国立循環器病研究センター

メニュー

広報活動

脳卒中専門医の4割が燃え尽き症候群

長時間労働や睡眠・休日の不足が原因、医療事故につながる恐れ

平成26年5月12日

国立大学法人九州大学

独立行政法人国立循環器病研究センター

概要

九州大学大学院医学研究院 脳神経外科学分野の飯原弘二 教授、国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部の西村邦宏室長らの研究チームは、日本の脳卒診療中専門医の4割が長時間労働や睡眠・休日の不足により燃え尽き症候群に該当することを明らかにしました。

本研究の成果は、専門誌『Circulation』の附属誌である『Circulation:Cardiovascular Quality and Outcomes』に2014年5月13日(火)午後4時(米国東部時間)に掲載される予定です。

背景

医師不足が多くの診療科で問題となる中、過酷な労働状況や過大な責任、患者からのクレーム等によって医師が退職してしまう、いわゆる「立ち去り型サボタージュ」などの燃え尽き症候群は医療現場の崩壊につながる要因として新聞等で大きく取り上げられてきました。欧米では4割前後の医師に燃え尽き症候群の疑いがあり、医療事故につながるなど大きな社会問題となってきましたが、日本での全国規模の調査はこれまで行われていませんでした。

内容

九州大学大学院医学研究院 脳神経外科学分野の飯原弘二教授と国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部の西村邦宏室長らの研究チームは、全国の脳卒中治療に携わる脳外科及び脳神経内科の専門医2,564人について、燃え尽き症候群の客観的指標であるMBIスコアを用いて評価したところ、41.1%が燃え尽き症候群に該当しました(図1)。これは一般市民の燃え尽き症候群が2割前後であるのと比較すると2倍以上高い割合でした。長時間労働については、10時間あたり12%燃え尽き症候群が増加し、逆に毎日睡眠時間が1時間増えるごとに20%減少しました(図2、3)。休日と経験年数の増加が燃え尽き症候群の減少と関係し、生活の質(QOL)の低下や時間外呼び出し、患者数の増加がリスクとなっていました。しかし、超急性期脳卒中加算を得ている病院(脳卒中発症後4.5時間以内に組織プラスミノーゲン活性化因子を投与(t-PA静注療法)できる病院)に所属している医師では、燃え尽き症候群の割合は脳卒中診療専門医全体より21%少なくなっていました。

(図1)会社員、公務員、脳卒中診療医師の燃えつき症候群の割合

(図1) 会社員、公務員、脳卒中診療医師の燃えつき症候群の割合

青  燃えつき症候群の割合(%)
赤  重篤な燃えつき症候群の割合(%)
縦軸 燃えつき症候群の割合(%)

(図2)労働時間/週当たりと燃えつき症候群の割合

(図2)労働時間/週当たりと燃えつき症候群の割合

青  燃えつき症候群の割合(%)
赤  重篤な燃えつき症候群の割合(%)
縦軸 燃えつき症候群の割合(%)

(図3)平均睡眠時間と燃えつき症候群の割合

(図3)平均睡眠時間と燃えつき症候群の割合

青  燃えつき症候群の割合(%)
赤  重篤な燃えつき症候群の割合(%)
縦軸 燃えつき症候群の割合(%)

効果・今後の展開

今後は本研究をもとに睡眠時間や休日の増加と労働時間の短縮を進めることで、脳卒中診療医師の燃え尽き症候群を減らし、医師不足を解消することにつなげられると期待されます。

本研究は、厚生労働省「循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業研究事業」脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究より資金的支援を受け実施されました。

この研究の成果は厚生労働省にも情報提供しています。なお、厚生労働省では、平成26年度診療報酬改定において医療従事者の負担を軽減する評価の充実を図り、また、各医療機関において計画的に勤務環境改善の取組を進める仕組みを導入するなど、医療従事者の勤務環境改善のための取組が進められていると聴いています。今後、こうした施策の動向にも期待したいと思います。

(用語解説)
※1 MBI (Maslach Burnout Inventory)
燃え尽き症候群については、クリスティーナ・マスラーク (Christina Maslach) によって「マスラーク・バーンアウト・インベントリー」という重症度判定基準が国際的に広く使われています。
燃え尽き症候群は、職務上の献身的な努力に対して、報われないことを主な原因として、感情的な極度の"疲労感"と"離人症"(自分のまわりがどうなっても構わない、シニシスムとも)を特徴として、仕事上の能率低下をもたらす病態として特徴つけられます。MBIは疲労感、離人症に加えて仕事上の達成感の低さの三つを組みわせることで診断します
医師の場合、極端な疲労による仕事上の意欲喪失、不注意、目の前の患者さがどうなっても構わない、極端な場合は死んでも構わないと感じる離人症状態から、医療過誤、うつ病による退職などにつながることが指摘され、本人のみならず患者さんへの影響も大きいことが知られています

※2 t-PA
t-PA (tissue-plasminogen activator:組織プラスミノーゲン活性化因子)t-PAは、血栓を溶かす作用のあるプラスミノーゲンの作用を増強する酵素です。遺伝子組み換えにより作ったt-PA製剤は出血などの副作用を少なくし、t-PAは血栓自体に作用して血栓を溶かすため、血栓溶解療法に適した薬で、脳梗塞になってから早い段階に使用すると、死亡率、後遺障害の減少につながります。

最終更新日 2014年05月14日

最終更新日:2021年09月28日

設定メニュー