5日目)

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