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世界最小径の人工血管開発に成功~生体内組織形成術を用いた人工血管~

平成27年11月2日

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)生体医工学部の中山泰秀医工学材料研究室長、石井大造研究員らの研究チームは、生体内組織形成術(IBTA)を用いて、口径1mm以下の世界最小径人工血管の開発に成功し、それをラット体内に移植後も6ヶ月間開存したことを確認しました。今回の研究経過に関しては11月に米国オーランドで開催されるAHA(アメリカ心臓学会議、現地8日News Release予定)や日本人工臓器学会大会、マイクロサージェリー学会にて発表されます。


■研究の背景
 体の血管が破れたり詰まったりした場合には、その血管をポリエステル製やテフロン製などの人工管で置き換える治療(人工血管移植)が一般に行われています。現在臨床で用いることができる人工血管は口径5 mm程度以上の大きなものしかなく、細い人工血管の開発が臨床現場で望まれています。しかし、人工血管内で起こる血液凝固により、細い人工血管は詰まりやすいという難点があります。そこで臨床では患者自身の正常な部位の血管が切り取られて使用されています。研究としては口径数mm程度の細い人工血管が報告されていますが、1mm以下になると作製すら非常に困難であることなどからほとんど開発は行われていません。


■「生体内組織形成術」という手法と成果
 人工物で出来た人工血管は表面で血液が固まってしまうことが多く、より生体適合性を持たせるために患者自身の組織で人工血管を作る再生医療が活発に開発されています。通常の方法では、細胞を培養して管の形を作っていきますが、長い期間と高いコストがかかります。
 一方、患者自身の体内にて培養を行うことにより、体外での細胞培養は不要となり、患者自身の組織のみから移植用の組織体を作製できる、「生体内組織形成術」という新発想の再生医療技術が国立循環器病研究センターで開発されています。
 「生体内組織形成術」とは、体内に異物が埋め込まれた時に、その表面をコラーゲンのカプセルが覆う、「カプセル化」反応を利用しています。アコヤ貝に核を入れると真珠ができあがる反応と似ています。これまで心臓の弁(バイオバルブ)など比較的大きな組織を作製することに成功し、非臨床試験にて機能を確かめてきました。今回は、ステンレス棒をシリコーンで被覆した基材をラットの皮下に埋め込み、2ヶ月後に鋳型を取り出すことによって、シリコーンの周りにコラーゲンのチューブ(バイオチューブ)を作製することに成功しました。これをラットの大腿動脈に移植すると血液が固まることなく流れ続けました。当初は皮膚のコラーゲンだけの組織だったものが、移植して1ヶ月後には生体の血管と同じ構造に置き換わって再生していました。MRIでの経過観察検査で6ヶ月(2例)、3ヶ月(8例)の間、全く詰まらず(開存率100%)に血流を維持していることが確認されました。口径わずか0.6mmの世界最小径の人工血管(マイクロバイオチューブ)の開発に成功しました。


■今後の展望
 移植治療に使用できる、ほぼ極限の細さの人工血管を開発することができました。1mm以下の人工血管が高い開存性と生着性を示すことができたことで、バイオチューブ人工血管の高い信頼性を獲得することができました。形成外科での修復術や、脳外科や心臓外科でのバイパス術などこれまで人工物では不可能であった治療を可能にすることが期待されます。


■本研究への支援
 この研究は、厚生労働科学研究費 早期探索的臨床拠点整備事業(Mediciプロジェクト)の支援を受けて行われております。


◇参考資料◇
口径0.6mmの人工血管

1-1)シリコーン(外径0.6mm、長さ2cm)で覆った複数のステンレス棒をプラスチックで固定したマイクロバイオチューブ大量作製用基材(鋳型)

1-2)これをラット体内に埋め込むことで、鋳型が自身のコラーゲンの膜で完全に覆われた。

1-3)基材を切り離して、ステンレス棒を抜き取ることで、マイクロバイオチューブが得られた。

1-4)移植前のバイオチューブの内径を光干渉断層計(Optical Coherence Tomography)を用いて測定したところ、平均0.55mmであった。

最終更新日 2015年11月02日

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