国立循環器病研究センター

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食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患発症との関連

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果-

平成29年9月8日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉)は、日本人でのがん・心筋梗塞・脳卒中など成人病の発症と、食習慣・運動・喫煙・飲酒など生活習慣との関係を調査し、生活習慣の改善により、これら疾病の発症を防ぐことを目的とした「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(多目的コホート研究:JPHC Study)」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)を行っています。多目的コホート研究は、全国11保健所や国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究で実施され、これまでに多数の調査結果を公表しています。http://epi.ncc.go.jp/jphc/

 今回の「食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患発症との関連」研究は、国立研究開発法人国立循環器病研究センター(理事長:小川久雄)と共同で、平成7年(1990年)と平成10年に45~74歳だった約8万5千人について、食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患との関連を調べました。
ミネラルは食事から摂取する必要がある栄養素の一種です。これまで、ミネラルのなかでも、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを多く摂取することは、循環器疾患を予防することが報告されてきました。しかし、食事からのマグネシウム摂取量と循環器疾患との関連についてアジアからの報告はなく、その関連を明らかにすることを今回の研究の目的としました。

 アンケートによる食物摂取頻度調査から、食事によるマグネシウム摂取量を推計し、循環器疾患(脳卒中及び虚血性心疾患)の発症との関連を検討しました。その結果、男性では、食事からのマグネシウム摂取量が一番少ないグループに比べ、摂取量が一番多いグループで、虚血性心疾患の発症リスクが34%低いという結果が認められました。

 今回の研究は、食事からのマグネシウム摂取と虚血性心疾患の発症リスクを調べた、アジアで初めての研究です。マグネシウムの欠乏は、血圧上昇や動脈硬化など、複数の虚血性心疾患リスクと関連するため、これらのことがマグネシウム摂取による循環器疾患の予防効果として考えられます。今後は、介入研究などによる検証が期待されます。

食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患発症との関連について

 私たちは、様々な生活習慣と脳卒中・虚血性心疾患、がんなどの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っております。平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部で(コホートI)、平成10年(1998年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古で(コホートII)、合わせて9保健所(呼称は2017年現在)管内にお住まいだった45~74歳のうち、循環器疾患、がんの既往のない追跡可能な約8万5千人を対象として、食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたのでご紹介します(Clinical Nutrition誌、電子版2017年8月24日公開)。

 ミネラルは食事から摂取する必要がある栄養素の一種で、その内、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどを多く摂取することは、循環器疾患(脳卒中及び虚血性心疾患)の予防に有効であることが、主に欧米の研究から報告されています。しかし、アジア人における報告はなく、日本人において、食事からのマグネシウム摂取量と循環器疾患発症との関係を明らかにすることを今回の研究の目的としました。

マグネシウム摂取が多いグループで虚血性心疾患のリスクが低下

 食事からのマグネシウム摂取量は、追跡開始時のアンケートによる食物摂取頻度調査から推計し、マグネシウム摂取量を、少ない群から5等分に分け(Q1低、Q2、Q3、Q4、Q5高)、摂取量が一番少ない群(Q1)の発症率を基準とし、Q2からQ5群における循環器疾患(脳卒中及び虚血性心疾患)発症率を比較検討しました。
 約15年の追跡期間中に、4,110人の脳卒中(脳梗塞及び出血性脳卒中)と、1,283人の虚血性心疾患の発症を確認しました。虚血性心疾患の発症リスクは、男女とも、食事からのマグネシウム摂取量が増えるほどリスクが低下する傾向がみられました。男性において、虚血性心疾患の発症リスクは、食事からのマグネシウム摂取量が一番少ない群(Q1)と比較して、比較的多い群(Q4)からリスクが低くなり(図1)、女性では、中間~多い群(Q3、Q4、Q5)で、リスクが低くなりました(図2)。さらに、女性では虚血性心疾患と脳卒中を合わせた、全循環器疾患の発症リスクでも、Q3、Q4、Q5群で、それぞれ20%、16%、19%低い結果となりました(図2)。食事からのマグネシウム摂取量と脳卒中との関係は、脳卒中の病型(脳梗塞、出血性脳卒中)別の解析を含め、認められませんでした。

調整変数は、年齢、地域、喫煙、飲酒歴、body mass index、糖尿病の既往、高血圧治療および脂質異常症治療の有無、習慣的な運動、魚・野菜・果物の摂取、食事エネルギーで行った。*:P<0.05:食事からのマグネシウム摂取量が一番少ない群(Q1:下位20%の群)と比較

