KOKUJUN Press No.54
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00108060402≥15cm(n=10)≥12,<15cm(n=16)005 さらに、高い枕と特発性椎骨動脈解離の関連について、首の屈曲が媒介する効果は全体の3割程度であり、寝返りなどの際の頸部の回旋が合わさって、発症に関連する可能性が示唆されました。起床時発症で他に誘因のない、高い枕を使っていた特発性椎骨動脈解離の患者さんは、症例群全体の約1割を占めました(図2)。 脳神経内科の江頭柊平医師、田中智貴医長、猪原匡史部長らのグループが、特発性椎骨動脈解離は枕が高いほど発症割合も高く、またより固い枕では関連が顕著であることを立証し、殿様枕症候群(英語名:Shogun pillow syndrome)という新たな疾患概念を提唱しました。 この研究成果は、国際学術誌「European Stroke Journal」オンライン版に、2024年1月29日に掲載されました。■ 背景 脳卒中は、若年-中年者も特殊な原因で起こることがあります。特発性椎骨動脈解離はその原因の一つで、首の後ろの椎骨動脈が裂けることで脳卒中を起こします。働き盛りの年齢である患者さんの約18%に何らかの障害が残り、根本治療がないことから、発症を予防するため原因究明が求められていましたが、約3分の2の患者さんは原因不明でした。 同研究グループは起床時発症で誘因のない特発性椎骨動脈解離の患者さんの中に、極端に高い枕を使っている人がいることに着目しました。■ 研究手法 国循で2018年〜2023年にかけて特発性椎骨動脈解離と診断された症例群と、同時期に入院した年齢と性別をマッチさせた脳動脈解離以外の対照群を設定し、発症時に使用していた枕の高さを調べました。高い枕の基準は外部専門家の意見から、12cm以上を高値、15cm以上を極端な高値としました。同時に、枕の硬さや先行研究から椎骨動脈解離に悪影響を及ぼす可能性が示されている首の屈曲の有無や、起床時発症で軽微なものも含めて先行受傷機転のない、臨床的に高い枕の使用が発症原因として疑わしい患者さんの割合も調査しました。■ 成果 症例群と対照群を調査した結果、高い枕の使用は症例群が対照群より多く、高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症に関連が見られました。 また、枕が高ければ高いほど、特発性椎骨動脈解離の発症割合が高いことも示唆されました(図1)。この関連は枕が硬いほど顕著で、柔らかい枕では緩和されました。頻度(%)<12cm(n=80)P for trend=0.007非-特発性椎骨動脈解離患者特発性椎骨動脈解離患者枕の高さ(cm)■ 今後の展望と課題 本研究で、高い枕の使用が特発性椎骨動脈解離の発症に関連があり、特発性椎骨動脈解離の約1割が高い枕の使用に起因し得ることが示されました。枕の使用は容易に修正可能なため、予防につながり得る点で意義があります。 また椎骨動脈解離は欧米に比べて東アジアで極端に多いことが知られていましたが、有力な遺伝因子や環境因子の候補は見つかっていませんでした。これまで注目されてこなかった文化的素因が一部この地理的偏在を説明し得る点を示したことも特筆すべき点です。8cmAkatsuki K.Unkinzuihitsu. Vol.4. Chugado,1861,p.120.(Kobe University Library Sumida Maritime Materials Collection,accessed 1 December 2023)16cm枕の高さは長生きには約9cm楽なのは約12cmプレスリリース枕の高さ≥15cm17%殿様枕症候群9.4%起床時発症25%枕の高さが高いほど特発性椎骨動脈解離患者の割合が多い17-19世紀には殿様枕と呼ばれる高く硬い枕が広く流通一方、1800年代の複数の随筆に「寿命三寸楽四寸」という本研究の知見と一致する諺が広く知られていたと記載あり臨床的に、高い枕の使用に起因すると考えられる特発性椎骨動脈解離患者の割合は約1割枕の高さ≥12cm軽微なものも含めて先行受傷機転がない34%58%殿様枕症候群11.3%起床時発症25%(図1)枕の高さごとに症例群と対称群が占める割合 日本には殿様枕という高く硬い枕が17−19世紀に使われていました。髪型を維持するのに有効だったとされ、広く庶民の間にも流通していたようです。1800年代の複数の随筆には、「寿命三寸楽四寸(12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが9cm程度が早死にしなくて済む)」という言説があったと記載されています(図3)。当時の人々は高い枕と脳卒中の隠れた関連性を認識していたのかもしれません。 同研究グループは、今回示した患者さんたちが特有の疾患像を有することを考慮し、暫定的な疾患概念「殿様枕症候群(Shogun pillow syndrome)」を提唱しました。何気ない睡眠習慣が脳卒中の重要危険因子になることが広く認識され、脳卒中で困る患者さんが少しでも減ることを期待しています。(図3)(図2)①高い枕の使用、②起床時発症、③先行受傷機転がない、の3条件を満たす特発性椎骨動脈解離患者の割合軽微なものも含めて先行受傷機転がない58%Press Release―特発性椎骨動脈解離と高い枕の関係と、殿様枕症候群の提唱―枕が高いと脳卒中になる?

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