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心磁図検査によって検出される左室局所伝導異常が
拡張型心筋症患者の予後予測に有効と判明

心磁図検査によって検出される左室局所伝導異常が
拡張型心筋症患者の予後予測に有効と判明

平成28年11月17日

国立循環器病研究センター(略称:国循)病院心臓血管内科(部門長 安田聡)の不整脈科(部長 草野研吾)と研究所循環動態制御部(部長 杉町勝)の共同研究チームは、心磁図検査(注1)拡張型心筋症(注2)における予後予測に有効であると明らかにしました。本研究成果は、英文医学雑誌「Circulation Journal」に2016年11月17日(日本時間)に掲載されました。

背景

拡張型心筋症(注2)は心不全や突然死、心室性不整脈などを発生させやすい、予後不良疾患として知られています。拡張型心筋症患者の心筋には線維化(注3)が生じており、心筋の発する電気信号に異常を生じさせることがわかっています。この局所的な電気信号の異常により、心機能が低下し心不全を発症したり心室性不整脈を誘発したりします。電気信号の異常を正確に検出できれば予後不良となるリスクが高い患者を見分けることができると考えられていますが、一般的な12誘導心電図検査(注4)加算平均心電図検査(注5)による予後予測の精度は十分ではありませんでした。
一方、心磁図検査は心臓の電気信号の伝達を詳細に評価できることから、心筋症の予後不良因子となる電気信号の異常を検出できる可能性があり、心磁図検査の臨床的意義の確立が期待されていました。そこで、共同研究チームは心磁図検査から検出される心室内の電気信号異常が拡張型心筋症患者の予後予測に有効かどうかを検証しました。

研究手法と成果

共同研究チームは、左室機能が低く心電図検査でQRS幅(注6)に明らかな伝導遅延が認められない拡張型心筋症患者51例に対し、64チャンネル心磁計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、図1)で測定しました。測定した心磁波形をもとに、株式会社日立製作所が開発した電流分布画像化技術を用いて電気信号の伝播を観察しました。その結果、正常な左室の電気信号は時計回りに一定の強さで伝達している(図2A)が、拡張型心筋症患者の場合は左室の電気信号が不規則に伝達されていることがある(図2B)とわかりました。

次に、電気信号異常のある患者群(電気信号が不規則に伝達されている患者群:22例)と異常のない患者群(電気信号が時計回りに一定の強さで伝達されている群:29例)に分けて平均2.9年追跡し、心イベント(心臓死・心室性不整脈・左室人工心臓植込術移行)の発生頻度を比較しました(図3)。その結果、電気信号異常がある患者群の心イベント発生率は59%(13例)、異常がない患者群の心イベント発生率は10%(3例)となり、左室の電気信号が不規則に伝達される異常興奮があると明らかに予後不良となると判明しました。

さらに、今回の心磁図検査で検出された異常と、従来予後予測に使用してきた心電図検査や血液検査、画像検査所見の各指標を解析し検討した結果、心磁図検査により一定の精度で予後予測が可能であるとわかりました。

以上の結果から、心電図に異常のない拡張型心筋症患者において、心磁図検査で検出された左室の電気信号異常は心イベントの予測指標として有用であると示唆されました。本成果は株式会社日立製作所研究開発グループとの共同研究の成果の一部です。

今後の展望・課題

非侵襲的に心臓の電気信号を評価可能な心磁図検査は、予後不良のリスクを明らかにするだけでなく、カテーテル治療や心臓再同期療法(注7)などの治療の際にも有益な情報を検出できる可能性があります。今後は、拡張型心筋症に限らず様々な心疾患や生活習慣病の症例に使用することで、電気生理学的な病態解明が進むことも期待されます。



<注釈>

(注1)心磁図検査

心臓の磁気の流れから電気信号の伝達を画像として表示できる検査方法。心臓の各部分における電気活動が天気図のように画像化できるため、不整脈を中心とした心臓病の診断が可能になる。特に不整脈については発生場所や重症度を事前に正確に特定でき、また電気信号の伝達に異常を来す冠動脈疾患においても初期段階から病変部分や程度がわかる。
心磁図検査は先進的診断法として循環器診療に大きく貢献できると考えられ、国循では世界に先駆けて2007年より保険適用の検査として通常診療に導入された。

(注2)拡張型心筋症

左室の収縮力が弱くなることで左室が大きくなる(拡大)疾患。適切な薬物療法で改善することもあるが予後は悪く、進行すると補助人工心臓の装着や心臓移植が必要になる。

(注3)線維化

内臓などを構成する結合組織が異常増殖する現象。心筋に線維化が生じると心臓に異常が起き、呼吸困難や動悸などの症状が出る。

(注4)12誘導心電図検査

四肢と胸部に電極を装着し、12の方向の電流を計測する(一般的な)心電図検査。

(注5)加算平均心電図検査

通常の心電図検査では記録できない微細な電気信号を記録する検査。重症心室性不整脈の発生予測に非常に有用である。

(注6)QRS波

心電図における心室脱分極(心室の興奮)を反映する波形(心電図の上方向の波形)を指す。心筋症患者は心筋線維化が進行すると伝導障害を生じるため、心室の脱分極時間が延長することが知られており、QRS幅の拡大は心筋症の予後不良を示す所見の一つである。

(注7)心臓再同期療法(心室ペーシング療法)

心臓内の収縮タイミングのずれをペースメーカ等で補正することで、正常に近いポンプ機能を取り戻す治療法。

(図1)心磁図検査

心臓の磁気を測定する検査であり、地球の磁気の影響を受けない専用の部屋で検査・記録をする。ベッド上で身体の向きを変えるだけで検査が可能だが、金属を装着した場合や、ペースメーカやICD等の植込を行っている場合は検査を受けることはできない。

心磁図検査

(図2)心磁図検査の結果

図2A:
左室の電気信号伝達に異常がない拡張型心筋症患者の信号の伝わり方。時計回りに一定の強さで電気信号が伝わっている。

図2B:
左室の電気信号伝達異常があるため、電気信号は分裂しながら伝達する。

心磁図検査の結果

(図3)心磁図検査の結果と予後

心磁図検査で異常が認められなかった場合の心イベント発生は3年で約10%、5年後でも20%に満たない。一方異常があった場合の心イベント発生は3年で50%以上で、5年経過後に心イベントを回避できた患者は20%に満たない。

心磁図検査の結果と予後
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