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血管生理学部

研究内容
炎症性シグナルに焦点を当てた肺高血圧症の病態形成機構の解明

炎症性シグナルに焦点を当てた肺高血圧症の病態形成機構の解明

肺高血圧症は心臓から肺に血液を送る肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇する疾患で、最終的には心不全(右心不全)へ進行する予後不良の難病です。肺高血圧症患者でなぜ肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇するか、その病態の詳細は未だ明らかになっていません。

マウスを低酸素(10%酸素)に曝露して飼養することで作製される低酸素負荷誘発性肺高血圧症(Hypoxia-induced Pulmonary Hypertension; HPH)マウスの肺組織では、炎症性サイトカインのinterleukin-6(IL-6)が肺細小動脈の内皮細胞、平滑筋細胞で強く産生されます。我々はHPHマウスにIL-6の作用を阻害する抗IL-6受容体抗体を投与すると、コントロール群に比べてHPH病態が有意に抑制されることを見出しました(図1)。更に、我々はIL-6の下流のシグナルを詳細に解析した結果、IL-6が肺組織でTh17細胞を誘導して、主にTh17細胞から分泌されるinterleukin-21(IL-21)が肺内のマクロファージをM2マクロファージへ誘導することで肺動脈平滑筋細胞の増殖を促進することで、肺高血圧症の発症に重要な役割を果たすことを見出しました(図2)。現在、我々はIL-6/IL-21シグナル軸を中心とする炎症性シグナルに焦点を当てて、肺高血圧症の病態解明と新しい治療法の開発を目指して研究を進めています。

IL-21を標的とする創薬研究は、AMED難治性疾患実用化研究事業・希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究(薬事承認を目指す医薬品のシーズ探索研究(ステップ0))に2018年度~2019年度に採択され、さらにAMED同研究事業・希少難治性疾患に対する画期的な医薬品医療機器等の実用化に関する研究((医薬品の治験準備:医薬品ステップ1)に2020年度~2022年度に採択されてます。現在、IL-21を標的としたPAHに対する新しい創薬に向けて当部では一丸となって研究を進めており、国立循環器病研究センター病院肺循環科(大郷部長ら)との共同研究で進めています。

図1

図1: 低酸素誘発性肺高血圧症(HPH)マウスに対する抗IL-6受容体抗体(MR16-1)の効果。低酸素負荷でControlの抗体投与下でのHPHマウスでは肺動脈壁の肥厚が観察されましたが、MR16-1を投与したマウスでは肺動脈壁の肥厚が有意に抑制されていました。

図2

図2: IL-6/Th17/IL-21シグナル軸と肺高血圧症の病態形成のスキーム

関連業績

  1. Hashimoto-Kataoka T, Hosen N, Sonobe T, Arita Y, Yasui T, Masaki T, Minami M, Inagaki T, Miyagawa S, Sawa Y, Murakami M, Kumanogoh A, Yamauchi-Takihara K, Okumura M, Kishimoto T, Komuro I, Shirai M, Sakata Y, Nakaoka Y.*
    Interleukin-6/interleukin-21-signaling axis is critical in the pathogenesis of pulmonary arterial hypertension. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 19; 112(20): E2677-86. doi: 10.1073/pnas.1424774112. Epub 2015 May 4. (*corresponding author)

最終更新日:2021年10月01日

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