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エポプロステノール在宅持続静注療法について

エポプロステノール療法の実際について紹介します。

  1. エポプロステノール在宅持続静注療法とは
  2. 在宅療法を始めるまでの流れ
  3. カテーテルの留置
  4. 携帯型輸注ポンプについて
  5. 自宅で行う作業について
  6. 日常生活での留意点
  7. 発生しやすい問題と対処方法
  8. 安心して治療を続けるために

1. エポプロステノール(プロスタサイクリン)在宅持続静注療法とは

プロスタサイクリンはもともと体内で生産されている物質で、プロスタグランジンと呼ばれる物質の一つです。別名をプロスタグランジンI 2(アイツー)といいます。プロスタサイクリンには主に次のような作用があります。

  1. 血管を拡げる
    →肺の血管を広げることによって肺動脈圧を下げ、血液を流れやすくします。
  2. 血小板が固まるのを防ぐ
    →肺の血管内で血小板が固まるのを防ぐことによって、血管が詰まるのを防ぎます。

これらの作用は肺高血圧症の症状を改善するのに有効です。

しかし、この薬剤は体内に入るとすぐに分解されてしまうため、24時間持続して静注しなければ効果が期待できません。

そこで、携帯型の輸液ポンプが開発され、これを使って持続静注を行う在宅療法が考案されました。

このエポプロステノール在宅持続静注療法は、現在最も効果が期待されている治療法です。すでに欧米では多くの患者さんがこの治療をうけています。

日本でも平成11年にエポプロステノールの使用が認可され、翌年に在宅持続静注療法が健康保険の適応となりました。現在、全国の特発性肺動脈性肺高血圧症患者約300人のうち、半数の150人ほどがエポプロステノールによる治療をうけており、そのうち100人が在宅療法を行っています。

2. 在宅療法を始めるまでの流れ

看護師さんから指導を受けているPPHの患者さんの図

在宅でエポプロステノール療法を始めるまでには次のようなステップが必要となります。

主治医と在宅療法について十分な話し合い(インフォームドコンセント)
矢印エポプロステノール療法は一旦開始すると中断はできません。そのため、エポプロステノール療法を開始するにあたっては、ずっと続けていくといった、強い意志が必要となります。
エポプロステノールの持続静注療法の開始とカテーテルの留置
矢印入院後、エポプロステノールを少量から始めて徐々に増やし、維持量を決定します。持続静注を続けて症状が改善し、状態が安定したと主治医が判断した場合、自宅での治療ができるようになります。
フローランの溶解・作成、ポンプの操作方法等練習
矢印エポプロステノールは感染を予防し、確実に薬剤を注入することが重要です。そのためには清潔に作成し、携帯型の輸液ポンプを正しく安全に使用する必要があります。患者様とご家族は、入院中に清潔かつ確実な手技と知識の習得が必要です。
ヒックマンカテーテルの挿入
矢印 カテーテル装着 長期留置用カテーテル
エポプロステノール在宅療法で注意すべきことは感染を起こさないようにすることです。清潔を保ち、毎日皮膚の状態を観察します。自分の肌に合った管理をすることが重要です。
退院
矢印エポプロステノールの作成・管理が問題なく行われると判断されたら退院となます。
定期的に通院・看護相談
退院したらエポプロステノール在宅持続静注療法が開始となります。外来受診時に希望があれば、看護相談を実施しています。退院後の生活に困ったことがないか、皮膚状態にトラブルがないかなど、安全に安心して在宅療法が継続できるよう援助しています。

3. カテーテルの留置

エポプロステノール在宅持続静注療法を行うには、薬剤を持続的に注入するために、カテーテルという細いチューブを血管内に固定しておく必要があります。カテーテルは鎖骨の下にある静脈から挿入して先端を心臓の近くに置きます。カテーテルの反対側は皮膚の下を通し、胸のあたりから外に出し、出口として固定します。この体の外に出したカテーテルに持続静注用の延長チューブを接続します。通常の衣服を着ていれば、外見上は目だたなくなります。

カテーテル留置経路の図
図9 カテーテル留置経路

4. 携帯型輸液ポンプについて

ポンプ本体の写真

エポプロステノールによる治療には持続静注が必要なため、在宅でも治療が行えるように電池により作動する携帯型輸注ポンプが開発されました。

ポンプは、ポンプ本体とカセットからなり、重さは500g程度です。ボタン操作で投与量を設定することができます。カセットの中に薬剤を入れ、ポンプ本体に取り付けます。カセットに付いているチューブに延長チューブとフィルターを接続し、カテーテルへとつなぎます。

ポンプにはトラブル発生時にアラームが鳴るなどのさまざまな安全機能が備わっていますが、何らかの異常が生じて作動しなくなることがないとはいえません。その場合でも治療を中断することはできないので、常にバックアップ用としてもう1台ポンプを用意しておく必要があります。

