国立循環器病研究センター

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再生型小口径人工血管・世界初の大動物移植に成功

ーダチョウの頸動脈を使って内径2mm長さ30cmを実現ー

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:橋本信夫、略称:国循)研究所の山岡哲二(生体医工学部長)馬原淳(生体医工学部研究員)らの研究グループは、ダチョウの頸動脈を用い、内径2mm長さ30cmという、心筋梗塞治療など臨床的にも利用できる小口径人工血管の開発に成功しました。ミニブタの右足動脈と左足動脈をつなぐFFバイパス術を実施し、抗血液凝固剤を使わなくても、血管が詰まることなく使用できることを世界で初めて実証しました。

この研究成果は、今年11月24日福岡(アクロス福岡)で行われる日本人工臓器学会・12月8日京都大学再生医科学研究所で行われる異種移植研究会などで発表予定です。

長年、細くて長い人工血管が切望されてきましたが、合成繊維や樹脂でできた人工血管は、血液凝固で詰まってしまうために、内径が5mm程度以上のものしか実用化されていません。また、ヒトや動物の血管から細胞成分を取り除いた人工血管でも、同じ理由で直径4mm程度以上の血管しか使用できないとされてきました。

今回開発した人工血管は、食用にも供されているダチョウの頸動脈からダチョウの細胞成分を完全に取り除いて、ヒトに近いタンパク質だけを残したものです。さらに、その血管の内側には、血液凝固を防ぐ血管構造を再生させるペプチド分子がナノテクノロジーによって並べられていて、内径2mmという細さながら血液の凝固を完全に抑止することに成功しました。

今後は、心筋梗塞に対する冠動脈バイパス術や、膝下のディスタールバイパス術などへの適応が期待され、第一世代血管は3年後の臨床応用を目指しています。

icon.jpg これまでの小口径人工血管研究

1970年代から、内径1~3mmで長さが1cm程度の人工血管がいろいろな材料で作られ、ラットの腹部大動脈に移植した後の開存性が報告されてきました。しかしながら、その後、数十年たっても小口径人工血管の実用化はなされていません。ラットと大動物ではいろいろな性質が異なり、ラットで開存するという実験結果が、大動物やヒトでの成果に結びつかないことは、残念ながら認めざるを得ません。また、1cmという短い血管では、移植した後に、両側の正常な血管から内皮構造が再生することもありますが、実際に臨床で使用が期待される15cm以上の血管ではこのようなことは期待できません。

現在でもラットでの移植結果が報告され続けていますが、残念ながら大動物での実証はなされておらず、血液凝固を防ぐヘパリンを使用し予備的な報告が散見されるのみです。現状では、大動物での実証こそが、臨床で使用できる血管であることを証明する唯一の手段と考えざるを得ないわけです。

icon.jpg 研究手法と成果

食用ダチョウの頸動脈(内径2mmから4mm、長さ80cm程度)を用い、当センターで開発された超高圧脱細胞化法(国循:特許4092397)により、コラーゲンなどの細胞外マトリックス構造とその力学的特性を完全に保持したままで、ダチョウ由来の細胞成分を完全に取り除きました。

さらに、コラーゲン層にさまざまな機能性を付与できるナノペプチドプローブ技術(国循:特願2012-237258)により、脱細胞小口径血管内腔面に、血管内皮の修復に重要な役割を果たす細胞を特異的に集めるペプチド分子を配列しました。

得られた小口径人工血管(内径2mm長さ30cm)を用いて、ミニブタ左大腿動脈と右大腿動脈をつなぐFFバイパス手術を実施したところ、たった3週間で、中央部分の内腔までが血管内皮組織に覆われており、血栓の形成は全くなく、血流と拍動を確認しました。世界初の、小口径ロングバイパスの成功例です。

icon.jpg 今後の展望と課題

心筋症や心筋梗塞などの心疾患は、日本の死亡原因の第二位であり、その有効な治療法の開発は国循の大きなミッションです。詰まった心臓の血管を新たに開通させる冠動脈バイパス術は、国内で年間20000例も実施されていますが、小口径の人工血管が開発されていないために、患者自身の正常な血管(内胸動脈や大伏在静脈)を取り出して使用しなくてはなりません。今回開発した小口径血管の完成により、患者自身の体を不必要に傷つけることもなく、手術に適した細さの血管を必要な長さに切って自由に手術に使うことが可能となります。

さらに、糖尿病などにより起こる足の血流の悪化は時には切断を余儀なくさせます。このような末梢動脈疾患を治療するためのディスタールバイパス術への適応が可能となり、多くの患者のQOLを飛躍的に向上させることが期待されます。

来年1月からは、科学技術振興機構大型プロジェクト「戦略的イノベーション創出推進プログラム(Sイノベ)」による大型支援が決定しており、早期の実用化を目指します。

【移植用脱細胞血管】

プレスリリース

最終更新日 2012年11月22日

最終更新日:2021年09月28日

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