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分子生理部

2015年の業績

研究活動の概要

細胞分化・増殖・移動など多様な生命現象の組み合わせにより、複数の起源を有する前駆細胞から心臓・血管の形態形成が行われ、多様な細胞群が協調して働く成熟機能システムを実現するメカニズムは非常に複雑であり、その破綻が先天性心疾患のみならず成人の循環器疾患・脳血管疾患の病因に深く関わることは明らかです。

分子生理部では心臓と血管系の発生・形態形成・成熟機能制御機構の研究、特に発生期に発現する転写調節因子やシグナル伝達分子に焦点を当て、遺伝子組換えマウス解析や細胞生物学・分子生物学的手法を用いた研究を行っています。例えば、Notchシグナル伝達系やbone morphogenetic protein(BMP)-ALK1受容体シグナル伝達系の下流で心臓・血管形態形成を制御するHrt/Hey転写調節因子、胎生期の血管形成に必須である新規の血管内皮膜タンパク質Tmem100などに注目し、その生理的・病態生理的意義と機能メカニズムの解析を進めています。循環器疾患・先天性心疾患・脳血管疾患などの基礎医学研究と先端医療を行うナショナルセンターの一員として、新しい発想・技術を取り入れた臨床的・社会的意義のある研究の推進を目指します。

また、分子生理部では次世代研究者の養成のため、若手医師を含めた研究スタッフや博士研究員のトレーニングに注力し、様々な大学や研究施設で独立研究者として活躍できる人材の育成に努めています。さらに、奈良県立医科大学・立命館大学などとの連携大学院制度を活用して医学・生物学系の大学院教育も行っています。

2015年の主な研究成果

  1. Notchシグナル伝達系は心血管発生に必須の役割を有し、Alagille症候群、CADASILをはじめとするヒト疾患の原因となる。私たちはNotchシグナルの心血管系における主要下流転写調節因子Hrt1/Hrt2/Hrt3(Hey1/Hey2/HeyLとも呼ばれる)を同定し、その生理的意義を報告してきました。本年さらに、Hrt1/Hey1ノックアウト(KO)マウスが大動脈弓離断症等のヒト大血管奇形と酷似する異常を示し、約半数が生後に死亡することを発見しました。Hrt1/Hey1 KO胎仔は第4咽頭弓動脈の欠損を示し、内皮・平滑筋・神経堤細胞の協調による大血管形成の異常が生じていることが示唆されました。現在私たちは、Hrt1/Hey1および他のファミリー分子の細胞特異的機能をconditional KOマウス系統を用いて解析するとともに、その胎生期心血管系における発現制御機構についても研究を進めています。
  2. Transforming growth factor beta superfamilyに属するBMP9とBMP10は、特異的受容体ALK1の活性化により血管内皮の動脈型への分化と血管形態形成を制御します。ALK1受容体と関連シグナル因子の遺伝子変異はヒトの遺伝性出血性末梢血管拡張症・肺動脈性肺高血圧症の病態に深く関与し、ALK1 KOマウスは血管形成異常により胎生致死となります。私たちは近年、小型膜タンパク質をコードするTmem100遺伝子がALK1シグナル系の活性化により発現亢進を示す血管内皮遺伝子であることを明らかにし、そのKOマウスが血管形成異常による致死性を示すことを報告しました。私たちはさらなるALK1シグナル下流遺伝子の同定を目指し、培養内皮細胞を用いたMicroarray解析によるスクリーニングを継続しています。一方私たちは、bacterial artificial chromosome vectorシステムを用いたTmem100の血管特異的発現機構の解析を行い、Tmem100の発現制御に遠位エンハンサーが重要であることを示唆する結果を得ました。現在マウス胎仔におけるTmem100発現制御機構の詳細な解析を行っています。
  3. 胎生期の心血管発生・形態形成に働く転写調節因子は様々な分子と複合体を形成し、その複合体形成パターンの違いにより同一転写調節因子が転写を正負に調節するなどダイナミックな機能変化を示します。私たちは本年、CRISPR/Cas9遺伝子編集によって心血管系の転写調節因子に特異的な標識配列を付与し、標識配列に対する単一抗体を用いて様々な転写調節因子に対する網羅的な複合体構成因子の解析を行う実験システムの導入を行いました。今後CRISPR/Cas9遺伝子編集を用いて作成したモデルマウスを用いて、転写調節因子複合体解析のみならず、その下流ターゲット遺伝子群の同定にも取り組んで行く予定です。
  4. 胎生期の血管新生や成長後の病的血管新生・側副血行路形成は血管構造の著しい変化と立体的な血管網形成ならびに再構築を伴う生命現象です。これらを継時的かつ立体的に観察することは正常もしくは病的血管形成の特徴を捉えるために必須であり、その制御による新規治療法の開発のための基盤情報となります。私たちは本年より、マイクロCT法・組織透明化技術・画像3D構築・遺伝子組換えによる血管蛍光標識などを駆使し、血管形成過程の立体観察技術の開発を開始しています。
  5. 心血管系の構成細胞における細胞内カルシウムイオン動態は様々な発生・形態形成・成熟機能調節機構に深く関与し、その異常は循環器疾患の病態において非常に重要な要素となります。私たちはTRPV2チャネルの心血管系・骨格筋における意義の研究、NCS-1などのカルシウムシグナル関連分子の心筋における機能と意義の研究を行い、その成果を本年発表しました。また、先述のTmem100遺伝子欠損により生ずる心臓形態形成期の内皮・間葉細胞転換障害に心内膜内皮のカルシウムシグナル異常が関与する可能性を示し、内皮細胞におけるTmem100の分子機能解明を目指して研究を継続しています。

