国立循環器病研究センター

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広報活動

心臓突然死の原因の一つである先天性QT延長症候群における遺伝子検査の有用性を報告

2019年2月14日
学校法人 日本医科大学
国立循環器病研究センター

日本医科大学(東京都文京区、学長:弦間昭彦)の清水 渉大学院教授、国立循環器病研究センター(理事長:小川久雄)の相庭武司特任部長らの多施設共同研究グループは、我が国における先天性QT延長症候群の突然死や致死性不整脈イベント発生に、原因遺伝子の種類だけでなく、個々の患者の変異部位や年齢、性別が深く関係することを世界で初めて報告しました。

先天性QT症候群は、若年者から青壮年者が運動中や強いストレスなどで突然死する遺伝性疾患です。突然死の多くは薬物治療や植込み型除細動器(ICD)の植込みにより回避できますが、本研究結果から、遺伝子検査によって個々の患者に最適な治療方針を決定することができると期待されます。

なお、本研究は、米国医師会雑誌『JAMA Cardiology』のオンライン版に2019年2月13日に掲載されました。

【注釈】

(注1)先天性QT延長症候群
心電図のQT時間が延長する特徴的な波形を示す疾患。多くの場合は無症状だが、若年から青壮年で運動中や強いストレスなどで致死性不整脈である心室頻拍・心室細動を起こして突然死することがある。全人口の0.05~0.1%の割合で発症し、男女差はない。
先天性QT延長症候群のうち、遺伝子異常を認めるのは全体の75%で、心筋イオンチャネルに関連する複数の原因遺伝子が報告されている。

研究の背景

先天性QT延長症候群は、心電図でQT時間の延長(図1)という特徴的な波形を示す疾患で、運動中や強いストレスなどで致死性不整脈である心室頻拍・心室細動を発症し突然死の原因となります。75%の患者で、心筋イオンチャネルに関連する遺伝子の異常を認め、そのほとんどがLQT1型、LQT2型、LQT3型のいずれの遺伝子型になります。しかし、日本人の先天性QT延長症候群症例において、遺伝子型や年齢・性別が将来の致死性不整脈イベントの発症にどのような影響を与えるかは十分には検討されていませんでした。

図1 心電図のQT時間延長と多形性心室頻拍

研究手法と成果

今回の研究は、2006年から厚生労働省「厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)(代表 清水 渉))」による支援を受け、日本国内の11施設において1124例の先天性QT延長症候群患者(LQT1型521例、LQT2型487例、LQT3型116例)を対象に、遺伝子型および年齢・性別により致死性不整脈の発症に差異がみられるか後向きに長期追跡調査しました。

  1. 遺伝子型別では、総イベント発生率はLQT1、2型に比べLQT3型で少ないが、致死性イベント(心室細動・心停止・突然死)の発生率には遺伝子型による差は認めず、総イベントに対する致死性イベントの占める割合はむしろLQT3型で高かった。(図2
  2. 15歳未満では、各遺伝子型とも心イベント率に性差はなかったが、15歳以上ではLQT1型とLQT2型で女性が男性より心イベント率が高かった。(図3
  3. LQT1型の男性では変異部位による心イベント発生率に違いがないが、女性では膜貫通領域が他の部位の変異よりも心イベント発生が高かった。(図4
  4. LQT2型とLQT3型では、性別に関係なくポア(S5-pore-S6)領域()の変異の心イベント発生率が他の変異に比べに高かったが、LQT2型の女性では非ポア領域でも高い心イベント発生率を認めた(図5

図2 遺伝子型と心イベントの初発年齢
A: 失神/致死性イベント(心室細動・心停止・突然死)
B: 致死性イベントのみ


図3 遺伝子型別の年齢と性別による失神/致死性イベント
A: LQT1型の性別によるイベント
B: LQT2型の性別によるイベント
C: LQT3型の性別によるイベント
D: LQT1型の15歳未満と15歳以上のイベント発生率
E: LQT2型の15歳未満と15歳以上のイベント発生率
F: LQT3型の15歳未満と15歳以上のイベント発生率


図4:遺伝子型別の変異部位と性別による失神/致死性イベント
A: LQT1型男性の変異部位別のイベント
B: LQT1型女性の変異部位別のイベント
C: LQT2型男性の変異部位別のイベント
D: LQT2型女性の変異部位別のイベント
E: LQT3型男性の変異部位別イベント
F: LQT3型女性の変異部位別イベント


(脚注)電位依存性イオンチャネルの基本構造
S1-S6の6回膜貫領域を基本構造として、4回リピートし中心にイオン透過路を構成する。4つの電位センサードメインはポアドメインの外側に配置する。S5-pore-S6部分の変異はチャネルのポア(孔)領域の構造・機能に直接影響すると考えられる。


本研究の意義

本研究により、日本人の先天性QT延長症候群において致死性不整脈イベントを予測するために、遺伝子診断によるLQT1型、LQT2型、LQT3型の遺伝子型だけでなく、年齢や性別を考慮することの重要性が明らかとなりました。本研究は、日本人の先天性QT延長症候群において、社会的損失が大きい若年から青壮年の突然死を予防するICDを植え込むべき症例を検討する際の有用なエビデンスを示しました。

論文情報

<タイトル>
Association of Genetic and Clinical Aspects of Congenital Long QT Syndrome With Life-Threatening Arrhythmias in Japanese Patients.

<著者名>
Shimizu W, Makimoto H, Yamagata K, Kamakura T, Wada M, Miyamoto K, Inoue-Yamada Y, Okamura H, Ishibashi K, Noda T, Nagase S, Miyazaki A, Sakaguchi H, Shiraishi I, Makiyama T, Ohno S, Ito H, Watanabe H, Hayashi K, Yamagishi M, Morita H, Yoshinaga M, Aizawa Y, Kusano K, Miyamoto Y, Kamakura S, Yasuda S, Ogawa H, Tanaka T, Sumitomo N, Hagiwara N, Fukuda K, Ogawa S, Aizawa Y, Makita N, Ohe T, Horie M, Aiba T.

<雑誌>
JAMA Cardiol 2019. (in press).

最終更新日 2019年02月14日

最終更新日:2021年09月26日

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