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日本人の脳梗塞の強力な感受性遺伝子が明らかに

平成31年1月8日
国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)脳神経内科の猪原匡史部長、岡崎周平医長(現・大阪大学神経内科)を中心とする国循の研究グループは、京都大学環境衛生学小泉昭夫名誉教授、理化学研究所生命医科学研究センター統計解析研究チームの鎌谷洋一郎チームリーダー(京都大学大学院医学研究科 京都大学・マギル大学ゲノム医学国際連携専攻准教授兼務)、久保充明元副センター長、京都大学大学院医学研究科脳神経外科の森本貴昭医師、九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、秦淳准教授、同大学院医学研究院病態機能内科学(第二内科)の吾郷哲朗准教授らと共同で、日本人の脳梗塞の強力な感受性遺伝子(注1)を明らかにしました。本研究成果は2019年1月8日付午後14時(米国標準時間)に米国心臓病学会の専門誌「Circulation」オンライン版に掲載予定です。

背景

脳卒中の死亡者は年間11万人にのぼり、その7-8割を占めている脳梗塞は寝たきりや認知症の主要因で、直接の医療コストは年間 1兆円を超えています。脳梗塞はさらに、脳の比較的太い血管の動脈硬化を主因としたアテローム血栓性脳梗塞、脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞、心臓内でできた血栓が心臓を飛び出し脳の大血管を詰まらせる心原性脳塞栓などに分類されます。一般にアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞には高血圧や糖尿病などの生活習慣病が、心原性脳塞栓には不整脈などが関係すると考えられています。しかし、我が国では欧米諸国と比べて脳梗塞の発症頻度が特に高いことが知られており、欧米人とは異なる遺伝的要因の存在が疑われていました。

研究手法と成果

猪原部長らの研究チームは、もやもや病(注2)の発症に関係すると報告されているRNF213 p.R4810K多型(RNF213という遺伝子がコードするタンパク質の4810番目のアルギニンがリジンに変わる多型、以下「本多型」)に着目しました。京都大学・小泉グループとの共同研究で、RNF213遺伝子改変動物が脳梗塞を起こしやすいことを先に明らかにしていたためです。さらに、過去の研究成果から、本多型は収縮期血圧を上昇させることや心筋梗塞とも関係があることなど、これまで孤発性(遺伝的要素は関係なく発症する)で生活習慣病が原因と考えられていた循環器病の一部の感受性遺伝子であることが明らかになっていました。本研究で日本人46,958名(脳梗塞17,752名、対照29,206名)を対象に調べたところ、日本人の脳梗塞のうちアテローム血栓性脳梗塞のオッズ比(注3)を3.58に高めることが明らかになりました。すなわち、本多型は稀少疾患のもやもや病に限らず、頻度の高い病気(コモンディジーズ)であるアテローム血栓性脳梗塞の強力な感受性遺伝子であることが分かりました()。さらに、本多型保有者は、女性で発症リスクがより高く(オッズ比:男性1.50、女性2.69)、非保有者より発症が4歳以上若いことも明らかとなりました。一方、 INTERSTROKE研究(注4)に登録された欧州人(脳梗塞826名、対照863名)には本多型は観察されず、日本人を含む東アジア固有の脳梗塞亜型であると考えられ、脳梗塞の人種差を説明する新知見であると考えられました。

今後の展望・課題

本多型は、わが国の人口の2-3%(国内300万人前後)が保有していると考えられています。今回の研究成果で、その大部分が孤発性と考えられている循環器疾患の重要な感受性遺伝子が明らかとなったと言えます。今後わが国における脳梗塞を含む循環器疾患の先制医療につながる継続した研究開発が期待されます。


<注釈>

(注1)感受性遺伝子
単一遺伝子病の原因遺伝子のように遺伝子に変異があると必ず発症するというものではなく、変異があると発症しやすくなったり、逆に発症しにくくなったりする遺伝子のことを言う。疾患感受性遺伝子ともいう。特定の変異が集団内で1%以上の頻度で見られる場合に、特に「多型」と呼ぶ。そのため、日本人の2-3%に見られるRNF213 p.R4810Kは多型と呼ばれる。

(注2)もやもや病
内頸動脈終末部の狭窄とその周辺で形成される異常な血管網を特徴とする疾患である。白人やアフリカ人では少なく、東アジアの日本、韓国および中国で頻度が高い。約1万人に1名の頻度の稀少疾患だが、女性に多く、脳出血や脳梗塞として発症することで知られる。この疾患は1957年に東京大学グループによって、内頸動脈に閉塞を認める疾患として初めて報告された。1968年には慶応大学グループが内頸動脈閉塞を病理学的に証明した。「もやもや病」という特徴的な病名は東北大学グループによる命名で、血管造影によって見える異常血管網がタバコの煙のもやもやとたちのぼる様子に似ていることからきている。1969年に初めて「Moyamoya disease」が論文で用いられ、世界中で使われている。京都大学および国循のグループが1978年に開発した外科的療法が現在も有効な治療として確立されている。本疾患は、発見から治療まで日本人によってなされてきた。

(注3)オッズ比
ある疾患などへのかかりやすさを検討したい群と対照群の2つの群で比較して示す統計学的な尺度。オッズ比が1の場合はある疾患へのかかりやすさが両群で同じということ、1より大きい場合は疾患へのかかりやすさが検討したい群でより高いことを意味する。

(注4)INTERSTROKE研究
低~中所得国を含めた世界32か国の脳卒中26,000例以上を対象に、食事内容や生活習慣を世界各国で詳細に聞き取って危険因子をさぐり、それらの因子と脳卒中との関係および寄与度を地域別、人種・性別、脳卒中病型別に検討した研究。この研究を主導したO'Donnell博士は本研究の共同研究者でもある。

<図表>

(図)RNF213 p.R4810K多型の有無による虚血性脳卒中のオッズ比
日本人46,958名(脳梗塞17,752名、対照29,206名)を対象に、本多型の有無による脳梗塞のなりやすさを調べたところ、虚血性脳梗塞のかかりやすさは1.91倍、アテローム血栓性脳梗塞のかかりやすさは3.58倍となった。一方でラクナ梗塞や心原性脳塞栓には有意に関連しておらず、この遺伝子は脳の比較的太い血管に直接影響を及ぼすと予想される。

最終更新日 2019年01月08日

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