一度注入した薬剤は冷却しないと効果が減少してしまうため、24時間続けて静注を行うためには、アイスパックを用いて薬剤を冷却する必要があります。ポンプとアイスパックを一緒に入れられるようなポーチ、ウエストバックを利用すると便利です。

5. 自宅で行う作業

エポプロステノール療法には①開放式②閉鎖式の2つがあります。どちらになるかは主治医が判断します。クリックすると一連の流れが動画で視聴できます。

自宅で行う作業には大きく分けて、薬液の調合、ポンプ・チューブの交換、カテーテル挿入部の管理の3つです。

※動画で使用されている薬品は先発薬品であるフローラン®です。
※当院では後発薬品であるエポ「ACT」®が導入されています。先発薬品フローラン®とは一部管理方法が異なりますのでご注意下さい。

6. 日常生活での留意点

・外出
患者さんの病状によって異なりますが、外出は可能です。外出中に輸液ポンプやチューブにトラブルが起きることもあります。外出する場合は、薬剤の調合や消毒に必要なものひとつにまとめて携帯するとよいでしょう。また1日1回新しくエポプロステノールを調合して薬液カセットを交換しなければなりませんので、数日に渡る外出の際は、やはり携帯してください。
・入浴・シャワー
入浴はカテーテルやチューブがお湯により温まり、エポプロステノールが失活するので望ましくありません。カテーテルの挿入部に防水性のカバーを貼り、シャワーを浴びるか、カテーテルがお湯につからない程度に入浴してください。携帯型輸注ポンプは防水性ではありませんので、水がかからないようにビニール袋等に入れて、脇に吊るしておく必要があります。浴室で転倒すると、カテーテルに強い力がかかり、カテーテルが抜けたり、切れたりするなどの大きな事故につながるので十分な注意が必要です。また、シャワーを浴びた後は、必ず患部の消毒を行ってください。
・通院治療
何か体調に異常があった時に、すぐに診てもらえるかかりつけの医師とは密に連絡を取り合い、いざという場合に備えておく必要があります。またカテーテルが抜けるような緊急時にすぐにみてもらえる病院にも、定期的な通院が望まれます。なお本治療を行う主治医のいる病院にも定期的に通院してください。
・在宅治療に必要なものの管理
薬剤以外の治療に必要なものは、最寄りの在宅治療用具取り扱い業者に連絡し、無くなる前に早めに余裕をもって取り寄せておく必要があります。
・旅行
病状が安定したら病状に応じて旅行も可能になります。
鉄道やバスは不要ですが、航空機は危険を伴うので、搭乗券を手配すると共に航空会社の以下の窓口に連絡し、主治医の診断書を提出する必要があります。

※航空会社には下記のところへ御連絡ください。

  • JALはJALプライオリティ・ゲストセンター
    TEL:0120-747-707(9:00-17:00)
    FAX:0120-747-606
  • ANAはANAスカイアシストデスク
    TEL:0120-029-377(9:00-17:00)
    FAX:0120-029-366
  • JASはスカイサポート
    TEL:0120-085-283(6:30-21:50)
    FAX:0120-277-283

在宅酸素療法を受けている方はやはり搭乗時に携帯ボンベの仕様書を提出しなければなりません。ボンベはテイジンウルトレッサーしか認められていません。ウルトレッサーの貸し出し、仕様書の用意のいずれも酸素業者さんに相談しましょう。
またあらかじめ分かっている場合は、宿泊先に酸素ボンベを届けてもらったり、酸素濃縮器を設置しておいてもらえたりするので、やはり酸素業者に相談しましょう。

7. 発生しやすい問題と対処方法

在宅療法を行っている間、さまざまな問題が起きる可能性があります。日頃から注意して防げるトラブルは起きないようにすることが大切です。

もしもトラブルが起きた場合は、慌てずに対処するように心がけてください。対処しきれない場合は、早めに主治医またはかかりつけ医に相談するようにしましょう。

<合併症・トラブル>
(1) 身体症状に関して

エポプロステノールの副作用

エポプロステノールの副作用には次のようなものがあります。多くは血管が拡がって血液の流れる量が増えることで起こりますが、通常は時間の経過とともによくなります。症状が強い場合や、時間が経ってもよくならない場合は、主治医に相談してください。

症状
対処
あごの痛み、しびれ 軟らかい食事から始める。冷たいものや熱いものは適温にしてから食べる。
頭痛 我慢できない場合、主治医に市販の鎮痛薬を飲んでよいか相談する。24時間以上続く場合は主治医に連絡する。
立ちくらみ、めまい、血圧低下 急に立ち上がらないようにして、しばらく安静にする。症状が続く場合は主治医またはかかりつけ医に相談する。
吐き気 少量ずつ何度かに分けて食事をしてみる。症状が続く場合はかかりつけ医に吐き気止めを処方してもらう。
下痢、腹痛 かかりつけ医に指定された下痢止めの薬を飲む。繊維を多く含む食品は下痢をしやすくなるので避ける。
足の裏の痛み しばらく足を高くしておく。適度な装着感のある軟らかい履き物を履く。
皮膚の紅み(発疹) 直射日光を避ける。
(一定の期間をおいて繰り返しあらわれたり、治療開始から数カ月もたってからあらわれたりすることがある)
むくみ、腹部膨満感 症状が強い場合は主治医またはかかりつけ医に相談する。

