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日本人糖尿病患者における低用量アスピリン療法の癌抑制効果について発表

平成30年6月17日
奈良県立医科大学
国立循環器病研究センター
兵庫医科大学
熊本大学

概要

糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患だけでなく各種の癌を増加させることが報告されています。低用量アスピリン療法は従来心血管疾患予防のために使用されてきましたが、最近では大腸癌などの予防効果についても注目されています。

奈良県立医科大学 斎藤能彦教授らの研究グループは、糖尿病患者において低用量アスピリン療法が発癌抑制効果を有しているかを検証するために、日本人2型糖尿病患者2,536名を対象としたJPAD2研究を用いた解析を行いました。10年間の追跡調査の結果、低用量アスピリン療法は癌の発症を減らしませんでしたが、65歳未満に限定した対象者において癌の発症が少なくなる可能性を示しました。この内容は米国糖尿病学会誌「Diabetes Care」に掲載が予定*されています。
*掲載予定日時は日本時間2018年6月17日午前3時になります。

研究の背景と目的

近年、糖尿病と癌の関連が注目されています。糖尿病患者は一般の方に比べて癌の発症頻度が高くなることが報告されており、癌は日本人糖尿病患者の死因の第1位になっています。また、低用量アスピリンは従来心血管疾患予防のために使用される薬剤ですが、近年は大腸癌などの発癌予防効果についても報告されています。しかしながら、これらの研究報告の多くは海外で実施されており、日本人とは人種や生活習慣が異なるなかで癌の発症頻度も異なるため、日本人糖尿病患者においてそのまま適応することは難しいと考えられました。

奈良県立医科大学 斎藤能彦教授、国立循環器病研究センター 小川久雄理事長、兵庫医科大学 森本剛教授、熊本大学 副島弘文准教授らは、日本全国163施設の実地医家の先生方と協力して、2002年から「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する臨床研究(JPAD研究)を開始しました。JPAD研究の結果は2008年に米国医学会誌「JAMA」に報告しました(JAMA. 2008; 300: 2134-2141)。本研究は2008年以降も観察研究として追跡調査を継続し、2016年には10年間の低用量アスピリン療法の心血管疾患予防効果に関する研究報告(JPAD2研究)を行いました(Circulation. 2017; 135: 659-670)。また、JPAD2研究では研究期間中に発症した癌についても調査を行ってきました。この度、斎藤教授らの研究グループはJPAD2研究に参加した日本人2型糖尿病患者2,536名を対象に、低用量アスピリン療法の発癌抑制効果を検証する目的で研究を行いました。

研究の成果

10.7年間の追跡調査において、研究参加者のうち318人に癌の発症を認めました。内訳は低用量アスピリン療法群で149人、非投与群169人で、低用量アスピリン療法による発癌抑制効果は認められませんでした(ハザード比[HR]: 0.92、95%信頼区間[CI]: 0.73-1.14、図1) 。癌の発症は加齢とともに増加することが知られていることから、研究開始時の年齢を元に65歳以上、65歳未満に分けて解析を行うと、65歳以上の対象者においては低用量アスピリン療法の発癌抑制効果は認められませんでしたが(HR: 0.98、 95%CI: 0.75-1.28)、65歳未満の対象者において癌の発症が少なくなる可能性を示しました(HR: 0.67、95%CI: 0.44-0.99、図2)。この結果は、性別や血糖コントロール(HbA1c)、喫煙歴、メトホルミンやスタチンの服用で調整した解析においても同様でした。

図1

図2

研究結果の意義

本研究では日本人2型糖尿病において低用量アスピリン療法の発癌抑制効果は示せませんでしたが、対象を65歳未満に限定すると癌を抑制する可能性を示しました。癌のハイリスク集団である日本人糖尿病患者において低用量アスピリン療法が有効な選択肢となりうるか、今後の研究が期待されます。

論文情報

掲載誌 Diabetes Care誌
論文タイトル Effect of Aspirin on Cancer Chemoprevention in Japanese Patients With Type 2 Diabetes: 10-year Observational Follow-up of a Randomized Controlled Trial
(日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の癌抑制効果: 無作為比較対照試験の10年追跡調査から)
論文著者 岡田定規1、2、森本剛3、小川久雄4、作間未織3、松本知沙3、副島弘文5、中山雅文6、 土肥直文7、陣内秀昭8、脇昌子9、桝田出10、斎藤能彦2
著者所属 1: 奈良県立医科大学 糖尿病学講座
2: 奈良県立医科大学 循環器内科学
3: 兵庫医科大学 臨床疫学
4: 国立循環器病研究センター
5: 熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学 / 同 保健センター
6: 中山内科・循環器内科クリニック
7: 奈良県西和医療センター 循環器内科
8: 陣内病院糖尿病センター
9: 静岡市立静岡病院 内分泌・代謝内科
10: 武田病院 健診センター

論文内容に関する問い合わせ先

斎藤 能彦
奈良県立医科大学 循環器内科学 教授
Tel: 0744-22-3051 Fax: 0744-22-9726 
E-mail:

岡田 定規
奈良県立医科大学 糖尿病学講座 助教
E-mail:

森本 剛
兵庫医科大学 臨床疫学 教授

副島 弘文
熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学 / 同 保健センター 准教授

小川 久雄
国立循環器病研究センター 理事長

最終更新日 2018年06月17日

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