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分子生物学部

心臓の形態形成、循環器疾患に対するエピジェネティック因子の機能解析

エピジェネティック因子の一つであるポリコーム遺伝子群(PcG)タンパク質は、染色体(クロマチン)の構造変化を制御して遺伝子発現の抑制状態を維持する事により、細胞分化の運命決定、幹細胞の全能性の維持など様々な発生中の行程を制御することが知られています。例えば血液細胞の発生では、造血幹細胞が自己複製を繰り返してその数を増やすとともに、一部は活発な増殖活性を有する多能性前駆細胞へと分化し、大量の成熟血球細胞を産生します。この際、多分化能を持つ幹細胞の維持にPcGタンパク質が重要な働きをすることがわかっています(図1)。

図1

図1 PcG遺伝子は、幹細胞の自己増殖を制御。造血幹細胞、多能性前駆細胞の自己複製異常で分化が進行し、幹細胞が進行性に減少します。


PcGは2種類の複合体(PRC1、PRC2)を形成し(図2)、それぞれ、ヒストンH2A リジン119番目のモノユビキチン化、ヒストンH3リジン27番目のメチル化といった、固有のヒストン修飾を生じて機能することが知られています。哺乳類のPRC1は主に、Cbx、Ring1、Pcgf、Phc、Scm各タンパク質ファミリーをコアとし、更にRYBPなど幾つかのタンパク質がそれに関連する事がわかっています。最近の研究により、複合体を構成する各ファミリー内のタンパク質の組み合わせが、PRC1の機能に特異性をもたらす事が明らかにされつつあります。

図2

図2 PcGタンパク質は、2種類の複合体(PRC1、PRC2)を形成し、ヒストン修飾等を通じて遺伝子発現を制御します。近年、様々なPRC1複合体が存在し、特異的な機能を持つことが明らかになってきました。


心臓の形態形成、心筋分化に対するエピジェネティック因子の機能解析

哺乳類の心臓は、全身に血液を効率よく供給できるように、2心房2心室、流出路、房室管の各領域に分かれた複雑な構造をしています。発生の初期に心臓は、馬蹄形のシート構造を経て単純な管として形作られます。複雑な構造へと形態形成が進行するためには、多分化能を持つ心臓前駆細胞が自己複製能を維持しつつ、未熟な心筋細胞や心内膜に分化、適切な位置に移動して、将来の心室、心房を形成します。未熟な心筋細胞も増殖能を維持し、心室では緻密層と肉中層を形成する成熟過程で増殖能を失います。このように複雑な行程を正確に経るためには、これまでNkx2-5やGata4などの転写調節因子による領域・時期特異的な遺伝子発現の調節が重要と考えられてきました。

私達のこれまでの研究により、転写調節因子のみならず、エピジェネティック因子も心臓発生に重要な働きを持つことがわかってきています。PRC1のコアタンパクの一つであるRae28/PHC1遺伝子欠損マウスは、ヒトの先天性心疾患に関連した心臓形態形成異常を生じます。このマウスをさらに詳細に解析することにより、先天性心疾患が生じる分子機構の一端を解明できると考えています。

成熟心筋細胞の恒常性維持に対するエピジェネティック因子の機能解析

全身に血液を送るポンプとして1日に約10万回の収縮と弛緩を繰り返す心臓は、血圧などの血行動態の変化に応じて、その形状や収縮力を変化させてポンプとしての機能を一定に保つ能力(恒常性)を持っています。成体の心臓は常にメカニカルストレスをはじめとする様々なストレスにより、障害を受ける危険にさらされているため。その恒常性を維持するために、高度な分子機構が存在すると考えられています。最近の研究により、心臓の恒常性を維持するために、成熟心筋細胞も周囲の心筋細胞が供給源となり、その一部が置換されることが明らかにされています。しかしながら、心臓全体の恒常性維持のみならず、確立された心筋細胞の性質維持に対してどのような分子機構で制御されているかまだ不明な点が多く残されています。

私達はPRC1を構成するタンパク質のひとつ、Pcgf5に注目し、これまでPcgf5が発生初期の心臓で強く発現することを見出してきました。Pcgf5遺伝子欠損マウスを作製してその機能を解析したところ、Pcgf5は心臓発生時期よりもむしろ、成熟心筋細胞の機能維持に重要である可能性が出てきています。

最終更新日 2016年07月01日

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