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生来健康な乳児に突然の呼吸循環不全を引き起こす新たな症候群「乳児特発性僧帽弁腱索断裂」の全国調査結果について

平成26年9月19日

厚生労働省研究班「乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究」(班長:国立循環器病研究センター小児循環器・周産期部門長 白石 公医師)の研究チームは、生来健康である乳児が数日の感冒様症状に引き続いて突然の呼吸循環不全に陥る症候群、「乳児特発性僧帽弁腱索断裂」の全国調査結果から、その臨床症状、検査所見、行われた外科手術の手法、病理組織所見、考えられる病因、合併症、予後について詳細に検討しました。その結果、患者の多くは日本人乳児で生後4-6ヶ月に集中すること、腱索が断裂する要因は単一でなく複数あること、救命には早期診断と適切な外科治療が必要であること、死亡率は8.4%であることなどが明らかになりました。本研究の成果は、米国の医学雑誌Circulationの電子版に平成26年9月23日(日本時間)に掲載される予定です。

本疾患は乳児に多く、報告例のほとんどが日本人であるという特徴があります。発症早期に的確に診断され、専門施設で適切な外科治療がなされないと、急性心不全により短期間に死亡することがあります。また救命されても機械弁置換術を余儀なくされたり、呼吸循環不全により神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたすことが多いのも特徴です。しかしながら本疾患の詳細は不明で、これまでに国内外の小児科の教科書に独立した疾患として記載されておらず、そのために多くの小児科医は本疾患の存在を認識していないのが現状でした。そこで本疾患の臨床症状を分析し、病因を解明するとともに適切な治療法を確立することが必要でした。

調査では、1995年から2013年までに全国で95例が報告され、男女比は52:43でやや男児に多く、1例を除く94例が1歳以下の乳児、中でも生後4-6ヶ月の乳児が81例と全体の85%を占めていました。発症は春から夏にかけて多い(66%)のが特徴でした。発症の引き金と考えられる前駆的な病変として、川崎病回復期10例、母親から移行した抗SSA抗2例、感染性心内膜炎が1例、などが認められました。
患者の多くは、2-3日の発熱、咳嗽、嘔吐などの感冒様の前駆症状に引き続いて、短時間に呼吸困難や顔面蒼白などのショック状態に陥ります。過去に心雑音の既往のない乳児に、新たな心雑音が聴取され急速に呼吸循環不全に陥った場合、本疾患を疑う必要があります。血液中の炎症反応を示すCRP値は高値をとりません(中央値1.63mg/dl)。急激に発症するため、胸部X線写真で心拡大が明らかでないことが多く、肺うっ血を肺炎と初期診断してしまう可能性があり注意が必要です。確定診断は、断層心エコーにより腱索の断裂と弁尖の逸脱、著しい僧帽弁逆流シグナルを証明することによりなされます。診断がつき次第、小児集中治療および小児心臓手術が可能な施設に速やかに搬送することが必要です。

調査結果が得られた95例のうち、外科手術は86例に実施され、52例で人工腱索を用いた僧帽弁腱索修復術が、26例で機械弁置換術が実施されました。死亡例は8例(8.4%)で、神経学的後遺症は10例(11%)に認められました。僧帽弁の病理組織学的検討は28例で実施され、18例(64%)で単核球を主体とする軽度の炎症細胞浸潤が、11例(39%)に僧帽弁の粘液様変性が、1例で明らかな好中球の浸潤が認められました。
以上より、本疾患の発症の要因として、川崎病(回復期)、母親から移行した抗SSA抗体、僧帽弁の粘液様変成、単核球を主体とする心内膜の炎症(ウイルス感染?)、細菌性心内膜炎などが考えられますが、その病因は複数(症候群)であり、僧帽弁腱索が断裂する直接のメカニズムは明らかではありません。

過去数年間の発症は年間10-20例ですが、速やかな診断と治療が行われなければ死に至る可能性のある疾患ですので、関係する小児科医が本疾患の特徴を認識する必要があります。研究班では、今後患者さんの発症があれば血液や僧帽弁組織を採取保存してウイルス分離やウイルス遺伝子などの研究を実施し、病因を明らかにするとともに病気の進展を阻止して予後を改善させる研究を継続する予定です。

本研究は、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)「乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明と治療法の確立に関する総合的研究」、および日本学術振興会科学研究費の支援により行われました。

※この報道資料は、大阪科学・大学記者クラブの皆様にお届けしています。

最終更新日 2014年10月08日

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