ミネラルを調整してもマグネシウム摂取の多いグループで虚血性心疾患のリスクが低下

 マグネシウムを食事から多く摂取する人では、他のミネラル(ナトリウム、カルシウム、カリウム)の摂取量も多くなっており、今回認められた食事からのマグネシウム摂取量と虚血性心疾患や全循環器疾患発症との関係は、これら他のミネラルの摂取による好ましい影響を受けているかもしれません。そこで、ナトリウム、カルシウム、カリウムの摂取量を統計学的に調整した分析を実施しましたが、男性では結果は大きく変わりませんでした。女性では、摂取量が一番少ない群(Q1)に比べ、摂取量が中間の群(Q3:40~59%)でのみ統計学的有意な差が認められ、虚血性心疾患の発症リスクが39%低いという結果になり、関連が弱まりました(図3)。

調整変数は、年齢、地域、喫煙、飲酒歴、body mass index、糖尿病の既往、高血圧治療および脂質異常症治療の有無、習慣的な運動、魚・野菜・果物の摂取、食事エネルギー、ミネラル(ナトリウム、カルシウム、カリウム)で行った。*:P<0.05:食事からのマグネシウム摂取量が一番少ない群(Q1:下位20%の群)と比較

さらなる研究結果の蓄積が必要

 これまで、主に欧米で行われた先行研究の中には、本研究と同様、マグネシウム摂取により虚血性心疾患の発症リスクが低下するという報告はいくつかありますが、複数の研究結果を統合したメタ解析ではマグネシウム摂取と脳卒中、虚血性心疾患との関連はみられないと報告されています。今回の研究は、食事からのマグネシウム摂取と循環器疾患の発症リスクを調べた、アジア人における初めての研究です。マグネシウムは魚、果物、野菜、大豆に多く含まれ、これらの食品(食品目)を多く摂取することで、循環器疾患の予防が期待されます。実際、多目的コホート研究の先行研究では、魚、野菜・果物、大豆製品摂取による、循環器疾患の発症リスクの低下が報告されています。
 魚:http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/279.html
 野菜・果物:http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/307.html
 大豆製品:http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/308.html

 先行研究では、マグネシウム欠乏症が重篤で致死性の虚血性心疾患を引き起こすことが報告されています。マグネシウムの欠乏は、血圧上昇、血糖代謝低下、動脈硬化促進、脂質代謝異常など、虚血性心疾患の原因となる複数の要素と関連します。一方、動物実験では、高マグネシウム食を与えると血中の血糖値と脂質値が下がることも報告されています。これらのことがマグネシウム摂取の循環器疾患発症に対する予防効果として考えられます。
 今回の研究は、食事調査からマグネシウム摂取量を推計して、マグネシウム摂取量と循環器疾患との関連を解析しました。本研究では、追跡期間中のマグネシウム摂取量の変化や他の生活習慣の変化を考慮に入れていません。また、約1割の方がサプリメント(ビタミン剤)を使用しており、サプリメントを使用していない方に限って解析してもほぼ同様の結果でしたが、サプリメントからのマグネシウム摂取量は考慮できていないので、関連は明らかではありません。今後は、他のコホート研究や介入研究などで、マグネシウムを摂取することにより、虚血性心疾患のリスクが低くなるかどうか、さらなる検証が期待されます。

多目的コホート研究の結果について

 多目的コホート研究は、日本で実施された最も長期的で大規模な観察型の研究の一つです。疫学研究の中ではより信頼性の高い方法で行われ、あるテーマについての結論を導くための科学的根拠の一つとして参考になると考えられます。しかし、まず、観察型の研究の限界として、結果を見えにくくするさまざまな要因(偶然、偏り、交絡)をすっきりと排除することができないという問題があります。

 多目的コホート研究の結果が他のコホート研究と結果が一致しないこともありますし、観察期間や対象の取り方によって結果が変わってしまう可能性もあります。また、ある結果が観察されたということは、逆にその結果の実現によって目的が達成できることと同じではありません。その確認には、研究を介入型の試験という次の段階に進める必要があります。

 また、あくまで一つの基礎的な医学論文による報告であり、そのまま広く応用できるという段階のものではありません。応用のためには、さらに、いくつかの科学的根拠を総合的に評価した上で作成された指針(ガイドライン)を参考に、性別、年齢、ライフステージなどそれぞれの背景に応じて、健康に良い面と悪い面のバランスを考えた上で、生活に取り入れるというステップが必要です。詳しくは、次のホームページをご覧ください。

国立がん研究センターによる「多目的コホート研究」HPより
http://epi.ncc.go.jp/jphc/

発表論文

雑誌名: Clinical Nutrition
タイトル: Dietary magnesium intake and risk of incident coronary heart disease in men:
A prospective cohort study
著者: Yoshihiro Kokubo, Isao Saito, Hiroyasu Iso, Kazumasa Yamagishi, Hiroshi
Yatsuya,Junko Ishihara, Koutatsu Maruyama, Manami Inoue, Norie Sawada,
Shoichiro Tsugane for the JPHC Study Group
DOI: https://doi.org/10.1016/j.clnu.2017.08.006

研究費

国立がん研究センター研究開発費(29-A-4)
多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(多目的コホート研究)

最終更新日 2017年09月08日

最終更新日:2021年09月26日

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