国立循環器病研究センター

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冠動脈拡張症を有する急性心筋梗塞患者の予後およびワルファリンの適切な使用による効果が判明

平成29年11月21日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)心臓血管内科部門の土井貴仁医師や片岡有医長、安田聡副院長らの研究チームは、冠動脈拡張症を有する急性心筋梗塞症症例(以下、本症例)に対する適切なワルファリン使用が予後改善に有効である可能性を示しました。本研究成果は米国心臓病協会の医学誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に平成29年10月19日に掲載されました。

背景

一般的に、急性心筋梗塞は動脈硬化などで狭くなった冠動脈が血栓により閉塞・血流途絶することで発症します。超急性期の治療法としては、血栓を取り除き、血管の狭窄部分を広げた上でステントとよばれる網目状の筒型の金属を血管内に留置して血流を再開させるカテーテル治療(再灌流療法)が多く選択されます。一方で、冠動脈の異常拡張を呈する冠動脈拡張症(図1)においても急性心筋梗塞を発症することが知られており、その機序として冠動脈内の血流停滞により血栓が形成されて、冠動脈閉塞をきたすと考えられています。しかし、本症例は通常の心筋梗塞と比較して血栓の量が多く、また既に血管が拡張した状態であることからステントが血管壁に接着しないため、一般的な再灌流療法のみでの治療は困難でした。このため、本症例では再灌流療法と併せて行う有効な治療法の検討が必要でしたが、本症例は全心筋梗塞のうち1-5%程度の非常にまれな疾患であるため、研究実績が少ないことが問題でした。

研究手法と成果

土井医師らの研究チームは、2001年から2013年までに急性心筋梗塞を発症した1698名を対象に、冠動脈拡張例(51名)と冠動脈非拡張例(1647名)に分けて、それぞれの経過を分析しました。その結果、冠動脈拡張例で有意にカテーテル成功率は低く、主要心イベント(死亡、非致死性心筋梗塞)発生は高率でした(図2)。次に、冠動脈拡張例で抗凝固薬のワルファリン内服量が適切であった例(8例)と適切でなかった例(43例)を比較すると、適切であった例で主要心イベント発生率は有意に低率でした(図3)。

今後の課題と展望

急性心筋梗塞では血栓の生成を防ぐため抗血小板薬の使用がガイドラインで推奨されています。血流が停滞しやすい本症例ではワルファリンの追加内服も検討されますが、抗血小板薬との併用による出血リスクを懸念し医師の判断で処方を控えるケースもありました。本研究により抗凝固薬の適切な使用による予後改善の可能性が示唆されたことから、ガイドラインの策定に寄与できると期待されます。今後はさらに多くの症例を検証し、治療法の確立を目指します。
(注)ワルファリンによる抗凝固療法の質の評価であるTTR(Time in therapeutic range)≧60%を「ワルファリンを適切に投与した群」、TTR<60%を「ワルファリン量が適切でない群」とした。TTRは、ワルファリン投与期間中にその効果指標である血液検査PT-INRが目標値領域内(1.6~2.6)にあった時間的割合を算出した (Rosendaal法)

(図1)冠動脈拡張症と正常な冠動脈の造影画像
冠動脈拡張症(左)では、正常な冠動脈(右)と比較して黄色い矢印の部分で冠動脈が異常に拡張している。診断の目安は正常な冠動脈直径の1.5倍程度とされている。

(図2)冠動脈拡張症の有無による予後の違い
冠動脈拡張があると、有意に心イベントを起こしやすい(回避率が低下する)。

(図3) ワルファリン投与量と心イベント発生率の関係
ワルファリン投与量が適切に調節できた例で、心イベント発生率は有意に低かった。

最終更新日 2017年11月21日

最終更新日:2021年09月26日

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