国立循環器病研究センター

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広報活動

心臓サルコイドーシスにおける新たな病理組織補助診断法を発見

2016年11月21日

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)心臓血管内科部門の永井利幸医師、安斉俊久部長、臨床病理科の池田善彦医長、植田初江部長、北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学分野(北海道札幌市)の合同研究チームは、非虚血性心筋症の心筋組織に浸潤する免疫担当細胞の種類や性質に着目することにより、心臓サルコイドーシスの新たな病理組織補助診断法を発見しました。本研究の成果は米国心臓協会の科学誌「Journal of American Heart Association」のオンライン版に平成28年11月17日に掲載されました。

研究の背景

サルコイドーシスは肺、リンパ節、皮膚、眼、心臓、筋肉など全身諸臓器に肉芽腫(慢性的な炎症刺激によって生じるこぶ状の病変)が形成される疾患であり、発症の一因として細菌など何らかの抗原に免疫が過剰反応することが報告されています。特に心臓病変(心臓サルコイドーシス)の有無が生命予後を左右するため、心臓病変の早期かつ正確な診断と免疫抑制療法による治療介入が求められています。
心臓サルコイドーシスの診断は心筋組織からサルコイド肉芽腫を証明することが最善の方法ですが、この手法による診断率は心臓サルコイドーシス症例のわずか2,3割程度と報告されています。そのため、厚生労働省や米国不整脈学会の診断基準では、心筋組織からサルコイド肉芽腫を証明できなくとも診断可能としておりますが、一方で診断精度の低さも指摘されています。

研究手法と成果

永井医師らは、国循および北海道大学に入院し、心臓サルコイドーシスの確定診断が得られた95症例と他の非虚血性心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、高血圧性心筋症など)50症例の心筋組織検体について免疫組織学的染色による解析を行いました。
まず、心臓サルコイド肉芽腫の病理組織の特徴を調べたところ、炎症細胞であるT細胞の他に、体内の異物を取り込みリンパ節に移動してT細胞に抗原の情報を伝達する免疫細胞(抗原提示細胞)である樹状細胞が多数浸潤していることが示されました。同じく抗原提示細胞であるマクロファージも多数浸潤を認めるものの、抗炎症性のM2マクロファージの浸潤はきわめて軽微であることが示されました(図1)。つまり、浸潤したマクロファージの多くが炎症性のM1マクロファージであるということになります。次に、心臓サルコイドーシス症例において、サルコイド肉芽腫を認めない心筋切片の特徴を調べてみると、心臓サルコイドーシス以外の非虚血性心筋症と比較して樹状細胞とM1マクロファージが多数浸潤している特徴が認められました(図2)。これは図1で認められたサルコイド肉芽腫周辺の炎症細胞浸潤の特徴と類似しています。この結果を診断に応用すると、組織学的診断を含めたいずれの診断基準においても、非虚血性心筋症症例から極めて高い確率で心臓サルコイドーシス症例を鑑別できる可能性が示唆されました。

今後の展望・課題

診断精度の妥当性検証や慢性心筋炎との鑑別など課題は残っていますが、本研究の結果から、非虚血性心筋症の鑑別診断において、心筋生検によって得られた心筋組織にサルコイド肉芽腫を認めなかった場合でも、心筋組織に樹状細胞やM1マクロファージの浸潤が多数認められる場合は、たとえ現行の診断基準を満たさない場合においても、心臓サルコイドーシスを疑い、慎重な経過観察そして診断確定のための検査(画像診断、心筋生検など)を繰り返し行う必要があると考えられます(図3)

【図1】
心臓サルコイド肉芽腫における各種免疫細胞
心臓サルコイド肉芽腫にはT細胞の他に樹状細胞が多数浸潤していることが示された。マクロファージも多数浸潤を認めるものの、M2マクロファージ(抗炎症性)の浸潤はきわめて軽微で、浸潤したマクロファージの多くがM1マクロファージ(炎症性)である。

【図2】
サルコイド肉芽腫を
サルコイド肉芽腫を
サルコイド肉芽腫を
他の非虚血性心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症、高血圧性心筋症など)と比較して、心臓サルコイドーシス症例の"サルコイド肉芽腫陰性"心筋組織切片においても、心臓サルコイド肉芽腫と同様に樹状細胞やマクロファージが多数浸潤している。さらに、浸潤したマクロファージの多くがM1マクロファージで、M2マクロファージの浸潤は軽度であった。
GR:サルコイド肉芽腫、CS:心臓サルコイドーシス、JMHW:厚労省診断基準、HRS:米国不整脈学会診断基準

【図3】
心筋生検によりサルコイド肉芽腫が証明されなかったとしても・・・
これらの結果から、非虚血性心筋症の鑑別診断において、心筋生検によって得られた心筋組織にサルコイド肉芽腫を認めなかった場合でも、樹状細胞やM1マクロファージ(炎症性)の浸潤が多数認められる場合は、たとえ現行の診断基準を満たさない場合においても、心臓サルコイドーシスを疑い、慎重な経過観察そして診断確定のための検査(画像診断など)を繰り返す必要があると考えられる。

最終更新日 2016年11月21日

最終更新日:2021年09月26日

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