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国立循環器病研究センター 冠疾患科
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 
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〒564-8565 大阪府吹田市岸部新町6番1号 
電話:06-6170-1070(代)

コラム

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疾患・治療等コラム

国立循環器病研究センターに求められるPCIとは?

薬物療法の重要性と不必要なPCIの弊害

冠動脈インターベンション(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)が考案されるまでは、虚血性心疾患に対する血行再建術はバイパス手術が唯一の治療法でした。1977年に初めてバルーン血管形成術が行われ、半世紀が経過しましたが、薬剤、デバイスの進歩、治療技術の確立により本邦において25万件のPCIが行われるまで普及しました。しかしながら,無症候性を含めた安定狭心症症例の予後改善効果には否定的な報告が散見され、薬剤溶出性ステントが主流となった現在においても議論が続いています。そこで、PCIの有効性について問題提起した重要な2つの研究をご紹介します。

2000年に行われたCOURAGE試験は、薬物療法と比較してPCIにおける血行再建の有効性が疑問視されるきっかけとなった研究です。冠動脈狭窄を認めている安定狭心症の患者を対象にしており、PCIを行っても薬物治療群と比較して全死亡と非致死性心筋梗塞発症率を改善する事ができませんでした。その後、PCIの適応について多くの議論がありましたが、明確な指針は示されず、各施設に委ねられる時代が続きました。

一方で、FFR (functional flow reserve) を用いて虚血が証明された病変のみに治療を行ったDEFER、FAME試験において、虚血の証明なくPCIを施行すると、周術期合併症が増えるだけでなく、予後改善もできない事が報告されました。言い換えると、冠動脈造影で75%以上の狭窄を認めていても虚血が証明されなければ、薬物療法のみで十分である事が示されたという事です。その結果を受けて、2019年より診療報酬算定要件に虚血証明を行う事がPCI治療において必須となりました。

また、近年報告されたISCHEMIA試験 (Figure 1) において、中等度以上の虚血を認めた病変に対しPCIまたはCABGで治療をしても、薬物療法と比べ予後改善効果がない事が示されました。この試験では、左主幹部および前下行枝近位部の病変を除いているため、慎重な解釈が必要ですが、虚血が証明された病変に治療を行なっても予後の改善を示せなかったという結果は、PCIに携わる循環器医にとって衝撃的なものでした。もちろん、サブグループ解析にいて、心機能低下している患者に対しては、血行再建治療が有効であった事も示されていますので、中枢側病変、心機能低下をきたしている患者さんには従来通りの治療が必要になります。また、薬物療法を選択した20%の患者において、血行再建が必要であったという事を加味すると、病変の進行により血行再建が必要となる可能性が一定の割合である事を踏まえ慎重に外来で症状をフォローする必要があります。このISCHEMIA試験は、画一的に治療を行うべきではなく、一人一人の患者の状況に合わせた方針を決める事の重要性を示してくれています。

薬物療法の重要性と不必要なPCIの弊害

Figure1: 主要エンドポイント CV死, MI, 心停止, 不安定狭心症または心不全による入院
N Engl J Med. 2020 Apr 9;382(15):1395-1407.

バイパス術とPCIについて

PCIは、ステント技術の進化、新規抗血小板薬の普及、標準化された手技と治療戦略の確立により格段の進歩を遂げました。現在では、従来であれば禁忌とされていた左主幹部病変や一部の3枝病変を有する患者においても、バイパス術と比較して遜色ない治療成績を得ることができるようになりました(Figure 2)。当院では、Rota atherectomy、Orbital atherectomy、Excimer laserといったデバイスを使う事で、従来では治療困難であった石灰化病変に対しても安全に治療が可能になりました。しかしながら、日本人は海外と比較すると出血しやすく、高齢化に伴いPCI患者の半分以上は出血リスクが非常に高いグループに属すると報告されています。その中でも、透析を含む重症腎不全を合併している方や、高度石灰化病変、複雑分岐部病変を有する方は、治療が複雑化するだけでなく、出血により抗血小板薬の長期服用が難しくなるケースがあります。

抗血小板薬が服用できないと治療成績が有意に悪化する事が報告されています。そのため、薬物療法でも効果がある事をふまえると、出血ハイリスクの方に対しての治療は、十分に薬物療法を行った上で効果が乏しい時に限り治療を選択する必要があります。

一方で、当院は国内有数の手術が上手い心臓外科医が在籍しており、また緊急でも迅速に手術が可能であるという環境です。そのため、手術侵襲度としては大きくなりますが、長期成績が明らかに良いと予想される場合には、CABGをお勧めする事があります。

バイパス術とPCIについて

Figure2: 主要エンドポイント 全死亡, 脳梗塞、心筋梗塞
N Engl J Med. 2016 Dec 8;375(23):2223-2235.

当院の目指すPCIとは?

デバイスの進化により、ほとんどの患者さんに対しPCIで対応する事ができる時代となりました。しかしながら、長期治療成績や抗血小板薬に伴う出血性合併症についても留意する必要があります。そのため、PCIだけでなく薬物療法とバイパス術といった治療法を常に念頭におく必要があります。患者さん一人ひとりに対し患者背景、冠動脈の状態に合わせて治療方針を決める事が重要です。当院では、心臓外科と定期的にハートチームカンファレンスを行っており難しい治療については方針を決定しています。これからは、PCIの質が問われる時代であり、周術期治療だけでなく、10年20年後を見据えた医療を提供できるよう心がけています。

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