国立循環器病研究センター

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広報活動

長寿遺伝子サーチュインを働かせて認知症予防~動脈硬化による認知症の新たな治療法確立に寄与すると期待~

平成26年9月12日

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)の服部頼都再生医療部流動研究員、猪原匡史脳神経内科医長らの研究チームは、名古屋大学理学部・木下専教授(CREST)、京都大学医学部・福山秀直教授、高橋良輔教授(CREST)らの研究チームと共同で、長寿遺伝子産物として知られる脱アセチル化酵素「サーチュイン」(SIRT1)を脳で働かせることで、脳梗塞により引き起こされる認知症の発症を予防できることを明らかにしました。本研究の成果は、「Stroke」に平成26年9月11日付で掲載されます。

認知症患者数は現在国内で400万人を超え、その中で約3割を占めるとされる血管性認知症は、食生活の欧米化などによる高血圧や糖尿病などの蔓延を背景に、増加傾向にあります。血管性認知症の予防には、脳梗塞の予防などに使われる抗血栓薬(いわゆる「血液サラサラ薬」)が一定の効果を上げると考えられていますが、出血性の合併症がおこる可能性もあることから、副作用の少ない新たな治療法の開発が求められてきました。

研究グループは、長寿遺伝子サーチュインの働きを脳で2窶・倍程度に高めることで、脳卒中が原因となる認知症を予防できるのではないかと着想し、脳のサーチュイン量が通常の2-3倍になるように遺伝子操作したマウスを作成し、頸動脈を狭窄させる(細くする)手術を行って、マウスの認知機能の変化を観察しました。
その結果、普通のマウスでは両側の頸動脈を狭窄させることにより認知機能の障害(認知症)が起こりましたが、サーチュインが脳で働くように操作したマウス(CRESTの研究成果で得られたモデル動物)では認知機能が正常に保たれました。その原因を探るために脳血流を測定したところ、頸動脈を狭窄させたにもかかわらず、脳血流がほとんど減少しないことも分かりました。サーチュインが働くことで血管を拡張させる物質(一酸化窒素)を合成する酵素がオンの状態に保たれ、脳血管が拡張したことが原因でした。

今後、サーチュインの働きを増強するとされるレスベラトロール(ぶどうの果皮や赤ワインなどに豊富)も同様に認知症を予防できるかを確かめる必要があります。

本研究は厚生労働科学研究費補助金・創薬基盤推進研究(平成24-26年度)と日本学術振興会科学研究費助成事業・挑戦的萌芽研究(平成25-26年度)により支援されました。

※この報道資料は、大阪科学・大学記者クラブの皆様にお届けしています。

【図1】サーチュイン活性化による脳血流維持効果
マウスの両側総頸動脈狭窄手術後の脳血流の推移を示す。(上図)脳血流の疑似カラー表示(赤は脳血流が豊富で、青は脳血流が乏しいことを示す)。コントロールマウスでは頸動脈狭窄後に脳血流が明らかに低下するのに対し、サーチュイン遺伝子発現マウス(サーチュインマウス)では脳血流がほとんど低下しない。(下図)コントロールマウスの手術前の脳血流を100%とした時の、両群マウスの脳血流推移をグラフで示す(各群5匹の平均値)。サーチュインマウスの脳血流は頸動脈の狭窄にも関わらずほとんど低下しない。

【図2】サーチュイン活性化による認知機能維持効果
両側頸動脈狭窄手術後28日目以降におけるコントロールマウス(17匹の平均を示す)とサーチュインマウス(18匹の平均を示す)の、放射状迷路試験における間違いの回数を示す。間違いの回数が多ければ、記憶障害が強いと解釈される。サーチュインマウスは、コントロールマウスに比べて、どのテスト時においても間違いの回数が少なく、両側の頸動脈が細くなっているにも関わらず、認知機能が保たれていることが明らかとなった。

最終更新日 2014年09月24日

最終更新日:2021年09月28日

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