カテーテル感染

プロスタサイクリン在宅持続静注療法で最も注意すべきトラブルです。体にとって異物であるカテーテルには細菌や真菌が付着しやすいため、薬剤やポンプ、点滴チューブの取り扱いには細心の注意が必要です。感染すると次のような症状があらわれます。感染していた場合は、入院して抗生剤による治療を行わなければなりません。治療によっても治らない場合は、カテーテルを取り除き、新たに挿入しなおすことになります。

症状
対処
高熱がでる、寒気がする カテーテル感染の疑いがある。
直ちに主治医に連絡のうえ、最寄りの救急病院などを受診する。
カテーテル挿入部の発赤、痛み、腫れ、浸出液

(2) カテーテル、チューブ、ポンプに関して

ポンプのトラブル

ポンプのトラブルなどにより薬剤の投与が中断しても、すぐに効果がなくなるわけではないので、落ち着いて対処してください。再開するときは、それまでの投与速度を守ってください。勝手に決められた投与量や投与速度を変えることはできません。ポンプのトラブルは取り扱い説明書をよく読んで従うようにしてください。

原因
対処
電池の消耗 電池を交換する。
チューブが詰まっている チューブが折れ曲がっていたら元に戻す、クランプがとめられていればはずすなど、詰まっている状態をなおす。
カセット内の薬液が5mL以下に減少 新しい薬液を調合し、カセットを交換する。

カテーテル、チューブのトラブル

トラブル
対処
カテーテル内で血液が固まり、薬液が注入できない 最寄りの救急病院を受診し、その後主治医に連絡する。
カテーテルが傷つき、薬液が漏れ出した 薬液が漏れ出している部分の前後にクランプをとめ、最寄りの救急病院を受診する。その後、主治医に連絡する。
カテーテルが抜けた 直ちに挿入部を滅菌ガーゼで圧迫し、最寄りの救急病院を受診する。その後主治医に連絡する。
チューブの接続部がはずれた ポンプを停止する。はずれた直後に発見し、清潔な状態であれば、アルコール綿で接続部を消毒し、再度接続してもよい。清潔でない場合は新しいものと交換する。

トラブルの結果、おこりうる体調の異変

症状
原因
対処
顔が紅くなる、青白くなる、脈拍を強く感じる、めまいがする、ふらつく ポンプが停止している ポンプを始動する。
カセット内に薬液がない 直ちに薬液を調合し、カセットを交換する。
チューブが詰まっている チューブが折れ曲がっていたら元に戻す、クランプがとめられていればはずすなど、詰まっている状態をなおす。
血液が逆流している チューブの接続部がゆるんでいないか確認する。ポンプやチューブに異常がみつからない場合、ポンプを停止してカテーテルをクランプでとめ、最寄りの救急病院を受診する。その後、主治医に連絡する。
ポンプの流量、設定が間違っている 設定を直す。

(3) その他

トラブル
対処
薬液が手にかかった 薬液を拭き取り、石鹸を用いて流水でよく洗い流す。多量にかかった場合や痛みなどの炎症がみられる場合は、最寄りの皮膚科を受診する。
薬液が目に入った 直ちに目を流水でよく洗い、急いで最寄りの眼科を受診する。眼科には薬液がアルカリ性であることを伝える。
薬液を飲んでしまった 水で口内をよくすすぐ。ただし、意識がない場合には口内になにも入れずに最寄りの救急病院を受診する。

8. 安心して治療を続けるために

物品等の供給体制

ニコニコしている看護師さんの図

在宅治療に必要な物品がどのようにして患者さんの手に渡るかについては、各医療施設により異なります。当院ではセコム在宅医療システム社と委託契約を結び、そこから物品類を供給してもらっています。他にも株式会社ダイヤライフという業者も同様の業務を行っており、そちらに委託している施設もあります。また病院で全て供給している施設もあります。この委託された業者が中に入り物品類を供給するというシステムは、一見複雑ですが理解しましょう。

病院の緊急体制

カテーテルが抜けてしまったり、切れてしまったり、ポンプが予備のものも含めてどうしてもうまく輸注できなくなった時は、長くとも30分以内にできるだけ早く病院を受診し、手当を受ける必要があります。こうした時の緊急体制は各病院の事情や住まいと病院との距離や交通の容易さなどの種々の要素により異ならざるをえません。各患者さん毎に対処法を事前に策定しておいてください。

最終更新日 2014年03月26日

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