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わが国における加熱式タバコの普及・伸展と急性冠症候群入院患者数の推移
2025年10月15日
概要
従来の紙巻たばこの代替手段として注目を集めている加熱式たばこ(HTP)は、わが国では若年成人(20から49歳)を中心にその普及は急速に進んでいるものの、HTPの使用が心血管イベント発症にいかに影響するかどうかは明らかになっていません。
そこで、情報利用促進部 岩永 善高客員部長、宮崎大学 中井 陸運教授、兵庫県立尼崎総合医療センター 藤原 久義名誉院長らの研究チームでは、HTPの普及が伸展した状況において、ACS入院患者数に対する影響について、検討を行いました。その結果、わが国でのHTPの導入時期である2017年を介入点として、若年層や喫煙者、およびHTP普及率が高い地域において、ACS入院患者数の減少を認めることが明らかになりました。
研究のポイント
- HTPの普及が進んでいる若年患者に限った場合、HTPの導入後のACS入院患者数は、有意に減少を認めました。
- 喫煙患者に限定した場合にも、HTPの導入後ACS入院患者数は、有意な減少変化が見られました。
- HTPの普及が進んでいる東京や10の都道府県において、HTPの導入後のACS入院患者数は、有意な減少傾向がみられました。
背景
加熱式たばこ(HTP)は従来の紙巻たばこの代替手段として注目を集めており、わが国では若年成人(20から49歳)を中心にその普及は急速に進んでおり、たばこ全体の50%以上を占めています。HTPの使用は、従来の紙巻タバコに比べて心血管病に関連するタバコ暴露マーカーの減少が認められると報告されているものの、心血管イベント発症にいかに影響するかどうかは明らかになっていません。
研究成果
本研究では、わが国の循環器診療データベースJROAD-DPCを用いて、日本全国におけるACSの入院患者数の2013年4月から2022年3月までの年次推移を調査ししました。分割時系列分析により、2017年(わが国でのHTPの導入時期)を介入点としてその水準と傾向の変化を評価しました。
全国300の病院における370,178人のACSによる入院患者(平均年齢70.5歳、男性は72.1%)の分析を行いました。ACSの入院患者全体ではHTP導入前後で変化を認めませんでした(図)。しかしながら、HTPの普及が進んでいる若年患者や喫煙患者に限定した場合、HTPの導入後に患者数は有意な減少を認めました。さらにHTPの普及が進んでいる東京や10の都道府県においても有意な減少傾向がみられました。一方で、50歳以上の患者、非喫煙者およびHTPの普及の低い10都道府県の患者群では、入院患者数のトレンド変化は認めませんでした。
今後の展望と課題
本研究から、日本における2017年以降のHTPの普及・伸展は、若年層や喫煙者、およびHTP普及率が高い地域におけるACS入院患者数の減少と関連していることが明らかになりました。このことは、我が国においてACS入院患者に対してタバコ喫煙の影響が大きいことを示唆するものでもあります。HTP普及と心血管病発症との因果関係を明らかにするには、社会疫学的観点からのさらなる研究が待たれます。

図.加熱式タバコ(HTP)普及に伴う急性冠症候群(ACS)入院患者数の変化
(A)総入院数, (B) 20-49歳の若年入院患者数, (C) 喫煙入院患者数, (D) HTP普及率の高い東京11.8%での入院患者数 (E) HTP普及率の高い10都道府県11.6%での入院患者数 (F) HTP普及率の低い地域6.6%での入院患者数
点線はHTP導入時期を示す CI, 信頼区間; Slope, 傾き
発表論文情報
著者:Yoshitaka Iwanaga, Michikazu Nakai, Yoshihiro Miyamoto, Tomoyasu Hirano, Hisayoshi Fujiwara.
題名:Heated tobacco product spread and hospitalizations for acute coronary syndrome in Japan.
掲載誌:JAMA Network Open. 2025; 8(10) :e2537334.
DOI:10.1001/jamanetworkopen.2025.37334
最終更新日:2025年10月15日