研究業績

  1. Fujita M, Sakabe M, Ioka T, Watanabe Y, Kinugasa-Katayama Y, Tsuchihashi T, Manuel F Utset, Yamagishi H, Nakagawa O. Pharyngeal arch artery defects and lethal malformations of the aortic arch and its branches in mice deficient for the Hrt1/Hey1 transcription factor. Mechanisms of Development. Epub, 2015.
  2. Mizuta K, Sakabe M, Hashimoto A, Ioka T, Sakai C, Okumura K, Hattammaru M, Fujita M, Araki M, Somekawa S, Saito Y, Nakagawa O. Impairment of endothelial-mesenchymal transformation during atrioventricular cushion formation in Tmem100 null embryos. Developmental Dynamics. 244, 31-42, 2015.
  3. 渡邉 裕介, 久光 隆, 片山(衣笠)由美, 荒木 睦, 石井 修平, 藤田 匡秀, 坂部 正英, 中川 修. 心血管形態形成におけるHrt/Hey転写調節因子の意義. 循環器病研究の進歩. 36, 74-82, 2015.
  4. Iwata Y, Suzuki N, Ohtake H, Kamauchi S, Hashimoto N, Kiyono T, Wakabayashi S. Cancer cachexia causes skeletal muscle damage via transient receptor potential vanilloid 2-independent mechanisms, unlike muscular dystrophy. Journal of Cachexia Sarcopenia and Muscle. Epub, 2015.
  5. Kobayashi S, Nakamura TY, Wakabayashi S. Calcineurin B homologous protein 3 negatively regulates cardiomyocyte hypertrophy via inhibition of glycogen synthase kinase 3 phosphorylation. Journal of Molecular and Cellular Cardiology. 84, 133-142, 2015.
  6. Nakao S, Wakabayashi S, Nakamura TY. Stimulus-Dependent Regulation of Nuclear Ca2+ Signaling in Cardiomyocytes: A Role of Neuronal Calcium Sensor-1. PLOS ONE. 10, 2015.
  7. Zanou N, Mondin L, Fuster C, Seghers F, Dufour I, de Clippele M, Schakman O, Tajeddine N, Iwata Y, Wakabayashi S, Voets T, Allard B, Gailly P. Osmosensation in TRPV2 dominant negative expressing skeletal muscle fibres. The Journal of Physiology . 593, 3849-3863, 2015.
  8. Kise K, Kinugasa-Katayama Y, Takakura N. Tumor microenvironment for cancer stem cells. Advanced Drug Delivery Reviews. Epub, 2015.

最終更新日 2016年11月01日

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