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生化学部

ナトリウム利尿ペプチド・ファミリー(ANP, BNP, CNP) の新たな機能解明

ナトリウム利尿ペプチドは体内に備わるホルモンで、心臓や血管、体液量の恒常性維持に重要な役割を担っています。当研究室では、1984年に世界で始めてヒトにおけるナトリウム利尿ペプチドの構造と機能を発見しましたが、その後の検討によりほ乳類のナトリウム利尿ペプチドは3種類存在することが明らかになりました。最初に見つけた心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)と次に見つけた脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は10年以上におよぶ私たちの研究が実を結びすでに心不全の診断薬および治療薬としてひろく臨床応用されています。2001年には米国のFDAで認可を受けて現在では日本のみならず欧米でもベッドサイドで役立っており、基礎研究から臨床応用まで日本が世界に発信した画期的な成果となりました。現在は1990年に3番目に見つけたC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)を含めて臨床応用を目指した研究を進めています。

(C1) CNPの循環器治療薬としての可能性

CNPは最初に脳内より発見されたことから、脳神経ペプチドとして機能していると考えられていましたが、その後末梢にも存在することが明らかになりました。特に血管壁においては、平滑筋細胞にCNP特異的受容体が多いこと、単球/マクロファージ系細胞および内皮細胞がCNPを産生すること、などから、CNPは血管壁の局所因子として平滑筋細胞の増殖抑制に関与するものと考えられます。実際、血管内膜損傷モデル動物(ラットおよびウサギ)の内膜肥厚に対して、CNPは顕著な抑制効果を示すことが証明できました。また、無毒化したアデノウイルスにCNP遺伝子を組み込み、ラットの血管損傷部位に感染、発現させることによっても内膜肥厚抑制効果を確認しました。これらの結果は虚血性心疾患の患者さんがPTCAを受けた後に一定の頻度で発生し臨床的に問題となっている血管内再狭窄が、CNPの投与で予防できる可能性を示唆しており現在臨床応用を検討しています。さらに最近、CNPを静脈内に投与すると心筋梗塞後の心臓肥大と線維化が著明に改善し、心機能がよくなることを動物実験で明らかにしました。とくに心臓の繊維化は拡張障害や不整脈の原因となることが知られていますが、この病態に特化した治療法は知られていません。CNPは線維芽細胞の増殖を強力に抑制するため心臓線維化治療薬として有望であると考えています。CNPはもともと体内に備わるホルモンであり副作用の心配が少なく、また血行動態に対する影響が軽微で血圧が低いまたは不安定な患者さんにも安心して使用できるため、今後さらに研究を進めて動脈硬化性疾患や心疾患に対する臨床治療薬として確立したいと考えています。

(C2) ANPとCNPによる腎保護作用

ANPは、ナトリウム利尿、血管拡張作用と共に、レニン・アンジオテンシンII・アルドステロン系の抑制、抗線維化、細胞保護など多彩な働きを持つことが知られています。また、受容体型グアニル酸シクラーゼ(GC)の一種でありANPの受容体でもあるGC-Aは、心血管・腎に強く発現していることから、ANPは心血管だけでなく腎臓も強く保護することが知られており、臨床分野では、ANP投与による開心術後の腎障害軽減効果が既に報告されています。私たちは、抗癌剤投与に伴う主要な副作用の一つである急性腎障害に注目し、シスプラチン誘発急性腎障害マウスモデルを作製したところ、ANP投与によって、強い腎保護効果が発揮されることを報告しました。さらに、同じナトリウム利尿ファミリーの一つであるCNPにおいても、同様の効果が認められることを報告しました。今後、腎領域においても、臨床応用に向けた研究開発を進めていく予定です。

(C3) ANPを用いた新しい癌治療法の開発

ANPは、既に急性心不全治療薬として臨床応用されていますが、私たちは肺癌手術の際、手術中より3日間ANPを持続投与することによって、術後の様々な合併症を減らすこと、さらには術後の再発率を減らすことができることを報告してきました。癌転移・再発を抑制するメカニズムとして、ANPは血管の重要な接着分子の一つであるE-セレクチンの発現を抑制することによって、癌細胞の血管への接着を防ぎ、その結果様々な癌腫の転移を防ぐことを明らかにしました。これらの研究成果を基に、私たちは多施設共同無作為化比較試験(JANP study; ジャンプ スタディー)を主導し、2015年6月先進医療B承認の後、同年9月より実際に症例登録を開始しました。今後ANPの“抗転移作用”について前向きに検証を行う予定です。また、ANPの“抗転移作用”は、血管を作用標的としていることから、様々な癌腫に対しても応用可能と考えられます。この新しい“抗転移薬”の開発について、今後癌腫を問わず広い領域に対して、迅速に進めていけるよう、最大限努力していきたいと考えています。

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最終更新日 2016年07月01日

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